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希望の後

「俺は碓氷 幸太(うすい こうた)って言うんだ。えーっと、まぁ、遠くの国から来た冒険者だ」


再建された宿屋……と、いっても、まだ仮建設中の、小さな空間で……俺は、タキシードの男、シスターと共に、テーブルを囲っていた。


チート転生者が暴れた事件から、もう二週間が経とうとしている。村人たちは、あのむちゃくちゃな復活劇を遂げた後、戸惑いながらも、村の再建に取り組み始めた。被害は大きく、そう簡単に元に戻せるような話ではなかったが、皆、お互いが助かったことだけでも素晴らしい、と、笑顔で復興に臨んだ。


俺もその復興に、少しでも力になれたら、と、助力していた。それはこの二人も同じだったらしく、結局、こうして二人と顔を合わせるのに二週間もかかってしまった。


「コータ様……ですか」


終始、治癒魔法をかけ続けてくれた、心優しき修道女【ノア・フェアリーベル】は、確認するように復唱した。


「「コータ」でいいよ。あと、ありがとうな、ノア。君のおかげで、足の傷は完全に塞がった」


素直に感謝の意を述べると、ノアは「私にはあれくらいしかできませんから……」と、自嘲気味に笑った。


彼女は俺と同い年の十七歳で、王都出身のシスターらしい。シスターでありながら、治癒魔法の才能はないらしく、一瞬で傷を癒すほどの能力は、持ち合わせていないと言っていた。


とはいえ、あの時、俺は足以外にも、体のあちこちにかなりの重傷を負っていた。それを五分足らずで治してくれたのだ。その辺の魔術師よりかは、かなり高レベルな術を習得しているのだろう。


そう、たった五分。


その、たった五分というのは、シスターが俺に治癒を(ほど)こしていた時間であり、同時に……。


「いやいやノアさん! あなたの治癒は立派でした! なにより、あなたが助けを求めなければ、私は来ていませんでしたよ?」


このふざけた男、【ゼノン】が、転生者を仕留めた時間でもある。


ゼノンは、気まぐれでこの村にやってきたらしく、その正体は不明のまま。なんでも、「説明してあげてもいいですけど、あなた方の脳が許容量(キャパ)オーバーを起こして廃人化しますよ」とのこと。要は説明を聞いたらバグるらしい。


人類の脳の許容量を超えない範囲で説明をお願いすると、返ってきたのは「自分は超高次元の何か」「むっちゃ強い」「性質はこの世界で言う『悪魔』寄り」「ポテチはコンソメパンチ派」等、支離滅裂なことばかり。目的さえ分からない、得体の知れない男である。……というより、この男なら一日で村を元に戻せたのでは。


ゼノンはノアを褒めちぎりながら、羊飼いの娘、ポーラが焼いたクッキーをノアに勧めていた。ノアが遠慮がちに、手を横に振る。そんな様子をぼーっと眺めながら、俺はぼんやり考えていた。


俺はもともと、日本の高校生で、ごく平凡な日常を送っていた。自身のスペックは、自慢じゃないがどれも平均的で、強いて言うなら「優しいね!」と、女子の評価を頂いたくらいである。


「優しいね」……。基本、なんの特徴もない奴に、評価をつける際の常套句である。そんな、自分からも、他人からも『平凡』と称される俺の日常が変化したのは、約一年前。急いでいたのか、赤信号を渡ってしまった少年に、トラックが突っ込みそうになっていたところを、俺が救出した。


俺は少年を無我夢中で突き飛ばした。少年はそのまま、トラックの車線から外れたが、俺は間に合わず……って感じだ。とにもかくにも、俺はこうして、転生のお決まりパターンを通して、この世から去ったのである。


目が覚めた時には、この世界にいた。いつの間にか身にまとっていた、冒険者のような麻の服。自身の胴を少し超えるくらいの、立派な剣。そして、目の前には、ゲームで言うところのフィールドマップを彷彿とさせる、自然。一発で、自分は転生を果たしたんだ、と理解した。


背中にいつの間にか背負っていた剣は、直感で《エクスカリバー》だと分かった。なぜ知っていたのかは分からないし、なんなら魔法の使い方も最初から習得していた。


行く宛もなく、ふらふらと広大なマップを歩いて、適当にモンスターを狩って、野宿して……を、繰り返していた俺は、ある日、町にたどり着いた。町の門をくぐり抜けると、すぐそばに店を構えていた占い師から、自分のスペックを告げられた。内容はこうだった。



ウスイ コウタ

LV【9999】

《獅子王の加護》……自分に対しての全ての攻撃を剣術で捌ける。万一食らってもダメージが百分の一まで軽減される。

《エクスカリバー》……当てれば一撃で仕留められる、約束された勝利の剣。念を込めて振るえば【剣波】で山一つを吹き飛ばせる。


この後に、続けざまに「HPが……攻撃力が…………」と、ステータスらしき言葉を浴びせられたが、はっきりと覚えているのは、占い師が驚いた顔で、毎回「99999999……!?」と、数字の羅列を呟いていたことぐらいである。


そう、俺は俗に言う、『チート転生者』なのだ。

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