表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ち〇ぽ  作者: ナ王
6/17

「うわー! オットコヌシだー! トムがやられたぞ!」

「待て! 待て! 逃げるなー! 戦うんだ!」

「そこ! 列を乱すなー! 囲め! 囲め!」


 飛び交う怒号、相当に混乱している様子だ。


「姉さん……」

「行くで……」


 これだけの大騒ぎなら足音を気にすることもない。僕たちは急ぎ足で声のする方に向かった。


「なんや、あれ?」

「イノシシ?」


 男達がイノシシを囲んでいる。イノシシといっても、この世界のそれは化け物級だ。乗用車くらいの大きさはある。

 だけど、それにしても情けなくはないか? 大勢の男達が一匹のイノシシに狼狽し、大声をあげて、狂ったように槍を振っている。


「なんで、はよ仕留めんのや? 動物愛護か?」

「いや、ビビっているみたいですよ」


 まあ、よく考えてみれば、ここの人達は、普通に殴ってこいつを倒すんだ。僕だって、自力でやれと言われも、とても出来ない。全ては姉さんがいたこらこそだ。

 そう考えると少し可哀想な気もした。


「どうしましょう?」

「うーん、もう少し見てみるか」


 男たちは歴戦の戦士のような面構えだ。もしかしたら、自分たちでなんとかするかもしれない。僕たちは黙って様子を見守ることにした。


「うわー! キムもやられたぞ!」

「隊長無理です! もう、逃げましょう!」

「逃げろ! 逃げろ!」

「背を見せるな! やられるぞ!」


 ブンッ! ドサッ! ドタっ!


 弱い……弱すぎる! イノシシの鼻先で投げ飛ばされる男達、このままでは死人も出そうだ。


「仕方ないのう……」

「やるんですか?」

「同じ人間やしな、ほっとけんやろう。まっ、あんだけ弱いねんから、助けても危険やないやろ」


 懐から小石を取り出す。小石なんて、そこら中にあるけど、いざという時に足元に無ければ意味がない。だから、常に小石を持ち歩いている。姉さんは、いつだって抜かりはないのだ!


「おい、お前ら、どかんかい!」


 ズゴォォォォン!!!


 投げた石が男達の頭上を超えて、大木に激突し、幹が跡形もなく吹き飛ばされた。威嚇射撃だ。


「うわー! なんだー!」

「新手かー! 逃げろー!」

「うわー! うわー!」


 蜘蛛の子を散らしたように、男達が逃げ出した。情けない奴らだ。だが、これで気兼ねなく、イノシシに専念できる。あんなにイノシシの近くにいられたら邪魔すぎる。

 すすっとイノシシの正面にでる姉さん。


「おい、なんだ!あの子は?」

「ここは、ナラの樹海だぞ? なんであんな子供が!?」

「魔族じゃないのか?」

「いや、あれは人間だ!」


 口々に声を上げる男達をよそに、イノシシは荒い鼻息を姉さんに向けた。

 地面を引っ掻く前足を止め、今にも突進してきそうだ。小石を掲げて構える姉さん。


 ブホォォォ!!


 来たっ! 

 巨体を揺らしながら、一直線に向かって来るイノシシ。

 しかし、所詮は、獣……姉さんの良いマトだ。

 ふふふ、僕の、姉さんの恐ろしさを知るがいい!


 ヒュン! ドボォッ!!


 肉の爆ぜる鈍い音、男達は状況が理解できなかった。

 倒れ込むイノシシ、体に大きな穴を開けて、前足を細かく痙攣させている。

 何が起こったか、分からない。しかし、この少女がイノシシを仕留めたことは明らかだ。

 目の前の光景に思考が追いつかず、声のでない男達。


「おし、今日の晩御飯は、これやな……」


 ぽつりと漏らした姉さんの独り言が、やけにハッキリと聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ