ナイトメア・モード
チート能力で、異世界ライフを謳歌できる……。占い師からの言葉を聞いた俺は、なんの疑いもなく、そう思った。実際、誰にも負けるはずがないと思っていた。
だが、その思想は、最初の町で即座に潰された。町の中心部から、人々の悲鳴が聞こえたのだ。それはどれもひどく短い悲鳴で、「あ」と、表現するのが正しいだろう。
不穏な空気を感じ取った俺が、悲鳴の聞こえた場所へ向かう。暴漢が悪さをしているのか? まさかモンスターに侵入された……? あらゆる可能性を考慮しながら、足を運ぶ。
だが、いざたどり着くと、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
日本人顔の巨漢の男が、顔を真っ赤に染めながら、禍禍しい色の球体を射出していた。そして、その球体が直撃した町の人は、小さく悲鳴を漏らすと……『消えた』。その要領で、次から次へと、人々が消えてゆく。周囲はパニックに陥り、中にはその場に崩れて泣き始める人もいた。
巨漢の男はぶつぶつと「僕の悪口を言うな……僕はすごいんだ……」と繰り返していた。俺は考えるより先に、エクスカリバーを引き抜くと、巨漢の男に向かって、放り投げていた。
「僕をバカにするやつは許さない……許さな、あプェ」
エクスカリバーは男の首をはね飛ばすと、光を放ちながら消え、俺の手元に再び戻った。俺は初めて人を殺めたことと、かつて自分がいた国、[日本]と同じ系統の顔をした男に、ショックで足から崩れ落ちた。震えが止まらなかった。
あれは、明らかに『転生者』だった。
自分と同じ存在がいる。しかも、その存在は、チート能力を悪用していた。おそらく、住民の誰かが悪口を言ったのが、発端なのだろう。だが…………だが、そうだとしても。
「消す必要なんて……ないじゃないか……」
俺の周りには、残された人たちの、鎮痛な台詞が飛び交っていた。きっと、暴走した転生者のチートによって、関係のない人たちまで消されてしまったのだろう。呆然と立ち尽くす人、狂ったように大切な人を探す人、泣き崩れる人……。様々な絶望が、そこにはあった。
ーーお父さん、どこ? 僕を置いてかないでーーーーリリィ! リリィっ! 誰か、俺の婚約者を見つけてくれ……!ーーーーああっ! 私の息子を返して!ーーーーー
俺は、頭がおかしくなりそうになるのを必死に抑え、逃げるようにその町を出た。
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その後も、度々『転生者』と対峙することとなる。どれもチート能力持ちなので、当然、一筋縄ではいかない。時には死を覚悟したことさえあった。それでも、この一年間、なんとか必死に生き延びてきたのだ。…………あの村にたどり着くまでは。
俺があの村に滞在して一週間が過ぎたとき、ふと、外から羊の断末魔が聞こえた。民家で、ポーラ、ソフィアの姉妹と談笑していた時の出来事だ。
慌てて外に出ると、間髪入れずにあのレーザーが飛んできた。《獅子王の加護》により、軽やかな剣裁きでそれを斬る。斬られたレーザーはそこでバツン、と鈍い音を鳴らして、消滅した。俺の後ろで、姉妹が震えているのが感じ取れた。
「おや、お前『転生者』かぁ~? てかなんだよその剣。攻撃を打ち消す補正付きかよ。うぜぇなぁ」
あの残忍な転生者の一言目はそれだった。だが、転生者は、あ、そうだ、と言って手を叩くと、
「お前、魔王軍につかない? お前も分かってんだろ? この世界の転生者は、ほとんど《敵》であることがさぁ」
と、続けた。
「そんなことは分かってる。でも、そっちについてない転生者だっているはずだ。俺はお前らのようなゴミ屑には負けない。真っ当な転生者と共に、お前らを抹殺してやる」
村を守るため、俺は奴の要求をはね除けた。その言葉が琴線に触れたのか、転生者は「じゃあ死ね」とだけ言うと、レーザーを放ち始めた。全てのレーザーを、必死にエクスカリバーで捌く。しかし、それも僅かな時間の話だった。
「羊が……私たちの羊が……」
ポーラがそう呟きながら、転生者によって殺された羊の方へ、フラフラとした足取りで近づいてしまった。転生者はそのスキを見逃さず、ポーラへレーザーを放つ。俺は必死にそれを防いだが、ソフィアにまでレーザーが放たれていたことに気付かなかった。
俺から少し離れた位置にいたソフィアに、光が迫る。俺は死に物狂いでソフィアの前方に剣を投げ、間一髪防いだ。……だが。
転生者は再びレーザーを俺の方へ放った。俺の手に、エクスカリバーはまだ戻ってきていない。《獅子王の加護》は、剣を持ってして、初めて捌ける効果が発動するのだ。今の俺では、防ぎようがない。
そして為す術もなく、レーザーは足に直撃した。加護で、百分の一までダメージを抑えているはずなのに、貫通した。地獄のような痛みが、俺の足を襲い、そして……。
そこで、俺の意識は途絶えた。次に目が覚めた時に、絶望にまみれた地獄のような光景を見せつけられることも知らずに。




