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次元の違う強さとは

そこは、何度も見たことのある、不思議な空間。


そして、何度も体験した、ふわふわと漂うな、奇妙な感覚。


――――ああ、そうか、俺は――――


「また、死んだのか……」


死後の世界で、ポツリと呟いた。


「え、ちょ……なんなのここ……?」


すると、すぐそばから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「えっと……あれ、私はいったい……」


またさらに別の場所からは、やはり聞き覚えのある声が聞こえる。俺は、自分の死の直前に何があったのかをうっすらと思い出しながら、その二人に呼び掛けた。


「ルルカ、ノア……」


呼ばれた二人は、同時にこちらを向くと、これまた同時に「コータ!?」と叫んだ。


「ねぇ、コータ、これって……」


先に駆けつけてきたルルカが、不安そうに問う。きっと彼女は、ある程度分かっていることなのだろう。だが、ここで濁しても意味はない。


すぐにノアが来たのを確認すると、俺は二人に言った。


「……ああ、ここは死後の世界。俺たちは、オルディムに負けたんだ」


顔を伏せながら、唇を噛む。二人には、生きていてほしかった。


だが、相手の能力は理不尽極まりないもので、こちらは、加護もチートも使うことなく、淡々と殺されてしまったのだ。


「次元の神の力は、まったくもって桁違いだった。戦う、なんてレベルじゃない。一方的に、しかも一瞬でこの有り様だよ」


「で、でも、ゼノンがいるじゃない……」


ルルカが持つ杖が、小刻みに震えている。そう、今まで、なんだかんだ奇跡を起こしてくれた、その存在は――――


「……私も、殺されてしまいました」


空間の奥から、その姿を現した。


「……あいつが言っているとおりだ。俺たちのように瞬殺されたまではいかなくとも、ゼノンでさえ、オルディムの力でねじ伏せられたんだ。もう、打つ手はなくなった」


「そ、そんな……」


へたりと座り込むルルカに、ノアがすぐに駆け寄る。こんなときでも、ノアは相手のことを一番に考えて動くんだな……と、シスターとしての心意気に、少し、目が潤んだ。


こうして、俺たちの冒険は終わった。パーティは全滅し、頼みの綱さえも、太刀打ちできずに殺された。


思えば、よくやった方だ。あの世界のラスボスを倒し、真のラスボスまでいったのだから。あんなナイトメアモードの世界で、よく頑張ったと思う。


……そう、頑張ったのだから。


「ゼノン、お前は……本当に、死んじゃったんだよな?」


いつもみたいに、ここですっとぼけてみせて、オルディムを倒す方法を与えてほしかった。その可能性を捨てきれなかった俺は、つい、ゼノンに質問してしまった。


だが、返ってきた答えは。


「はい。次元の違う攻撃を受けてしまい、さすがの私も命を落としてしまいました」


ゼノン自身から発せられた、絶命の報告だった。


「次元の違う攻撃……か」


ゼノンの言葉を復唱しながら、俺はうつむいた。こいつが防げない攻撃が存在することに驚いたし、それをオルディムが軽々と発動したことに、さらなる絶望感が身体中を駆け巡った。


「はい。例えるなら、ゲームをしてたらプレイヤー同士で殴り合いになった感じです。ゲームのキャラはプレイヤーに手出しできませんが、プレイヤーはプレイヤーに攻撃できますよね?」


やれやれ、と首を振るゼノンは、そこで小さくため息をついた。


なるほど……。今まで、ゼノンがこの世界のいかなる能力をくらっても無事だったのは、所詮、ゲーム内で起きたことに過ぎないレベルだったからなのか。


「次元の神なら、ゼノンにダメージが入る領域の攻撃を繰り出せるってことか」


俺の言葉に、ゼノンはうんうんと頷くと、再び小さくため息をついた。


「ええ、まさにそれです。まさかあんなのがこの世界にいるとは……」


さすがのゼノンも参っているらしい。そういや、オルディムと対峙していた時、こいつらしくない反応をしていた。次元の神なんかまで出てきたら、さすがにお手上げか……。


「おかげで私の分体がやられちゃいましたよ。まぁ、分体ですし、大した力はないんで当たり前ですが」


「……え、分体?」


「はい、分体です。本体の説明すると、もれなく君たちの頭がバグるので控えますが、数あるうちの一つが死にました。といっても復活できますし、なんならわざと死んだのですが。その方が次元を合わせやすいので」




…………。


…………。


………え。


「……なぁ、ルルカ」


「え、私?」


「あいつ、今『次元を合わせる』とか言わなかったか?」


「うん。………………え?」


見事にフリーズする転生者たちを差し置いて、ノアが質問する。


「もしかして、ゼノン様は次元移動のために……?」


「そうです。霊体の方が移動させやすいので、皆さんには軽く殺されていただきました」


とんでもないことを口走る高次元の悪魔に、空いた口が塞がらない。あれ? 今度こそは詰みじゃなかったの?


「で、でもお前、さっきすげぇ辛そうにしてなかったか?」


だんだんといつものへらへら顔をあらわにし始めるゼノンに、俺が震え声で聞くと。


「ええ。だって、君たちを『神に攻撃が届く次元』まで移動させるとか、面倒過ぎて……。私一人で倒していいならやってるんですけど、やっぱりここは、コータ君たちにやってもらわないと」


そう言って、再三、ため息をついた。


ん? じゃあなに? こいつのあの時の表情は「うげぇ、面倒なことしなくちゃいけないのかぁ」という苦悶の表情だったってことか?


「霊魂の状態でないと、そんなに次元移動って面倒なのかよ?」


こめかみがピクピクするのを感じながら、ゼノンに尋ねる。


「超面倒です。どれくらいかっていうと、こたつから出てミカン取りにいくくらい面倒です」


「死ぬほど簡単じゃねーか! 俺たちはその程度の労力のために死んだのかよっ!」


もうなんかいろいろ抗議したい。今度こそはもう無理だと思っていた、数秒前の俺のシリアス顔をどうしてくれよう。


と、悶々としていると、間髪入れずにゼノンが。


「そういうわけなんで、オルディムさんがいる次元まで行ってらっしゃい」


どこから取り出したのか分からない、昭和のテレビ(ダイヤル式)を取り出し、俺たちに向けた。


「は? ちょ、それはどういう――――」


俺が質問をしようとした次の瞬間、テレビから発せられた光に包まれ、ゼノン以外の俺たち三人は、そのテレビの中へと吸い込まれていった。


光が晴れると、そこはまた、見たことのない謎の空間だった。


死後の世界の空間とは違った雰囲気で、なんだか俺自身の感覚も、言葉にし難いものがある。なんだこれ。


『皆さーん、オルディムさんの次元にたどり着きましたかー。……あ、着いたようですねー』


なんか上からゼノンの声がするぞ。しかも今、オルディムがいる次元とか言わなかったか?


「ちょっと、ここどこなの!?」


ルルカが慌てふためく中、ノアが小動物のように辺りをキョロキョロしだす。


やがて、ノアは小さく「あ」と呟き、固まった。


うちのシスターが絶句するとか、相当なことだぞ。いったい何を見たってんだ……と、思いながら、ノアが見ている方向へと向いてみる。すると……。


「……なぜお前たちがここに?」


信じられないほどの間抜け面で、オルディムが俺たちに聞いてきた。


『オルディムさん発見! さぁ皆さん、あとはお好きにどうぞ!』


楽しそうな声が上から響き、その場の全員が、ポカンとしながら上を見上げる。


そして、顔を下ろすと再び、俺たちとオルディムの視線が合った。


「……」


「……」


そして、互いにちょっとの沈黙があった後。








「剣波ぁ!!」


「ファイアボールっ!!」


「ルナ・ライトニングっ!!」


俺たちは一斉にオルディムを攻撃し始めた。


「ちょ、なぜ貴様らがこの次元空間にっ……って危なっ! あ、当たったらどうするっ!」


「当てるためにこの次元にきてんだよ! 違う次元で高みの見物決めやがってこのやろう!!」


俺たちは瞬殺された恨みを晴らすため、各自、全力投球で臨んだ。


「ちぃっ! 別次元に移動だっ!」


「あ、セコいぞ! それでも神か!!」


俺の煽りに耳も傾けず、オルディムが空間から消える。地団駄を踏む俺たちに、上からゼノンの声が響いた。


『あ、別次元に行きましたね。じゃあダイヤル回しますね』


ダイヤルを回す……ってまさかあのテレビのことか?


次元移動とか明らかにヤバすぎる能力を、あいつはレトロ道具で、しかもチャンネルを回す要領でこなしてやがる。いよいよあいつの底が知れなくなった。


などと考えていると、いつの間にか俺たちはまた、別の空間にいた。


そしてオルディムもいた。


「いたーっ!!」


ルルカが叫ぶと、オルディムは情けない声で「うへぇっ!?」と叫び返した。


「あんた、私を一番最初に殺したでしょ! 覚えてんだからね!!」


ルルカが鬼の形相で、次元の神を追っかけ回す。向こうは向こうで、突然の出来事に対応仕切れてないのか、ひたすらに逃げ回る。


「サンダーボルトォっ!!!」


「や、やめろ小娘っ! 次元を合わせられた今、そんなのくらったらひとたまりもな……うわああああああああ!!!!」


ズドーン!! と相変わらずのアホみたいな威力とともに、空間内に強烈な雷が落とされる。ルルカの気が立っているせいか、『荒地の影』を相手にした時よりも威力が高そうに見える。


だが、雷撃の位置にオルディムおらず、すでに次元移動したようだった。


それに合わせ、再びゼノンがチャンネル(次元)を変える。


「あ、いましたよっ!」


ノアが嬉しそうに言うと、オルディムが絶望に満ちた顔で、こちらに振り向いた。


「またか、またなのか! これでは、高次元から貴様らの生命力に干渉することができないではないか!」


「そうやって、地上では私たちを殺したのですね!」


「い、いや、あれは救済措置でっ! ほ、ほら、実際に苦しまずに死ねただろう!!」


「問答無用っ!」


そう言いながらルナ・エファリスを振り回す、怒りのシスター。ノアがブチギレるとあんなに怖いのか……怒らせないようにしよ……。


「逃げないで正面から戦いなさい! ほら逃げないで……逃げるなー!!」


あかん、ノアのキャラが壊れ始めている。まぁ、殺されたわけだから怒るのも無理ないんだが……。


「わ、分かった! 逃げない、逃げないから話を……!」


命乞いをし始める神に、ノアはぴたりと止まった。やはり聖職者として、神に手をあげるのはいかがなものか、と踏みとどまったのだろうか。


……と、思っていたのもつかの間。


「よし、みんな、今ですっ!」


ノアがニッコリ言うのを見て、俺とルルカもニッコリ笑顔で返した。


「おい、嘘だろう……? 私は神だぞ……? なぁ、頼むから一旦武器を下ろ」


「おらぁあああああああああっ!!」


「てぇぇぇええいっ!」


「はぁあぁあああああっ!!!」


そして俺たちは、無抵抗のオルディムに、それぞれ武器を振り下ろした。

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