表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/114

埋め尽くす黒に

「なんだと……?」


俺がアペルデゼスを見据えながら、しっかりとエクスカリバーを構えると、やつは言った。


「お前が我と最初に戦ったときも、そうやって立ち上がってきた。あの時お前は瀕死の状態で、周りの仲間も虫の息だったにも関わらず、だ」


アペルデゼスの含み笑いが、徐々に不快感を示す顔つきへと変わっていく。


「そのお前の剣が、『約束された勝利』をつかむために力を発動したのか、あるいは『幸運』の転生者の力が働いたか……。あの絶望的な状況で、我がいたにも関わらず、《クロノスの加護》が発動した。一年もの時を遡るほどに、強力にな」


「そうか、イスケの加護が……」


死ぬ前の時間軸へと移る、イスケが神から授かった加護。それが、ループの原因だったのか……。


今思えば、おそらくあいつも、『禍気』によって、あの状態になってしまったのだろう。俺はその事実に、唇を噛んだ。


「……だが、ループした世界でも、その干渉を受けないものはいた。もともと、この世界にはいないはずの人間や、この世界から外れた神の存在……そして、我だ」


アペルデゼスは、そこで再び口角を上げると。


「おかげさまで、再び転生してきた者の何人かを悪に染めることができた。我の力の源は『絶望』だからな。礼を言うぞ、転生者よ。繰り返された期間で、我はさらに強大な力を得ることができた」


「てことは、やっぱり、お前が……!」


イスケ、ユート、レイはもちろん、他の転生者に悪意を埋め込み、ただでさえ絶望的なこの世界に、さらなる暗い影を落とした、諸悪の根源は。


「いかにも。我こそが、この絶望世界を造りし者にして、遥かなる悠久の時を渡ってきた、あらゆる神を超越せし存在……。絶望の神、アペルデゼスである」


その不気味なまでに白い翼を広げ、高らかに笑った。


「……コータ君も厄介なのを相手にしましたねぇ」


ポケットに手を突っ込みながら、ゼノンが小さく、ため息をついた。そして、俺の目をまっすぐ見ると、言った。


「絶望の神は、宇宙誕生前から存在する、私と同じ『高次元の何か』です」


「……マジかよ」


背中に嫌な汗が伝うのを感じながら、俺は言った。


「その絶望の神が、なんでこんなとこにいるんだよ」


俺の問いに、アペルデゼスが答える。


「我は一度、神々に討伐されている。ゆえに、『神々から見放された世界』というのは、鳴りを潜めるには格好の場所だったのだよ」


なんてこった……。この世界はどうやら、どこまでも運が悪いらしい。よりによって、絶望の神に目をつけられるなんて。


「……ゼノン、こんな奴、さっさと倒すぞ」


俺がゼノンに呼び掛けると、代わりにアペルデゼスが言った。


「無駄だよ転生者。そこの高次元の存在ごときでは、私を倒すことはできない」


「なに……!?」


「なぜなら、すでに絶望の気が、この世界を埋め尽くしているからだ」


今までで見たこともないほどの、邪悪な笑みを浮かべるアペルデゼスに、俺は、唾を飲み込むと聞き返した。


「……どういうことだ」


「簡単だ。今この世界のあらゆる場所で―――――いや、全宇宙の、あらゆる世界で、お前に見せたような絶望世界と、同じことが起きようとしている。お前たちがここに訪れる前、大量の邪神と遭遇しなかったか?」


「っ……!?」


思わず、声にならない声を上げる。その横で、ゼノンが不機嫌そうに顔を歪めた。


「悪いな、転生者。お前たちがループしてくれたおかげで、我の力は信じられないほどに高まった。かつて、神々に滅ぼされた時よりもな。――――その力で、いくつかの世界の神々は、すでに滅している」


気が遠くなるような規模の災禍に、俺は肩を震わせることしかできなかった。


アペルデゼスは、すでに神を滅ぼしている、と言った。そんな規模の相手を前に、俺はどう戦えばいいのだろう。


「神々を滅した際の絶望は、何よりも大きい……。それらを吸収した我に、不可能はないのだ」


アペルデゼスの言葉が本当なら、今頃、この異世界のあらゆるところで、邪神が大量に発生していることになる……。そんな存在を、一般の人間がどうにかできるわけがない。




もう、何もかもが遅かった。





「転生者。お前に見せた、あの地獄のような光景が見れるぞ。やはり、お前は救えなかったのだ」










「じゃあ、とりあえずその光景、見てみます?」








ゼノンが、さっき使っていた昭和のテレビを、ぼん、と床に置きながら言った。


「……ゼノン、本気で言ってるのか。俺は、その凄惨な光景をさっき、アペルデゼスに見せられたんだぞ……!!」


「まぁまぁ落ち着いて。じゃ、テレビ付けますね」


ポチッとな、と、古い言葉を吐いたゼノンは、空気も読まず、テレビのスイッチを入れた。


―――――――――――――――――


「お姉ちゃん……お姉ちゃんっ……!!」


羊飼いの少女が、姉の名前を連呼しながら、後ずさる。


「大丈夫、何があっても、私が守るからね……!!」


目の前の脅威を相手にしながらも、その姉――――ソフィアは、力強く言った。


その二人に、複数の人間の体を混ぜたような、歪な形の影が何体も迫る。


彼女たちに戦う術はない。ただひたすらに、自分たちの身を守ることしかできない。


逃げたところで、その影は至るところに存在している。姉妹の前には、どうあがいても、絶望しかなかった。


―――――それでも。


「……えいっ!」


少女は、小さな石を、邪神に投げた。


「ポーラ……!!」


驚く姉に、妹は邪神を睨み付けながら、言った。


「きっと……きっと今、お兄ちゃんたちが、頑張ってる。私には分かるんだ……。お姉ちゃんも、そうでしょ?」


「……ポーラ……」


妹の問いかけに、ソフィアはこくりと頷くと、その場に落ちていた、小さな木の棒を手にして。


「そうね、きっとコータさんたちも戦ってる。何もしないままで終わるなんて、そんなの嫌……!」


――――せめて、他の人たちが逃げる時間だけでも稼げるなら。


「最後の一秒まで、抗ってやるんだからっ……!」


そう考える、二人の小さな英雄のもとに。


『そうです、その意気が必要なんです!』


奇跡は、訪れた。


「え、あれ……今の声……」


「もしかして、ゼノンさん……?」


姉妹が困惑する中、ゼノンは『はいそうです』とだけ答えると、まずはポーラに言った。


『ポーラさん。邪神なんか、あなたの敵ではありません。クッキーを焼く方が、よっぽど大変ですよ。なぁに、たかが絶望です。そんなものは、サッカーボールにでもして蹴飛ばしてしまいましょう』


「さ、さっかーぼぉる……?」


困惑し続けるポーラを差し置き、今度はソフィアに言った。


『ソフィアさん、あなたは聖職者を目指しているのでしょう? だったらこんくらいの絶望くらい、簡単にはね除けちゃいましょ。あなたほどの人間が『絶望』とかいう、つまらないものに負けるはずがありません。さぁ、やっちゃいましょう』


「つ、つまらないもの……?」


ソフィアが、そう返したその時。


姉妹の体が、突然光りだした。


「え、ちょっと、お姉ちゃん……これなに!?」


「わ、分からない、けど……!!」


二人の服が、どんどん、この世界とは違うものへと変わっていく。


カラフルな色合いに、胸元に大きな宝石。スカートはふんわりしていて、手には謎のブレスレット。


やがて、光が消え、二人の変身が終わると――――


『さぁ、二人とも、絶望に殴り込みしちゃいましょう。大丈夫、今のあなたたちは、不思議な力を得たスーパーヒーロー……『魔女娘☆てぃらみすっ!』 なのですから!!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ