表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/114

最も強い能力は

「久しぶりだな、ユート」


辺りを見回しながら、俺はかつて仲間であった男に言った。


この場所に来たことと、直前で思い出していた夢の内容、そしてユートの姿を目の当たりにした俺の記憶は、ほぼ完全に戻りつつあった。


「久しぶり? コータ、君と僕は、前にどこかで出会っていたのかな? 確かに、他人には思えないのだけれどね」


歪んだ笑いを見せるユートに、俺はもう、目の前の人間が、かつての仲間とは違う存在になりつつあるのを理解しながら、問いかけた。


「ユート。お前やレイ……いや、他の転生者たちを悪に染めた黒幕は、今どこにいる?」


「それを聞いてどうするんだい? もう、どうにもならないことなのに。君も、早く楽になろうよ。この世が破滅すれば、もう何も考えなくていいんだからさ」


質問をはぐらかし、おどけた調子で答える。その言葉にはどこか、オルディムやレイのようなものが感じられるような気がした。


「俺は、その黒幕を倒す。この世界を、絶望から救い出すんだ」


エクスカリバーを引き抜き、戦闘の意思を見せる。このまま何を質問したところで、どうせ埒は明かないだろう。


「……へぇ、まだ抗うんだ」


そして、ユートはきっと、俺を止めてくる。それが、残った善意によるものか、悪意に従ったものなのかは分からない。


だが、おそらく、この戦いは避けられないのだろう。


ユートは、右手から朱色の剣を召喚すると、こちらに向けた。


「どうやら、僕は君を、ここで敗北させなければならないらしい。――この、『フェンリル』で」


そう言って、フェンリルと呼ばれた剣を、構え始めた。


『コータ君』


ゼノンが、俺の脳内で、何やら問いかけてくる。場面を考えてテレパシーにしたのか分からないが、今はそれどころではない。


『なんだよ、言いたいことがあるなら手短に……』


脳内でそう返すと、ゼノンは、さらっと言った。


『君、このままだと負けますよ』


「は?」


つい声に出してしまった直後、ユートのフェンリルが俺に振り下ろされた。


その斬撃を、《獅子王の加護》で受け流そうとするも……。


「……なっ!?」


なぜか受け流せず、思いきり体がよろめいた。そこに、さらなる攻撃がくるのを間一髪で回避するも、剣先が少しだけ、左腕に触れた。


「いっ……!」


そのわずかに触れた部分がよくなかったらしく、俺の左腕がうまく動かなくなってしまった。


嫌な予感がして、慌ててユートから距離をおく。左腕を確認するも、そこまで大きな傷はなく、毒らしき跡も見当たらなかった。


「何が起きた、って顔をしてるね」


ユートが、せせら笑いながら、こちらに近づいてくる。


あいつの剣術が優れているわけでもない。なのに、加護を持ってしても、捌ききれなかった。


さらには、軽く触れただけなのに、腕の筋を軽く斬られてしまった。


戦闘経験はそれなりに積んできたつもりだったのに、ここまでうまくいかないことがあるなんて―――――


――――いや、違う。そんな、ただの『不運』でおさまる話ではない。


さっき、ユートが言っていた言葉の意味――――『最も神々の祝福を受けた転生者』というのと、照らし合わせる。そして、かつて仲間だった時の記憶を呼び起こしていく。


そうか、こいつの能力は確か――――


「お前が授かったチート能力は、『幸運』だな」


俺は右手のみでエクスカリバーを構えながら、ユートに言った。


「あーあ、もう気づいちゃったか」


わざとらしく、悲しそうな顔をすると、ユートは言った。


「正解だよ、コータ君。僕の能力は幸運。おかげさまで、いろんなことがうまくいったよ」


俺がさらなる警戒心を抱くのをよそに、ユートはフェンリルをふらふらと振りながら、さらに続けた。


「例えば、イスケ君の暴走を、女王が止めてくれたりね。この拠点は、現実の王都があってこそ、成り立っているものだからね」


「……じゃあ、王都が転生者に狙われなかったのも……!」


「そう、ただの『偶然』。……なんて運がいいんだろうねぇ。まぁ、僕に都合のいいように、運命は動くからねぇ」


笑いながら答えるユートに、俺は額から汗を垂らした。


『幸運』……それはあらゆる能力の中でも、最強とされる力。


幸運持ちに攻撃しようとすれば、そのすべてが外れる。


能力で攻撃すれば、きっと不発に終わる。


何を、誰が、どれだけの人数でやったところで。


「ああ、なんて僕はついてるんだろう」


――――きっと、その一言で、すべてが無に還る。


「……ただ、君だけはなぜか死なないまま、こんなところまで来ちゃったみたいだけど」


どこか不満そうに言うユートに、俺はにやりと笑いながら返した。


生憎(あいにく)、こっちには最強のバックが付いてるんでな。死ぬことくらい、とっくに乗り越えてんだよ」


ユートは興味深そうにしつつも、首を横に振りながら言った。


「……まぁいい。ほら、次はコータ君の番だよ。早く攻撃しなよ。僕は何もしないから」


そう挑発すると、フェンリルを鞘にしまった。そして、手を広げたノーガードの状態で、ニヤッと笑った。


「……マジで言ってんのか、お前」


いくら右腕しか使えないとはいえ、剣は振れる。俺がそう言うと、ユートは「ああ」とだけ答えた。


……もうどうなろうが、やるしかない。


「じゃあお構い無くいかせてもらうぜ……! 《剣波》!」


エクスカリバーを振り、奥義を繰り出す。


が、しかし。


「ぐぁあっ!!」


エクスカリバーから出た剣の波動がらなぜか手元で暴発し、俺は吹き飛ばされた。


「あらら、必殺技が暴発したのかな? ()()()()()()()()()()()


暴発の衝撃で、右腕が動かしにくい。今までそんなことが起きたことなど、一度もなかったはずなのに。


「……くそっ……どうなってんだよお前の能力……!」


こいつの手にかかれば、ヴァンの放つ《メテオライト》はすべて、ヴァンの潜伏する廃城へといくのだろう。


そして、イスケの時間停止は、おそらくこいつにだけかからない。かかったとしても、殺されず、イスケが殺される運命へと転じるのだろう。


女王の万能な能力さえも、きっと、偶然、暴発するか不発に終わり、こいつは何もしないまま勝利するだろう。


俺は改めて、最も強い能力を相手にしていることを認識した。


「もう終わりかい? つまらないなぁ」


そう言いながら、ユートがこちらに近づいてくる。


このままでは負ける。


いつものように、なんとか頭を回す。だが、その行為さえも、俺の中では(はばか)られた。


……機転を利かしたところでどうなる?


どんな方法を、こいつにしかけたところで、きっと失敗する。


なぜならあいつは、運がいいから。


「ちくしょうっ…………!」


ありとあらゆるパターンを考えるも、やはり幸運で覆される未来しか見えない。


俺は、まだ手元にある、『約束された勝利の剣』を、自嘲気味に笑いながら見た。


「何が約束された勝利だよ……そんなの、幸運の前じゃ、どうにもならないだろ……」


そう諦観しつつあっても、ユートの歩みは止まらない。


もう、他に手は残されていなかった。


『ね、このままだと負けるでしょう』


そこでようやく、脳内に待ちに待った声が響いた。というか、最初からこれしか期待していなかった。


どうにもならないと判明したときこそが、俺にとっては最高のチャンスなのだ。


『ああ、お手上げだ。相手は人類最強の能力持ちだぞ。俺にどうしろと?』


『大丈夫、君の剣には細工を施してありますから』


『……え、いつそんなことしたの?』


『君がゼニスに来て最初の店でぼったくられた時に、エクスカリバーを担保として店に置いていったときです』


「あの時かよぉっ!?」


再び、脳内ではなく、現実で変な声を出してしまった。ユートがこちらの不審な行動に、まぶたをピクっと動かしたが、再び、その歩を進めた。


『細工したつってもどんな細工だよ! 弾かれるわ暴発するわで、今んとこ全然そんな片鱗見せてないんだけど?』


『まぁなんとかなりますって。今は君が主人公なんですから』


ゼノンが訳の分からない褒め方をしている間に、とうとうユートが目の前に来た。そして――――


「じゃあね、コータ君」


そう言って、フェンリルを振り下ろした。


「もうどうにでもなれぇ!!」


俺は持っていたエクスカリバーを、とにかく前に出した。どうせ防御行動をとったところで、また幸運で、エクスカリバーごと斬り払われるとかそういう――――


――――ことにはならず、しっかり防ぐことができた。


「……あれ、なんとか……なってる?」


よく考えると、なぜか右手も左手も、しっかりとエクスカリバーを握っており、動かせている。


ユートの幸運はとくに発動することなく、代わりに、幸運にも、俺は、回復した腕でその身を守りきっていた。……いやどういうことだ。


防いだ俺自身が驚く中、ユートが、後ろに下がりながら、目を見開いた状態で言った。


「な、なぜなんだ……? そんなはずは……」


その場にいた両者共々、わけが分からない、といった顔をする中、ゼノンが、俺の脳内で言った。


『なに驚いてるんですか。主人公は君だ、と言ったでしょう』


『う、うん……? ありがとう……?』


『は? 褒めたわけじゃないですよ? 君も察しが悪いですね』


意味深に、さっきから『主人公』というワードを繰り返すゼノン。


確かに、こんな都合のいい展開なんて、まさに主人公しか成しえないことのような気もするが――――


……って、まさか…………?


『ようやく、気付きましたか』


目を見開く俺に、ゼノンはいかにもなため息をついて、言った。


『そのエクスカリバーには、『主人公補正』が付いてるんですよ。まぁ要するに……君もまた、ラックで戦えている状態にあるということです』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ