ライト王子とバカ親2人
ゆっくり更新していきます。
ギャグ小説です(強調)
「ライト王、面会を求めている方々がお前になりました。」
「通せ」
そうは言うものの、ライト王の顔色は優れなかった。この扉を開け、中に入って2人が一体何を言いだすのかは大体の想像がついていたし、荒れるのも目に見えているからだ。
ライト王、長い金髪にいかにも豪華な赤いマント。白い王のみが着用を許されている歴史あるその服装にその身を包んだ、王座に立つことを望んでいなかったその男は、その美しい顔を若干歪めつつもそう言い放った。
その側にいる男も、またそんな彼の気分を理解しているかのように苦笑する
この男の名はウルフィアス、身長180センチという高身長ながら傍らの王に比べると痩せている印象のあるこの男。金髪にグリーンの瞳が怪しく光り、全てをからかっているかのような顔をしながらも、彼は今日も忠実に、友への忠誠を尽くしていた。
そんな、俗に王の間などと呼ばれている、ライト王と貴族や客人が謁見するこの間に、ライトとウルフィアス以外の2人の男が平伏していた。
1人は、身長190センチはある大男だった。鋭い眼光と、美しく整えられた髪、野獣のような目を煌々と光らせている。もじゃもじゃと生えた髭と、全身から迸る殺気が特徴だ。謁見の際にしか使用しないのであろうか。全体的にピチピチな服装をしている。その服装は決して粗野とは言わないが、美しいとも言い難い。貴族社会を良く知るものが見たらマイナスの評価をつけるだろう服装をしていた。
王国軍騎士団長、この国にある最大戦力、騎士団を持つ男、ルーカンである。
「ルーカン・ド・バトラー、謁見を許可して頂きありがとうございます。今回は私の『愛弟子』についてお話があります」
なんか妙に「愛弟子」を強調してる気がするな・・とそう思っていたライトなのだが、隣にいる男からは噴怒の相が出ていたので、色々と察した。
お前達、ノアを取り合って争うなよ。
もう1人の男は、これまたルーカンに負けず劣らずといった体格をした男だった。ルーカンが熊なら、この男は獅子といったところか。しかし、口元に僅かに蓄えられたこれまたルーカンと違って、美しく整えられた髭が彼の出自の高貴さを物語っている。若い頃はさぞやモテたのだろうな、とライトが関心するほどのイケメン中年オヤジである。礼儀作法もルーカンに比べれば遥かに見ていて素晴らしいものであった。
王国ノーフォード子爵、貴族の中でも屈指の武力を誇る男、ヘンリー・サムセットである。
「ヘンリー・サムセット。陛下、ご予定を繰り上げて頂きましたこと、誠にありがとうございます。本日は私の『愛息子』についてお話しがあります」
途端、ルーカンの顔が若干に歪む。
全くこいつらは、親バカにも程があるだろう。
ルーカン・バトラーはノア・サムセットが所属する騎士団の団長、つまりは上司にあたる。貴族の子弟の中には、幼い頃より武芸を本格的に習わせたいと、騎士団などで面倒を見てもらうことがある。流石に貴族の子弟に小姓をさせる訳にもいかないので、12.3歳から見習いとして訓練に参加することにはなるのだが。
ノア・サムセットは、そんな騎士団の中でもルーカンのお気に入りの1人だった。無論、息子であるイーサン・バトラーが仲が良い、という意味合いもあるのだろう。
(だからと言って、王国最強の矛と盾がこぞって、たかが1人の騎士見習いのためにいちいち私に詰めかけてくるんじゃない!)
ライト王は、そう叫びたくなる衝動をぐっと抑える。まぁヘンリーの方に関しては報告という立派な理由があるからいいのだが、ルーカンはたかが弟子のために動くという時点で、ノアをどれだけ溺愛しているかが伺える。
「愛弟子だとぉ!?ルーカン貴様、私は貴様に大事な愛息子を預けた記憶などない、ノアに剣を教えたのはこの私だ!」
「弟子と、子供に剣を教えるのは違うことだ。私の後ろ盾を得ることができることはノアに取っても利点しかない素直に認めるんだな」
「ぐぅぎぃぃぃ・・ルーカン、私の息子に妙なことを吹き込んだらその首跳ねてやるからな!」
「ははは!ヘンリー。ノアは立派な騎士にしてやるからな。」
「違う、ノアは私の作った完璧なルートに沿っていずれこの国を担う立派な貴族になるんだ!貴様のような野蛮人してなるものか!」
「お前達、良い加減にしろよ・・」
王の前で、思春期の子供を取り合う親。見ていて恥ずかしいことこの上ない光景だが、自分にも息子はいる。気持ちがわからないこともなかった。
「ノア・サムセットの行動は既にノーフォード子爵夫人より詳細の報告が届いている、無論私の方でも調査はしているが、ほぼ間違いないだろう。正体不明のAランク級のモンスターが子爵家長男以下3名の前に出現、ノア・サムセットが自爆魔法を行使し、モンスターを撃破した。ダンジョンこそ消滅した結果となったが、人的被害はゼロ。責任を追及することはない」
と、高らかに言ってみたものの、問題は大アリなのである。あのダンジョンは低ランク冒険者や、時には騎士団の実戦訓練などで使用されることのある場所だった。だからこそ魔物が狩り尽くされないように、王国が半端私有化していたのだが、今回の事件でダンジョンとしての機能は格段に落ちてしまった。
まぁ、御託を言ったところでノア・サムセットに責任を追及することはないし、できないのだが。
そもそも、たかが1つのダンジョンが消えた程度で、王国が揺らぐことはないのだ。
それよりも問題は2人の国防を担うような男に睨まれることの方が、現状王政がまだ安定しているとは言い難いライト王子には酷な話しだった。
人魔戦争、邪神との戦いによってこの国は疲弊してしまっている。この国の周りにあるケイアポリス王国、帝国、海洋国家ウォルテシア、オワリの国以下東部諸国も、それぞれ大きな打撃を受けている。ケイアポリス王国では先代王が倒れ、王位を継ぐかと思われた兄が帝国の皇帝となってしまったので、急遽この第2王子、ライトが政権を取ることになってしまったのである。
人魔戦争、そして邪神との戦い。
3年前に起きた、民草で知らぬ者はいない英雄の物語。魔族の人間領への大規模な進行、そして、人魔戦争の途中で現れた人間に害を為す邪神・アイテールの存在。
それと同時に、1人の英雄が生まれたきっかけの戦争でもあったが。
話がそれてしまった。ともかく、今の不安定な状況で国防を担う者たちの恨みを買うことは得策ではない。そうライトは考えたのだ、たとえそれが若干甘いと言われようとも。
そもそも、ノアが自爆魔法を使ったということは隠蔽するので、ごくごく一部の首脳陣しか知らぬことなので問題はないのだが。
目をキラキラさせながらお互いを見つめ合い、「やったぜ」と言わんばかりの顔をしている2人を見て、再度ライト王はため息をついた。
この2人が、戦士としても、政治的にも評価の高い2人であるというのが、現在のケイアポリス王国の現状である。
(この2人、普段は優秀な男なんだがな・・途端に息子や愛弟子のことになると我を忘れるのが欠点だよな)
そう思いながらも、ライトはこの2人の評価を下げることはないし、他のものにこの2人の変わりができるかと言うと微妙なところではあった。
実際、この2人と戦い、勝利することができる人間などそうそういないのだが、全くいない訳ではない。
さらに、この2人より政治や権謀術数に優れている人物がいるか、とそう言われれば、以外といるのかもしれない。
しかし、両方できるからこそ、ライト王はこの王の目の前で言い争うという不敬を犯しているバカ2人を信頼しているし、重宝している。
政治と戦いの実力、そんなものが高い基準で両立されている者など、そうそうないのだから。
しかし、何かしらの罰は必要だよね?王に力ずくで会おうとしたり、息子の経歴に傷をつけることは極力回避したいと思っていたらね。
「ところで、ノア・サムセットと、エヴァドニ・バスを、王の間に呼んでおいた。もうすぐ到着するだろうから、そのまま平伏して待っておけ。」
げ
2人の親父の顔に、青い靄のようなものがかかった気がした。
ざまぁみやがれ、ライト王は若干青ざめた顔をしている2人を見て少し俯いていた気分を元に戻す。
さて、3年ぶりだ、どんな姿になっているから・・彼は
徐々に開かれるドアを見ながら、ライト王はそう思った。
ネタすぎて笑う