物語の始まり(1)
ガヤガヤと外が騒がしい。
王族が扉から出てくるのを今か今かと待っている。
ギィィ…
軽快な音楽と共に重たい扉が開き、国王様とその1歩後ろを歩く王妃様が美しく着飾り先頭を歩く。
その後ろには麗しい4人の王子様お姫様がゆったりと歩いている。
「国王様ばんざい!!!」
「王妃様ー!!!」
黒髪茶髪に黒い瞳の中で一際目立つ彼らこそこの国を背負う者となる。
国民の中には微笑みかけられただけで腰をぬかす者もおり、式典は熱気が残ったまま幕を閉じた。
「はー疲れた…寝たい…」
ミラが裾をめくり雑に座る。
「まだあるんだから…我慢なさい」
「あそこチカチカするから嫌」
全体での式が終わると今度は貴族だけの式だ。
もちろん貴族というだけあって皆能力について充分な教養があるため瞳、髪の色が派手なのだ。
その中で黒髪のミラはとても目立ってしまうためできるだけ参加したくはない。
「リン、ラン」
「はっ」
部屋の端に控えていた双子のメイド、リンとランが1歩前へ出た。
「周りのご令嬢はどのようなお召し物を?」
「本日は主役が国王様と王妃様なので派手なのは控えているのではないでしょうか」
「髪型はラーナ様、ミラ様と被らないように配慮しておりますのでいつもの髪型にした方がよろしいかと」
「そう、じゃあ私も控え目なドレスで黒髪が目立たないような髪飾りを」
そう言うとリン、ランは丁寧なお辞儀をして音をたてぬよう部屋から出た。
「姉様」
「どうしたの?」
「なんでもう着替えてるんです」
ミラがメイドと話をしている間にラーナは1人で着替えを済ましていた。
「着替えぐらい自分で出来るわよ」
「姉様…それでも王族ですか…」
「貴女にだけは言われたくないわね」
そう、ラーナの欠点は全て1人で済ましてしまうこと。確かに1人の人間としては褒められた行為だが王族としてはどうだろうか。
その癖面倒事は嫌いですぐ帰ろうとする。
お付のメイドは本来ランだったのだが一切何もさせてくれなかった為、いつしか自分で何もしないミラにこき使われるうちにお付きのメイドになっていた。
「ミラ様、ご用意出来ました」
「ありがとう、何を持ってきたの?」
「こちらでございます」
2人が差し出したのは黒いフリルの着いた真っ赤なドレスだった。髪飾りには黒によく映える赤い薔薇をモチーフにしたコサージュが用意されている。
「…控え目でって言ったよね」
「そもそも、王族であるミラ様が目立たぬようというのがおかしな話なのです」
「ラーナ様をご覧下さい。ほら、髪の色に合わせて紺色にし、ご自分のスタイルの良さも把握しております」
「ミラ様は貧相なお体をしていますのでこちらがお似合いかと」
主人を目の前にして好き勝手良いながらテキパキと準備を進めている。
「はぁ…やっぱ休んじゃだめ?」
「ミラ、最近体調崩して休んでばかりだったでしょう?元気な姿を見せてあげないと」
「さっき見せた」
「それでも皆心配するでしょ」
自分の事が終わり、部屋の掃除をしているラーナがミラの方へ視線を向けた。ため息混じりに注意している姿はまるで反抗期の娘を持つ母親のようだ。
「へいへい」
「返事」
「かしこまりましたー」
「まったく…」
「ラーナ様、ミラ様準備が整いました」
「行ってらっしゃいませ」
扉を開けると2人が待っていた。
「遅かったな」
「早く行こ〜母上に怒られるよ」
「そうね、急ぎましょう」
「はいはい」