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くだらないんだよ

 走り続ける馬車の中で、私は元側妃の夫である近衛騎士と対峙していた。


「何故起き上がれる?そこの子供が害されても知らぬふりをしていたのか?やはり性根が醜いのだな」


 元近衛騎士は驚きながらもそう告げた。


「…か弱い子供をいたぶる最低辺男に言われたくはありませんわ。わざと拐われた事に否定はしません。捕らわれた子供達の安全が最優先でしたから」


 ペンダントについては意識的にふせた。わざわざ教えてやる義理もない。


「わりゅもの…!」

「セツ姉はショーネがみにくくなんかねーよ!クソ野郎が!!」


 ソラ君とトラ君が毛を逆立てて威嚇する。私を守ろうとする意思が伝わってくる。


「…こんな可愛くて優しくて可愛くてモフモフで可愛くてお利口さんで可愛くて勇敢で可愛くて元気な子達に怪我をさせるなんて、近衛騎士どころか人間失格ですね!」


「………にゃう」

「……………おい。可愛い言い過ぎだろ」


 照れるとこもまたかわゆい。兄弟揃って激しくぷりちーよね!ぎゅうっと抱きしめてナデナデしてやる。怖かったよね、ごめんね。もう大丈夫だからね。


「…私はもう近衛騎士ではない。他者を陥れて捕らえるような騎士団に、用はない」


「陥れた証拠は?」


「…………は?」


「ですから、証拠」


 なんでそんなびっくりしてるわけ?逆にこっちがびっくりだわ。


「え?だから、証拠は?と申しております。近衛騎士団に在籍していたのですからご存知ですよね?証拠に基づいて捜査してましたよね?近衛は違うのですか?ま、まさか勘で捕縛してるとか馬鹿なこと言わないですよね??」


「い、いや…そのやり方だ。きちんと証拠に基づいて捜査をしていたが…」


 元近衛騎士が明らかに狼狽する。良かった、ホッとしたよ。


「ちなみに、捜査には私も関わってたから断言できますが…現在元側妃にかかっている容疑ですが、冤罪はゼロですよ。陛下、王太子殿下、銀翼が何年もかけて証拠を積み重ねてきましたし」


「…は?」


「証拠は愛する人の言葉だけとか?馬鹿じゃありませんか?本気で信じてるなら、死ぬ気で冤罪の証拠を持ってきて救ってやりなさいよ!!」


 ケビンなら、きっとそうする。ズタボロになってでも、私が犯人じゃない証拠を必死でかき集めて来てくれる。もしも私が本当に犯人だったなら、泣くんだろうなぁ…なんかしょんぼりさめざめ泣く姿が目に浮かぶ。そんで、一緒に罪を償うとか言いそう!いらん苦労を背負いこみそう!うああ、ケビン尊い!

 私は暫く妄想しながらソラ君達をもふったりぎゅーぎゅーしたりしていた。元近衛騎士は何やら呆然としている。その発想はなかったと?馬鹿じゃないの?


「…………………」


「あげく、私を誘きだすために子供達を傷つけて…この、最低辺!人間の屑!ウジ虫以下!腐乱死体以下!!」


 思いつくかぎりの罵詈雑言を叩きつける。くそう、語彙力が欲しい!カダルさん、今こそ(オラ)にそのどS力を!相手をザックリ殺れる言葉の攻撃力をください!

 なんか『はっはっは、お任せあれ』って声が聞こえた気がした。


「お、おい…そこまで言わんでも…」


 傍観していたゴロツキぽいオッサンが口をはさんできた。


「うちの可愛いよい子達に怪我をさせたんだから、あんたらも同じですからね。ウジ虫以下の分際で私に話しかけないでください。しかも、あんたら犯罪の片棒担いでる自覚あるんですか?こいつは大罪人で死刑間違いなしの元側妃を脱獄させた犯罪者ですよ?おまけにこの子達は現騎士団長・ケビン様の養い子達。私はその妻です。死刑になる覚悟がおありで?」


 彼らは一斉に青ざめた。


「は、話が違う!」


 んん?


「あんた、俺らに嘘ついてたのか!?」


「どっちが本当の事を言ってんだ!?」


 んんん??


「ちなみになんと聞いたんですか?」


「無実の罪で捕らわれた側妃様を助けてえ、あんたはその側妃様をハメた大罪人で、ガキ共も手下だって…お前らを捕らえれば俺達にも便宜をはかってくれるって……」


「貴方の目で見て判断なさい。私は一切嘘を吐いておりません。このままでは貴方達は犯罪者。私に協力するならば…正直したくはありませんが叙情酌量の余地もありそうですし減刑を願ってあげましょう」


「嘘をつくな!嘘だ!あの方が、あの方が何をしたと言うのだ!!」


 信じる相手を間違えたね。あの元側妃と彼がどんな関係なのかは知らない。だが、彼はあの元側妃を心から信じているのだろう。


「直接は手を下してないね。罪状が多すぎて全部は覚えてないけど……」


 私は元側妃の罪を覚えている限り全て語った。どのような証拠があり、どんな状況だったかも子細に語っていく。作り話ではないと、腐っても元近衛騎士ならば解るだろう。その証拠に、元近衛騎士は真っ青になっていた。


「で、肝心の元側妃はどこに?まさか独りにしてないでしょうね」


「ひ、姫は……姫の前でお前を殺せば、私だけの姫になってくれると…約束した」


「馬鹿なの?いや、馬鹿じゃない??」


「そうだよ!なんも悪いことしてねぇセツ姉を殺せって言うとか、間違いなくそいつが悪人じゃねぇか!お前、目が腐ってるんじゃねえか!?よぉぉく見ろよ!セツ姉は可愛くて、俺らみてぇな薄汚いスラム育ちのガキ共を傷つけられて怒って泣いてくれるぐれぇ優しい!!本当はイカイのヒメサマってえれぇお姫さまなのに、俺らみたいな醜い獣人のガキに笑いかけてくれるんだ!」


 いや、そっちじゃなくて…私はトラ君にも可愛いと思われていたのか。驚きだね!


「おねちゃ、やさちい」


「ねーね、まもる!」


「………悪いのは、おじさんのほう」


「………………セツ姉をいじめる奴、ゆるさない」


 目が覚めたのだろう。ルル君、トーワ君、エド君が私を庇うように前に立つ。

 ん?エド君がしゃべったよ!!


「…そうだな。俺から見たって、セツ姉はどう見ても善人だ。最初こそ警戒していたが、この人は団長とお似合いの底抜けのお人好しだ。さっきはチビ達を人質にされたが…今度は負けねぇ!」


 シロウ君も私を…私達を庇うように前に立つ。いや、お姉ちゃんはわりと自分勝手でお人好しではないよ?まぁいいけど。





「皆可愛い!大好きぃぃ!!」




「にゃっ!?」

「ふみゅっ!?」

「きゅ!?」

「ぴ!?」

「ヒヒン!?」

「キャン!?」


 いや、そんな場合じゃないのは百も承知だけども、我慢できなかった。全員捕獲して抱きしめて撫でまわす。


「ちょ、放せよセツ姉!」


「そーだよ!ワルモノなんか俺達が倒してやる!」


「お姉ちゃんの結界があるから問題なし!あああもう、可愛いったらないわぁぁ!!ウチの子、最高!!」


 全員をわっしゃわっしゃ撫でまくる。そしてさりげなく、風魔法で元近衛騎士にだけ教えてやった。んん、シロウ君だけは気がついたみたいね?賢いな。


「あんた、本当に馬鹿だね。あのプライドの塊みたいな女が、本気であんただけの姫になると思う?逃亡生活に耐えられると思ってるの?」


「………ま、まさか……」


 恐らくは…あの女なら……元近衛騎士も思い当たったらしく顔面蒼白になる。


「私は…私はなんのために……」


 泣き崩れる元近衛騎士をフルシカトして子供達を可愛がる私。


「…おい、馬車を止めろ!」


 馬車が止まる。ゴロツキのリーダー格らしき男が出てきた。


「…俺らは、お姫さん…あんたを信じる」


 そして元近衛騎士を捕縛して、ゴロツキ達は全員が子供達に謝罪した。すまなかった、と悔いる彼らは元々傭兵だったが冤罪で捕まり、前科があるためにろくな仕事につけず今に至ったらしい。


「貴様ら…!」


「金はいらねぇ。テメェも騙されてたみたいだな。馬車で引き返して町に…」


 ゴロツキがそう言いかけたところで、本日最大音量のアラームが鳴り響いた。うるさああああい!!


「全員、退避!!」


 咄嗟に馬車の外に全員を転移させた。馬車がぐしゃぐしゃになり、馬が逃げ出した。


 まだアラームがけたたましく鳴り響いている。長い夜は、まだ終わらない。

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