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やあ、僕の名前は、ち〇ぽ!
えっ? ふざけるなって?
いえ……ごめんなさい。
でも、からかっているわけじゃ、ないんです。
実は、僕、異世界から転生した人間……じゃなくて、体の器官なんです。
色々、説明できたら良いんだけど……僕も転生したばかりで、その、よく分かってないんです。
数時間前? 時計がないから、正確には分からないんだけど、とにかく少し前に目を覚ました僕は、いきなり異世界にいました。
なんで異世界だと分かるかって? だって、僕、人間じゃないんですよ? ち〇ぽなんですよ!?
ち〇ぽが自我を持って、見知らぬ土地で目を覚ますなんて、異世界転生以外あり得ないじゃないですか?
あー早く、元の世界に帰りたい……
だって、今まで正也さんの体の一部……ああ、正也さんっていうのは僕の本体の人で、最高のご主人様なんです! 正也さんは、毎日、僕のことを優しく撫でてくれて、可愛がってくれて……僕は本当に幸せな日々を過ごしていました。
その僕が本体になっちゃって……これからはトイレも、ご飯も、着替えも、全て自分でしなくちゃいけないんです。
何より、ち〇ぽだった頃は、こんな不安な気持ちなったことはなかったのに!
まあ、今はそれどころじゃないので、身の上話は、この辺りで終わりますけど……
いやいや、本当に大変なんですよ! だって、僕は裸だし、ここはジャングルだし……これって、いきなり詰んでいませんか?
僕は、正也さんの記憶を持っているようですが、サバイバルの知識なんて、ぶっちゃけないです。
しかも中学生ほどの体格の僕、とてもここで生活できるとは思えません。
いずれ日も暮れますが、夜になったら、恐ろしい肉食獣が出てきたりしないですか?
そう考えると、生きた心地がしません。
ガサガサ
ひっ!
前方の茂みが音を立てる。
僕は情けない声を出して、側にあった木の後ろに隠れた。
熊だったら、どうしよう?
もし、そうならアウトだ。
ゆっくりと、顔を半分だして様子を伺う。
一息つくと今度は、身を屈め、下にある石を拾った。
こんな物、気休めにもならないけど、ないよりはマシだ。
ガサガサガサ
間違いない、こっちに近づいて来る。
おいしい思いもなく異世界転生は、終了か……短い珍生だったな。
……いや、諦めるのはまだ早い。相手はバカな獣だ。
この石を遠くに放り投げたら、惑わすことが出来るかもしれない。
迷っている暇はなかった。狙いは、茂みの向こう側!
えいっ!
僕は思いっきり、石を投げた。
ドス!
あれ? あれれ? 予想以上に非力な僕の身体。石は茂みの中に消えていき、何かにぶつかる音がした。
「痛ったいな~、誰や? 殺すで、ほんま」
やばい! 人だったんだ……
「ご、ごめんなさい。熊かと思って……」
茂みの中から綺麗なお姉さんが現れた。褐色の肌に、可愛い猫目の健康的な女性、なぜか、男物のブカブカした服を着ている。
「こんな可愛い熊がいるかよ!……へっ、お、お前っ!?」
そう言えば、僕は裸だった。
こんな時、なんて言えばいいんだろう?
「ハ、ハロー! 勘違いしないで! 僕は変態じゃないから!」
お姉さんは、固まっている。
不味いぞ……ここで逃げられたら、僕は野たれ死んでしまうかもしれない。
毛の生え揃っていない前を隠しつつ、引きつったような笑顔を浮かべる。
「お、お前、まさか、正也の?」
「えっ? なぜ、正也さんのことを! も、もしかしてお姉さんも?」
彼女こそ、僕を毎晩、優しく撫でてくれていた優しいお姉さんこと、右手さんだった。
今、僕の激しくも儚い珍生が、その開幕の時を迎えた!