主人公補正VS人類最強能力
ゼノンはそれだけ伝えると、『じゃ、あとは頑張ってくださいね』と残し、それっきり何も言わなくなった。
主人公補正だ? いきなりそんなメタ能力の説明されても困るんだけど?
だが、さっき傷を負ったばかりの腕が、ギリギリで都合良く動くようになり、偶然剣で防げたのだ。これを、主人公補正と言わずしてなんと言うのか。
つまり、ここからはご都合主義とラッキー転生者の幸運対決というわけだ。
「……いいぜ、のってやるよ」
俺は、聞いているかも分からない高次元の相棒にそう呟くと、
「悪いな、ユート。俺も実は、運がいいんだ」
そう言って、エクスカリバーを再び構えた。
「そ、それはどういう」
「うるせぇ、いくぞ!」
明らかな焦りを見せるユートに対し、間髪入れずにエクスカリバーを振る。向こうがなんとか防ごうとするも、先ほどのように、何か特別なことが起きることもない。
「くっ……なんで、なにも起きない……!?」
「お前が幸運だってんなら、主人公補正付きの俺はなんかもっと幸運だ!」
自身がが主人公であるという認識に若干ハイになりながら、さらにエクスカリバーを振る。だが、まだ向こうも幸運状態にあるのか、それをギリギリで防ぐ。
「君は何を言ってるんだ!? それに、どうしてこんなことが……!?」
退くユートを見ながら、俺は、心の中でほくそ笑んだ。
『どうしてこんなことが』だって? そんなの簡単だ――――
「ピンチになったら、なんか覚醒するし、なんか逆転するし、なんか最後には勝つ! それが主人公ってやつなんだよぉーーーーっ!!」
そう言って、俺はエクスカリバーをはらった。
そこから先は、どれだけ剣を打ち合ったか分からない。
片方が攻撃すると、もう片方が都合よく回避する。
片方が何かを発動しようとすると、失敗に終わるか、幸運にも改心の一撃が繰り出される。……が、やっぱり致命傷にならない。
そんなもどかしすぎる戦いをしばらく続けたのち……。
「がぁっ……!!」
とうとう、防ぎきれなくなった一撃が、ユートに直撃した。今までまともに当たらなかった攻撃が、なんかよく分からないけど、主人公の強い思いとかうんたらかんたらで当たったのだ……! ……何を言ってるんだ俺は。
「はぁ……はぁ……。み、見たかっ……! これが主人公の力だっ……!」
めちゃくちゃなことを言ってる自分に違和感を覚えながら、俺はとりあえずそれっぽい台詞を言った。
「ぐっ……なんだ……それ……は……」
ユートはそう言いながら、ばたりと倒れこんだ。
かつての仲間との戦いは、主人公の奇跡により、こうして幕を閉じた。
「さすがコータ君ですね。仲間だった存在を手にかけることに躊躇がない」
いつの間にか実体化していたゼノンが、倒れたユートを見ながら俺に言った。
「人を悪人みたいに言うな。……あいつはもう、悪意にのまれていた。アリスやレイみたいに、自分の善悪の中で苦しむくらいなら、さっさと決着着けてやった方がいいだろ。多分、それがあいつにとっての『幸運』だろう」
俺はそう言って、顔を伏せた。あいつにとっての、本当の都合のいい展開とはきっと、自分の最期を見据えたものだったに違いない。
でなければ、俺たちはここまで、来れていないはずだから。結局、あいつの能力は最後まで、しっかり機能していたわけだ。
「……だからこそ、この先にいるあいつを、絶対に倒す」
「……そろそろ、真のラスボスを思い出しましたか、主人公君?」
ゼノンにそう問いかけられた俺は、辺りを見回し、ゆっくりと目を閉じた――――
あの時、戦っていた存在。
そして、俺が敗北した存在。
そう、あの時、この場所で、戦っていた、『真の脅威』とは―――――
そこで俺は目を開くと、自分のいる場所が、玉座の間ではなく、すでに違う場所であることに気が付いた。
そこは、今まで見た、どの空間よりも白く、何もない場所で。
どこまでも広く、自分がどこにいるのか分からなくなるような、不思議な空間。
そんな空間の中に、声が響き渡った。
「ようこそ、転生者。前に会ったとき以来だな」
それは、前にも聞いた、憎き宿敵の声。俺はその存在を、なぜ今の今まで忘れていたのだろう。
「……アペルデゼス」
俺は、最後の敵の名を呟くと、エクスカリバーを握りしめた。
「我の名を覚えていてくれて嬉しいぞ、転生者よ。よくここまでたどり着いたものだ」
アペルデゼスは、そう言うと、その実態を露にした。
一見すると、人間のように見えた。青白い布をまとい、その背には、大きな白い翼が生えている。顔立ちは、ゼノンと同じく、年齢、性別共々、不明な作りだった。
その姿は、まるで神であるかのように神々しく、そして同時に、邪神ヘルグなどを遥かに凌駕する、醜悪な姿にも見えた。意識をしっかり保った上で、やつの姿を見ていないと、そのまま倒れそうな気さえしてくる。
そんな絶望の塊に気が狂わないよう、俺が意識を正常に保っていると、アペルデゼスは突然、クスクスと笑い始めた。
「すべては、その横にいる『ゼノン』のおかげか?」
やつの口から出るとは思っていなかった『ゼノン』という名前に動揺しつつも、俺は睨み付けながら言った。
「……だったらなんなんだよ」
「ふむ、そうか。お前は幸せものだな」
そう言って、アペルデゼスがこちらに手を向ける。そして――――
「ならば、今一度見せてやろう。絶望とはなんなのかを」
次の瞬間、視界が光に包まれた―――――
―――――――――――――
「う……」
額を押さえながら、俺は立ち上がった。
「あれ……ここは……」
ふわふわとした意識の中で、辺りを見回す。すると、突如、横から声が聞こえた。
「お兄ちゃんっ!」
「ぬわぁっ!?」
いきなり横からタックルされ、バランスを崩した。危うく倒れるところを、なんとか踏みとどまる。
「どうした、ポーラ」
俺は、そのミサイル少女――――ポーラの頭をポンポンと撫でながら、尋ねた。
ポーラはにひひ、と笑うと、俺の手を掴み、引っ張った。
「ご夕飯の時間だよ! まだこの村を出るわけじゃないんでしょ? なら食べてって!」
「村……?」
「お兄ちゃん、なに寝ぼけてるの! ほら、早く早く!」
そう言って、引っ張られるがままに、幼女にどこかへ連行されていく。
てか俺、今まで何してたんだっけ……。
……ああ、そうだ。そういえば、俺はこの村に来て、しばらく休むつもりでいたんだ。
「……どうしたの?」
ポーラが心配そうに、俺の顔を覗き込む。俺は、首を横に振ると、
「大丈夫、なんでもないよ」
それだけ言って、ポーラについていった。
―――――――――――――――
「はい、ごちそうさまでした!」
食卓に並んだ、ポーラやソフィア、その他の住民たちが、一斉に言った。あまりにご飯がうまいから気にしていなかったが、よく考えたらかなりの大人数である。
「今さらだけど、なんかすげぇ人多くないか」
横にいたソフィアに小声で聞くと、彼女はキョトンとした顔で言った。
「え、だってこれは、旅人を歓迎するパーティですし……」
「え?」
俺がソフィアの顔を見て首を傾げると、ソフィアもこちらを見て首を傾げた。
「どうしたんですか、コータさん……。やっぱり、まだ旅の疲れが……」
心配そうに見つめてくるソフィアに、やっぱりこの娘綺麗だよなぁ……とか思いながら、
「大丈夫大丈夫、そういやそうだったな」
と、笑って返した。
やはり、ここの村の人々はいい人たちだ。急にふらりとやってきた、こんな旅人を歓迎してくれるなんて。
そう思いながら、村人たちの顔を見渡していく。すると、一番遠くの席に、修道女らしき女性が座っているのが見えた。
―――なぜだろう。あの子、どこかで見たことあるような……。
そんなことを考えていると、突然、外からけたたましい爆発音が響いた。
「な、なんだ今のは!?」
「外に何かいるみたいだわ!」
「おい、誰か見に行ったほうが……」
周りが騒然とする中、俺はすぐさま立ち上がると。
「俺が見てきます。皆さんはここにいてください!」
そう言って、外へと駆け出した。
闇夜に包まれた周囲を警戒し、剣を構える。爆発なんてしている以上、穏やかではない事態なのは明らかだ。
今、この村で戦えるのは、おそらく俺一人だけだ。なんとしても、この村の人々を守らなくてはならない。二度と、あんな惨劇は――――
――――あんな、惨劇?
記憶の片隅に、なぜか燃え盛る村のビジョンが浮かび上がる。それは、ただの妄想にしては、やけに生々しく……。
まるで一度、そのような光景を見たかのように鮮明で。
「……なんだ……今の」
胃の辺りから上にかけて、不快な感覚が伝わっていく。俺はすぐさま首を横に振って、その光景を脳内から払おうとした。
すると突如、暗闇の中から、男の声が聞こえた。
「絶望が足りねぇ……もっと悲鳴を聞かせろよ……もっと、もっと……」
またしても俺の体に、嫌な感覚が伝わる。それは、先ほどの凄惨な光景を振り払えなかったからではない。男の声に、体が拒絶反応を起こしているのだ。
やがて、その男は暗闇から完全に姿を現し、こちらを興味深そうに見据えて。
その邪悪さにまみれた、歪みきった顔をにたぁ、綻ばせると。
「なんだお前ぇ? まさか、このジェノサイド・レーザーに立ち向かう気でいるのかぁ?」
指先に光を灯しながら、そう言った。




