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異世界に来てから、三ヶ月が経ちました。
ナラの樹海は、豊富な自然の恵みに溢れていて、僕たち二人だけなら、なんとか生きていくことが出来そうです。
そして、姉さんの能力もかなり凶悪に進化しました。能力は、使えば使うほど進化していくようで、今では、小石を投げるだけでバズーカー砲のような威力を発揮しています。
一方、僕の能力は封印されているので、進展はない。もっとも、こんな能力、退化してなくなっても構わないくらいなんだけど。
今の僕は、毎日、洗濯や木の実集め、家の掃除などをしています。
肌も小麦色に焼けて、なんだか男らしくなってきました。
あっ、家は良い洞穴を見つけたので、そこには住み始めました。
今日もいい天気です。姉さんは、イノシシを狩りに森の奥に出張っているので、一人でドングリを集めているところです。
「ふぅ、段々と寒くなってきたなー、収穫も減ってきたし、もしかして冬がくるのかな? 帰ったら兄さんに聞いてもらおうか」
兄さんは、まだ僕の回線を作ってくれてないので、分からないことは、姉さんを介して聞いています。もし、冬が来るなら、食料を貯蔵することを考えないと厳しいかも。
…………がやがや……がや
んっ? 森の奥から、何か聞こえた。
耳を澄ます……人間? 男の声? 一人じゃない、たくさんだ。
そういえば……
姉さんが言っていたことを思い出した。
南のドワーフたちは、優れた武器や工具、装飾品を作ることで有名です。それらは、普通、この森の東にあるオークの王国を迂回して北に運ばれるのですが、オークたちは、がめつく関税がメチャメチャ高いんです。
だから、北と南を繋ぐ、ここ、ナラの樹海を通って荷物を運ぶ命知らずが、時々いるらしいのですが。まあ、密輸みたいなもんです。
僕や姉さんが着ている服も、この樹海で魔物に襲われて死んでしまった人達の荷物から拝借したものです。たぶん、この人たちも密輸人ではないでしょうか。
ピクニックでこんなところに来る人はいないだろうし、きっと、あの声の主も危ない人達に違いない。
どうしよう? と、とにかく姉さんに知らせよう。
僕は大急ぎで家に戻りました。
「おねーちゃーん!!」
「おお、なんや。そんなに慌てて、魔物でも出たか?」
「良かったー! 帰っていたんだね」
「おお、イノシシは、見つけれなんだわ。それより、どうした?」
「いや、実は森で……」
僕たちのナワバリに不審者が侵入していることを、姉さんに話した。
「そうか……ちょっと見て来るわ」
「ええ!? 危ないんじゃ?」
「遠くから見るだけや。お前はここにおれや」
「待って下さい! 姉さんが行くなら僕も行きます!」
姉さんを一人で、危険な目に合わせられない。
「いや、お前は、ちょっと、どんくさいところがあるからなあ……」
「絶対、迷惑はかけません!」
「しゃーないな。うちの前には出るなよ?」
「はい!」
僕たちは、さっきの場所に行ったけど、もう、男達の声は聞こえなかった。
「奴らも、移動しとるやろーしな。大きな声は出すなよ。どっちから声が聞こえたんや?」
「あっちです」
見つかっては面倒だ。僕たちは、声を潜めながら歩を進めた。
足音を立てないように、茂みを揺らさないように注意を払う。
こういうことは、狩りに慣れた姉さんが得意とするところだ。
僕は、ただ、姉さんが選んだルートに続いて行けば良いのだ。
「ふうっ……」
……しばらく歩いたけど、何事もない。
姉さんが手で止まれと僕を制した。
「……これ以上はナワバリの外や、出て行ってくれたんなら、追う必要はないで。やめとこ」
僕は、ホッと胸を撫で下した。
もし、大勢の悪者達と争いになっても、僕には抵抗する術がない。
通り過ぎてくれたか……良かった! でも、住む場所を考え直す必要があるかも。
とにかく姉さんの言う通り、家に帰ろう。くるりと背を向けると、森の奥から男達の叫び声が聞こえてきた。
「うわー! オットコヌシだー! トムがやられたぞ!」