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異世界ち〇ぽ  作者: ナ王
8/17

「姐さん! 山犬です!」

「ブツブツ……」


 ズドォォン!!


「姐さん! オッコトヌシです!」

「ブツブツ……」


 ズドォォン!!


「姐さん! シシカミです!」

「ブツブツ……」


 ズドォォン!!


「ヒャッホー! 今日も肉だー! 姐さん! 姐さん! 姐さん!」

「ブツブツ……」


 次々と、魔物を屠る姉さんに、傭兵達はもうメロメロだ。

 彼らの世界では、力の強弱が絶対的な価値観を持つようで、もうすっかり僕らを仲間と認めたようです。

 ゴロツキのようなおっさん達に姐さんと呼ばれ、姉さんも複雑な気分だと思います。


「姐さん! その技を教えてくれませんか?」

「ばっか! お前にあんなこと出来るわけないだろ! 姐さんは特別なんだよ!」

「ちげえねえや、でも、姐さんのおかげで、もう怖いもの無しだ」

「いやーすごい! もしかして姐さんは伝説の勇者じゃないのか?」

「ブツブツ……」

「勇者って、そんなのがいるんですか?」

「えっ? 知らないですか? 大昔に大魔王に滅ぼした英雄ラット様のことですよ!」

「知らないなあ」

「まじですかい、勇者ってのは……」


 何でも、勇者というのは、人間達が滅びそうになる度に現れる英雄のことらしい。ラットというのは、直近の勇者ということだ。まあ、直近といっても百年前の人らしいけど。

 勇者とは天から不思議な力を授かるようで、ラットも普通の人ではなかった。彼は森羅万象を操る力を持ち、その力で地を割り、嵐を起こし、稲妻を落としたという。

 学者の間では、圧倒的な力を誇る魔族が人間たちを滅ぼさないのも、勇者の出現を恐れているからではないかということだった。

 近年、グリーンランドは魔族の大規模な侵攻を受けており、勇者を待望する機運が高まってきているらしい。


「ブツブツ……」

「あっ、僕らは勇者じゃありませんよ! 姉さんの技も単なる修行の賜物です」

「……そうですかい」


 残念そうに肩を落とす傭兵達。

 でも、調子に乗って、勇者に祭り上げられてしまったら大変だ。

 とりあえず、普通の人間のフリをしておきます。


「でも、まっ、姐さんがいれば大丈夫だ!」

「イエイ! イエイ! 姐さん! 姐さん! 姐さん!」


 すぐに元気を取り直す傭兵達、前向きなアホな人たちで本当に良かった。

 この人達の護衛をするのは、迷いもあったけど、やってみて正解でした。

 というのも、彼らは、僕たちが必要とする豊富な物資を持ってたからです。


 例えば、塩。

 これを肉に振りかけるだけで……なんということでしょう! 忘れかけていた本当の肉の味。ただでさえ美味しいオットコヌシの肉の旨みが、さらに凝縮されました。感動が止まりません! もう、僕たちは、塩なしで生きていけません!

 その他にも、胡椒やハーブなどの各種調味料、煮る、蒸す、炒めるといった調理を可能にする器具! これらを貰えれば、僕たちの生活は格段に向上すること間違いなしです!


「はあー、すごいですねー、医薬品もあるんですかー?」

「はい。この薬で大勢の人間の命が助かるはずです。その命は、ミギテさん達が、救ったも同然ですよ!」

「ブツブツ……」

「いえいえ、僕たちは、護衛しているだけですから、本当に凄いのはドルネコさんだと思います」

「ははは、ありがとうございます。ですが、人を救う薬を運ぶ一方で、人を殺す武器も運ぶ、因果な商売でございます」


 うーん、ドルネコさんは密輸人だけど、良い人そうだし、そういうこと気にしちゃうんだなあ。

 武器を運ばなければ、良いじゃんという簡単な話じゃないんだろうなあ。

 なんて返したら良いんだろ?


「ブツブツ……」

「まあ、頑張って下さい……」

「ふふふ、すいません。変な気を使わせてしまって……そうそう、武器といっても面白い物もあるんですよ!」


 そう言うと、ドルネコさんは荷台から、一本の刀を取り出した。

 触るのが躊躇われるほどに手垢にまみれ、真っ黒に変色した柄。擦り切れて傷だらけの鞘には気持ちの悪いお札が貼られている。


「な、何ですか、それは?」

「これは、呪い刀……そう、持ち主は全て非業の死を遂げるという刀。妖刀、村雨丸といいます」

「の、呪い刀!?」


 呪い刀……まじか、でも、こんな世界です。そんな物があっても不思議ではない。上ずった声で、少し引き気味になる僕に、ドルネコさんが種明かしをした。


「うふ、うふふ、すいません。冗談ですよ! 世間では、そう言われていますが、実際はただの朽ちた刀、ガラクタです。でも、こういう、曰く付きの刀を高く買ってくれる物好きな方もいるんですよ!」

「ブツブツ……」

「ほっ、ドルネコさんも人が悪いや。すっかり騙されてしまいました」


 そんなこんなで、僕たちは、居心地の良い日々を満喫しつつ、無事、彼らを森の外まで送り届けたのであった。


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