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「ごめんなさい! 姉さん!」
本当に情けない。簡単な見張りさえ出来ないなんて……
姉さんは、僕の代わりにずっと起きていたのだろうか?
「いいんやで、まー、朝飯でも食おうや」
「あっ、僕も手伝います!」
「じゃー、一緒にやろか」
「はい!
朝ごはんは、食材の調達からだ。姉さんは、主に、森に自生した木の実や果実、キノコを食べて生活していたようだ。
「木の実や果実は、場所を見つけたら、動かんしな。肉と違って簡単なんや」
「へえ、あの肉は、どうしたんですか?」
「この森には、でっかいイノシシがおってな。襲って来よったから、返り討ちにしたったんや。あれ、うまかったやろ? でも、解体はえぐいねんでー」
「わあ、すごいです! さすが姉さんです!」
話しているうちに、目的の場所に到着した。姉さんが木の上を指差すと、そこには豊熟した紫色の果実が一面に広がっていた。
「うわー、あれがアケビですかー!」
「ああ、なかなかの美味やで」
「あれ? 木の上になんかいますよ?」
日本猿のような動物が、僕たちのアケビをむさぶっている。
「ああ、あれはええんや。おーい、ブービー! 今日の分、落とせやー!」
ブービーと呼ばれた猿が、手に取っていたアケビを食べ終わると、身軽に枝を移動してアケビを落としてきた。
「もっとやー、今日からは二人分や! もっと落とさんかい!」
話によると、この辺りは姉さんの縄張りで、この果実も姉さんの物ということだ。とは言っても、他の動物に盗まれないように、ずっとアケビの実を、見ているわけにもいかず、この猿に代わりに見張りをさせているということだ。猿は、褒美に、ここのアケビを貰っているということです。こんな場所を幾つか持っているので、食料には困らないみたいだ。
「はー、猿のくせに賢いですねー。姉さんは、こんなことも出来るんですねー」
「賢い言うても、所詮、猿やからなー、脳の奴に、意思疎通してもらっって、ようやく今の形に持ってこれたんや」
でも、心配していた食料調達が問題ないことを知って、ようやく安心できた。
このアケビという果実も見た目はグロいけど、なかなかうまい。ほんのりと甘くて素朴な味わいだ。
朝食を終えると、その辺を散策する。歩きながら、食べられる植物や、毒キノコ、危険な生物がいる場所を教わった。
「はえー、こんなのも食べられるんですねー」
食べながら、一つ、疑問に思うことがあった。
「ねえ、なんで姉さんは人間の国に行かずに、ここいるんですか?」
人間の国の方が、遥かに暮らしやすいように思えたのだ。
姉さんは立ち止まると、落ちていた木の枝を拾い上げ、地面に四角を描く。
パシパシと四角の中を叩きながら説明を始めた。
「えーとな、これを世界とするとな、この森は、真ん中や。そんで、人間の国は、この北の端っこなんや。めっちゃ遠いし、魔族とも戦争してるみたいやからな。ここの方が気楽やで」
「でも、器官がいれば、人間の国に集まってそうじゃないですか?」
「そうかもしれんなー、器官に会いたいんか?」
「だって、元の世界に帰るヒントがあるかもです!」
「えっ、帰りたいん?」
「えっ? 姉さんは、帰りたくないんですか?」
「あー、うん。うちは毎日、正也の汚いケツ拭かされてたしな、色々こきも使われていたし、ここの方が楽やで」
ショックだった。でも、右手姉さんや脳兄さん、心臓さん、足さん、みんな忙しいそうに働いていた。僕はぶら下がっているだけだったけど、みんなは大変だったんだ。元の世界に戻りたかったのは僕だけだったのかも……
「それにな……」
「??」
「人間が苦手やねん……」
「えええ? どういうことですか?」
「いや、正也も引きこもりやったやろ? いらもん引き継いでもうたわ」
「でも、全然、普通に見えますよ」
「お前は、弟みたいなもんやからな」
「そうですか……」
人間の国に行ってみたいけど、今の事情を聞く限り、行けそうにないです。
でも、姉さんと一緒なら、ここで行きていくのも悪くないかも。
話を終えると、僕たちは昼ごはんを取りに次の場所に向かった。