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最強のハッピーエンド

―――――――――――


「…………あのさぁ」


俺は、半ば呆れた感覚で、やつに問いかけた。


俺の体から分離し、実体をあらわにしたゼノンは、腹をかかえながら笑っていた。


「あれってさ……ラスボスを倒すっていう、超重要な場面だったわけじゃん」


「ええ、ええっ……ふふ、そう、ですねっ……」


「それなのにさ、なに、あれは。なに、ゼノンセイバーって」


「転生者大会の時に見せたじゃないですか。私の罵倒が聞けるパーティグッズですよ」


「そんなことが聞きてぇんじゃねー!!」


もうマジでなんなのこいつ。


相手は宇宙創生前の高次元の何かで、全宇宙やら全世界線に干渉することができて、神々をいくつも滅してきた存在だったってのに。


こいつは何を思ったのか、【ゼノンセイバー】(2000ゼニス)とかいうパーティグッズで倒しやがった。


「なんであんなドンキ○ーテとかに売ってそうな剣で絶望神倒してんだよお前は!!」


「だから転生者大会のときに説明したじゃないですか。「『かみ』くらいなら斬れますよ」って」


「ペーパーナイフ的な意味じゃなかったのかよっ! まさかの神殺しの剣かよっ! てかそんなもの2000ゼニスで売ってんじゃねぇーー!!!」


「いつになく気が立ってますね。最近の若者はキレやすいというのは本当だったみたいです」


やれやれと言った立ち振舞いで鼻で笑うゼノンに、俺が狂犬の如く唸っていた、その時。


「ぐっ……ぅ」


倒したと思っていたアペルデゼスが、ゆらりと起き上がった。


「おや、やっぱりパーティグッズでは致命打にはなりませんでしたか」


さも分かりきっていたかのように、ゼノンはいつもの狐のような笑みを浮かべた。


対し、アペルデゼスは、突き刺さったままのゼノンセイバーを引き抜くと、その場に投げ捨て、言った。


「ふ、ふふっ……我を倒したところで……もはや手遅れ……だろう……」


傷口を押さえながら、口角をあげるアペルデゼスに、ゼノンは「はい?」とだけ返す。再び、不穏な空気が、空間を占めた。


「貴様らが我を倒したところで……これまでの間に……多くの犠牲があった……わけだ」


多くの犠牲……。その言葉に、俺は返す言葉を失った。


結局、俺たちが救えたものは、あくまで俺たちの手が届く範囲だけ。この世界が絶望の世界と化してからは、きっと俺たちの目が届かないところで、あらゆる惨劇が繰り広げられていたに違いない。


―――それこそ、俺がさっき見せられた、悪夢のように。


「今もきっと、世界のどこかで、泣いている者がいるだろう。たかがひとつやふたつの絶望をはね除けたところで、過去の悲劇は変わらない。転生者たちは、取り返しのつかないことをしてきたのだ……!!」


その、どうにもならない絶望に対し、絶望の権化は愉悦とばかりに笑った。


「……やれやれ」


その笑い声を嘲笑うこの如く、ゼノンは半笑い気味に言った。


「……どうした、 異次元の者よ。まさか、この世界を再構築する気か。……ふっ、貴様ならそれをすることも可能なのだろう。だが―――――」


アペルデゼスは目を見開き、その口を半月上に歪ませて、勝利を宣言するかのように言った。


「それはもはや、『貴様が造り直した世界』だ。そこにオリジナルはない。ただのお人形遊びだ」


ゼノンがやろうと思えば、この世界を再構築し、今まで苦しんだ人たちを、再びもとに戻せる……が、それをしてしまえば、もはやこの世界は『偽り』と化す……。


単なる言葉遊びや、認識のあり方の違いに過ぎないはずなのに、それはとても重く、目を背けたくなる現実だった。


「ほら、どうした? 再構築しないのか? それとも、やはり貴様の哲学に反するか?」


煽ります続けるアペルデゼスに、ゼノンが出した答えは―――


「ええ、反しますね」


そう言って、首を横に振った。


「ククク……そうだろう、そうだろう。こればかりは、どれだけの力を持とうと、無駄……」


「そりゃ反しますよ。『できるだけこの世界の人間を使ってクリアする』って考え方にね」


そこで、アペルデゼスは笑うのをやめた。


「何の話をしているんだ貴様……再構築に対する、理念との相違が貴様を縛るという話では……」


「は? 違いますよ。というか、再構築なんてめんどうなこと、したくありませんし」


そういうと、ゼノンは後ろを振り向いて、言った。


「君も、再構築なんてされるのはごめんでしょう? ユート君」


ユート、と呼ばれたその名前に、俺は思わず、


「ユートっ!?」


と、叫んでしまった。だが、そこからさらに驚くことに。


「……当たり前じゃないか。僕は僕だ。誰の干渉も受けたくないね」


空間の奥から、ユートがこちらに歩いてきているのが確認できた。


「な、なんでユートが……? エクスカリバーの一撃をくらったら、ひとたまりもないはずなのに……」


聖剣エクスカリバーは、当たれば一撃で倒せる。そんなチート武器で斬られたはずのユートは、なぜか普通に歩いていた。


「彼は確かに、エクスカリバーを受けました。けれど、一撃ではやられなかった。結局、どこまでいっても、彼は『幸運』だったわけです」


「エクスカリバーの『一撃必殺』が、あの時、不発に終わっていたってことなのか……」


ゼノンの解説に、俺は素直に納得してしまった。そんな中、ユートが目の前まで来て、言った。


「どうやら、アペルデゼスを倒したようだね。おかげで僕を蝕んでいた悪意も、取り払われたようだ」


そう言ってにっこり笑うユートに、俺は目頭が熱くなるのを感じながら、


「……おかえり、ユート」


震える声で、仲間の帰還を称えた。


「なーに泣いてるんですかコータ君。ユート君が復活したところで、まだこの舞台の役者は揃っていませんよ」


そう答えるゼノンに、俺は「へ……?」とまぬけな反応を返すと。


「君も早くこちらへ来たらいかがですか、イスケ君」


今度はなんと、『イスケ』の名を呼んだ。


「え、えぇ……? 自分っすか? というか、なんでこんなとこに連れてこられたんすかね……うぅ、吐きそう」


どこか懐かしい声がしたかと思うと、先ほどまでユートがいた場所に、イスケがいた。


「おーい、イスケ、こっちだ!」


ユートが手を振り、かつての仲間を呼ぶ。その声に、イスケは頭を掻きながら、しぶしぶと歩いてきた。


「ユート君に……あれ、コータ君も? え、ここなんなんすか? なんでみんないる……ってかあれ、自分はそもそもさっきまで何をしていたのか……」


困惑するイスケに、ゼノンは言った。


「大会で殺されてましたよ。まぁ現世の次元での話ですけど。君の遺体は、いったん王都に預けられた……。そう、つまりはこのお城にね」


ゼノンが指をパチン、と鳴らすと、白い空間が晴れていき、再び玉座の間へと切り替わった。


そういえば、ここは王都の城だった。俺たちがいた次元では、ここに管理されていたイスケの遺体は、こちらの次元ではピンピンしていたわけだ。


「うひゃぁ、自分死んでたんすか? こっわ、異世界こっわ……! ユート君、コータ君、早く帰りましょうよこんなとこぉっ!」


泣き言を言い始めるイスケの姿は、時雨の森で見たときと変わらなかった。そんな懐かしい姿に、俺はさっきと同じように、


「おかえり、イスケ」


と、笑って言った。


「さて、役者は揃いましたね」


ゼノンはそこでコホン、とわざとらしく咳払いすると、唖然とし続けるアペルデゼスを彫ったらにし、まずはイスケに問いかけた。


「イスケ君は、もとの世界に帰りたいですよね」


「帰りたいっすよ……。なんかだんだん思い出してきましたけど、この世界はすごく厳しかった気がするんで……」


「君の《クロノスの加護》って、死ぬ直前に、死より少し前の時間に戻れるんでしたよね」


「え、そうすけど……」


「その『死ぬ直前』の出来事と『死より少し前に戻る』って、必ず一致した関係性じゃなくてもいいんですよね」


「え……?」


あれ、なんかゼノンがややこしいこと言い始めたぞ?


「おい、ゼノン、もっと分かりやすく言えよ」


「そうですね。例えば私がイスケ君を殺そうとしたとして、加護が発動した場合、どこまで戻りますか?」


「……そりゃあ、白い空間から玉座の間に移り変わったあたりからリスタートすんじゃないのか?」


「誰がそんなこと決めたのです? 別に転生者大会で、コータ君がイスケ君を殺そうとしたあの瞬間でもいいじゃないですか」


「……つまり、殺害の時間や原因に関係なく、『イスケに死が訪れる少し前』の時間だったら、どこでもいいはずだ、と?」


「ええ。実際に、君たちは前にアペルデゼスと戦った時から一年も遡ってますしね」


なんてむちゃくちゃな……! 直前の殺害とリスタート地点にズレがあってもいいだなんて。……だが、クロノスの加護には、死とリスタートの関連性については説いていない。


そんなことを考えていると、ゼノンは、今度はユートに言った。


「ユート君、君にとって都合のいい終わりって、なんですか?」


「そうだね……この世界が絶望世界にならず、しっかりと神々の監視を受けた状態になること、かな。あとはイスケの言うように、もとの世界へ戻りたいね」


「君がそう思うなら、きっとそうなりますよ。……例えば、このまま時間が戻ったときに、『偶然』そのことを神々が感知する、とかね」


ユートは、絶対にが言わんとしていることが分かったらしく、クスクスと笑い始めた。


唯一、状況を把握しきれていないアペルデゼスが、震えた声で、ゼノンに聞く。


「なんだ……いったい、なにをしようと……!」


その問いに、ゼノンはにっこりと笑って。


「今から、この城を爆破します」


愉快そうに、言い切った。


「な、なに、どういうことだ……!!」


「爆破したら、おそらく《クロノスの加護》が発動することでしょう。……ところで、ユート君は、この世界の平和を望んでいるようなのですが、そもそも転生者たちが現れなければ、こんな世界になってませんでしたよね」


「……貴様、まさかっ!」


アペルデゼスが慌て始めるのをよそに、ゼノンは右手を上に上げ、言った。


「『死ぬより少し前の時間』……。イスケ君が、事故に遭って死亡して転生する前の時間も、その分類に入りますよね」


「あっ……!」


イスケが驚愕の声を漏らす横で、俺もまた、口をあんぐりと空けていた。そんな中、ゼノンは言った。


「ユート君は『幸運』なので、イスケ君の力が『偶然』覚醒し、それだけ遡ったとしても、おかしくありません。そうなれば、滅された神々は、もう力を持っていないので、普通に時間の干渉を受け、復活することでしょう」


「おいっ……待て……!!」


止めようとするアペルデゼスに、ゼノンはさらに続けた。



「時間逆行後の世界は、ユート君の望む通り、イスケ君の力が『偶然』、神々に感知され、その過程で神々は、アペルデゼスを見つけるでしょうね。イスケ君やコータ君のような大事なお友達は、転生の原因となる現世での『不運の事故』を回避するのです」


『時間』と『幸運』のコンボで、次々にあらゆる問題が解決していく。もはや、今までに起きた全ての絶望は取り払われ、修復されてしまうわけだ。


そして、ゼノンは、唯一『絶望』するアペルデゼスに向かって、言った。


「ああ、そういえばあなたは、時間の干渉を受けないんでしたね。まぁ、このあと私の爆破を受けて瀕死になるであろうあなたが、逆行後の世界で神々の監視を抜けられるとは思いませんが……。せいぜい、頑張ってくださいね!」


「やめろぉっっ――――――!!!」


絶叫するアペルデゼスを差し置いて、ゼノンの右手が、光を放った。

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