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木蓮散りし日、月は満ちて

作者: 金芳 奏

 4月27日

 私は桜が好きだ。


 桜が春の空に舞った日、私の想いも同じ春の空に舞った。


 桜の舞う空を見るとその情景が瞬く。

 私の想いは、いつの年も桜の舞う空に馳せる。去年も、今年も、来年も。

 私にとっての桜の舞う日は、失恋の日になってしまった。


 でも、私は桜が好きだ。

 桜の舞う日が好きだ。桜の舞うこの日が好きだ。




 4月27日

 私の誕生日。


 ……私が産まれた日に、祖父が他界したそうだ。

 当たり前だが祖父には会ったことはない。

 ただ、血縁の近い親族から聞いた記憶と生前の写真の優しい面影から、容易に想像のつく人ではある。

 きっと…きっと素敵な人だったのだろう。

 一度でいいから本人に会って言葉を交わしたかったと後悔する。祖父の温かな言葉を…言霊を…この耳に届けて欲しかった。


 誕生日を迎えるたびに、叶わない願いが頭を駆ける。

 私は誕生日が嫌いだ…




 4月27日

 僕はこの日が毎年待ち遠しい。


 いつもよりちょっと特別な幸せを積み上げる日。


 この日は僕の内に秘めていた想いが、外に溢れてしまった日。そして、その溢れてしまった、こぼれ落ちていくと思っていた想いを彼女が受け止めてくれた日。


 僕からしたら本当に怪我の功名であって、理想していた形とはだいぶ違ってしまっていた。でも、今となってはそんなことはただの惚気話で、ちょっと恥ずかしい笑い話で、そんなことと言えるほどの些細なこと。

 そして、僕と彼女からしたらこの日がなければ今の幸せな日常はなかったと思う重大なこと。


 彼女は本当のところどう思ってるかわからないけど。

 でも、幸せに思ってなければ8年も続かないと思うからきっと幸せなんじゃないかな。

 僕は、もう何時間かしたらまた待ち遠しくなるんだろうな。これからも今日が待ち遠しい日であって欲しいな。


 今日は僕と彼女の幸せを積み上げ始めた日。

   そして幸せが積み上がっていく日。




 4月27日

 私はこの日が一番好き。

 彼女の誕生日なの。


 この日だけはあの子の曇りのない白い歯をちらつかせた笑顔が見れるの。あの子の満面の笑顔よ。

 いつも仕事に疲れて丸くなってるあの子が、この日だけは毎年笑顔を見せてくれるの。もちろん普段笑わないわけじゃないのよ。

 でもこの日だけは格別よ。ほんとうに。


 今年も準備は万端。あとは帰りの連絡を待つだけね。

 私は毎年この日だけは、あの子の笑顔を見たい一心で自己満足のために有給をもぎとってるの。

 でも、あの子には内緒よ。

 それを知ったらあの子は謝るから。他人に気にかけてもらうと誰彼なりふり構わず、すぐ謝るのよ。悪い癖ね。

 ありがとうとごめんなさいの使い分けが上手くないのよ。

 その不器用なところも可愛いんだけれど。それに社会じゃ抜け目なく生きてるのに、普段だとちょっと抜けてるとこ……もう彼女のことを考えてたら筆も口も止まらなくなっちゃうわ。


 彼女とは幼少の頃からよく交流があったの。それともう5年経つのかしら?一緒にひとつ屋根の下で暮らしてるの。別に付き合ってるわけじゃないのよ。

 彼女から生まれて初めてされたお願いなの。

 とりあえずでいいから…1週間だけでもいいから…って。勝手に涙浮かべて、貴女にしか頼めないって言われて。

 別に私は断る理由なんて全くないのに。

 彼女にも色々事情があるのは分かってるし、それに彼女は……

 こんなこと書いてもしょうがないわね。ほんと私ったら彼女のことになるとダメね。


 ま、なんにしても今日は最高の1日にしてあげなくちゃね。それが私にとっても最高の1日になるもの。

 毎年毎年ハードルが上がってくから大変よ。


 でもこの日を無事に迎えられて最高に幸せよ。

 ありがとう。




『4月27日』


 私にとってはなんでもない日。

 ただ、語呂が悪い日だと数字だけを見たときに私の意識に潜む汚れた私が囁いてくる。

 とはいってもそれだけの日。


 でも、この日は人によっては、

 記念日で、

 命日で、

 出会いの日で、

 別れの日で、

 祝いの日でもある。

 もちろんそれ以外の日でもある。

 それは1年365日全てに当てはまる。

 だから、誰がその日を祝おうともその日を呪おうとも、それは自由で勝手だ。それを永遠に繰り返し、その毎日を全ての生物が自由で勝手に過ごしている。

 その自由と勝手を、批判し侵害することでは穏やかな日々には繋がらない。お互いを理解し許し合うことこそが穏やかな日々に繋がると思う。

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