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異世界ち〇ぽ  作者: ナ王
9/17

「ミギテさん、ヴォルデモートさん、本当にありがとうございました。貴方たちのお陰で無事、ナラの樹海を通り抜けることが出来ました」


 ヴォルデモートとは僕のあだ名だ。なんか知らないけど、カッコイイ名前なので問題なく、受け入れている。

 ようやく、ナラの樹海を抜けた僕たちは、森の外の平原で休憩しています。

 森の中では、茂みや木の上に潜む魔物を常に気にしていましたが、もう、そんなことを気にする必要はありません。

 ここからは、魔物も小型のショボイ奴らばかりなので、僕らの護衛もこれで終了です。

 もうすこし進んだところで、ドルネコさんの仲間が馬車を待機させているようです。運搬と移動を馬車に切り替えるので、2か月ほどでグリーンランドに着くと言っていました。


「ブツブツ……」

「いえいえ、困った時はお互いさまですから」

「…………」


 ドルネコさん、どうしたんだろ?

 いつもなら、この辺りで、豪快に笑うところなんだけど、なんだか神妙な顔をしている。


「ブツブツ……」

「あの……僕たちはずっとこの森にいますんで、物資ならいつでも構いませんよ?」


 言葉の意味を察して、ドルネコさんは声を荒げた。


「とんでもありません! このドルネコ、森の外に出たからといって約束を反故にするような男ではありません! その件は、心配ご無用でございます!」


 うーん、プライドを傷つけてしまったかな? でも、そうじゃないなら、一体なんだろう?


「すいません。その……ドルネコさんの様子が、いつもと違っていたもんで……」

「あっいえ、こちらこそ、申し訳ありません! つい、失礼なことを……ははは、いけませんな。お恥ずかしいかぎりです」

「ブツブツ……」

「何かあるようですね? 良かったら、お話してもらえますか」


 姉さんに背中を押され、気が楽になったのか、ドルネコさんの表情が少し和らいだ。


「実は……ここまで、お世話になっておきながら、さらにお願いするのは、大変心苦しいのですが……

 思い切って申し上げます。

 ミギテさんに、この商隊の護衛隊長となって頂きたいのです」

「ブツブツブツブツブツブツ……」

「ええええええ!!! いやいや、無理ですよ! 買いかぶりすぎです! 僕たちに護衛隊長なんて出来ないですよ!」

「お願いです! 私は、今回、死ぬつもりでこの森をくぐり抜けました。千に一、いや、万に一、生残ることが出来れば、家族を救うことが出来るかもしれないと! 貴方たちは、私の希望の光なんです。どうか……どうか、お力をお貸しください!」

「ブツブツ……」

「何か、事情がありそうですね……」


 ドルネコさんが静かに語り始めた。


「……自分で言うのもなんですが、私はグリーンランドでは、名の知れた商人でした。

 なに、私が特別優れていたわけではありません。ただ、貧農の出自である私を、バカにした連中を見返してやりたい。その一念で、ガムシャラに突っ走った結果です。

 ですが、その甲斐もあって、四十代も半ばに差しかかろうとした時には、グリーンランドで一番と言われるほどの財産を築くことが出来ました。

 調子に乗った私は、政治の世界にも手を出しました。ツテは、いくらでもあり、貴族の身分を手に入れることも簡単でした。それが失敗の原因でした。貧しい農民が金で貴族なる。私を快く思わない人が現れるのも当然です。ですが、その時の私は、すっかり浮かれきっており、そんな考えは及びもしませんでした。

 結局、私は、ある貴族に嵌められ、あらぬ罪を着せられたことで、全ての財産を奪われました。

 ……それだけなら、まだ良いのです。

 しかし、奴らは、私の妻と子を死罪にすると……罪を赦して欲しくば、十億ペソを支払えと……

 当然、財産を没収された私に、そんなお金はありません。

 奴らも、それは分かっているはずです。私を苦しめたいだけなのでしょう……

 ドワーフ王国から、ナラの樹海を通って、商品を運ぶ……一回でも、狂気の沙汰ですが……十回……出来なければ、私は家族を失う。

 傭兵たちも命を捨て、私の蛮行に付き合ってくれました。

 ですが、私は、もう、誰も失いたくないのです!

 どうか! どうか! 重ねてお願い申しあげます。私どもの護衛隊長になって下さい!」


いやいやいや……確かに可哀そうだけど……

ちょっと、即答はできそうにないなあ。


「わ、分かったで、うちに任せとけや……」


 っ!!

 僕の後ろに隠れていた姉さんが、いつの間にか前に出て、ドルネコさんの肩に手をかけている。見ると、姉さんの体が小刻みに震えていた。

 ね、姉さんが喋った!

 いや、それより、ちゃんと考えた方がいい気が……


(ね、姉さん。良いんですか!)

(なんか……かわいそうやんけ)

(僕もそう思うけど……帰ってこれなくなるかもしれませんよ)

(知らんけど大丈夫やろ)


 うーん、姉さんに大した考えはなさそうだ。

 ドルネコさんは、涙声になり、うつむきながら、何度もお礼を言っている。

 姉さんは、困っている人を見過ごせないからなあ……それで、僕も助かったんだけど。


「バンザーイ! バンザーイ!」

「よかったな! ドルネコさん!」

「これで、奥さんたちも釈放だー!」


 隠れて事の成り行きを見守っていた男たちが、大声を上げて飛び出してきた。

 男たちは、我が事のように喜び、はしゃいでいる。

 仕方ない。人助けだし、これで良いんだろう。

 っていうか、こんな状況になったら、もう断りづらい……


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