予想外の事態だよ
夕食が終わり、シャイなマイダーリンも帰還したので、改めてスノウから話を聞くことになった。
話が長かったので要約すると、以下の通り。
悪魔の子と蔑まれ幽閉されていたスノウが外に出されるのは『仕事』の時だけだった。『仕事』に出れば食事を与えられる。この当時、すでに魔法である程度食事を得ていたスノウだったけどバレれば魔法を封じられると思っていたので素直にしたがっていたそうだ。実際には彼の莫大な魔力を封じる術など当時はなかったのだが、幼く無知なスノウは知らなかった。
スノウの用途は魔力電池。血の縁を使い、彼の魔力を引き出して父が魔法を使うのだ。父は幾人も殺した。目撃者も、ターゲットも、全てだ。
あの日のことはよく覚えている。ケイ様は強かった。父の魔法も当たらなければ意味がない。父はスノウを盾にした。スノウは、自分は死ぬのだと思った。崖から落とされ、誰にも惜しまれない。
だが、あたたかい手がスノウを死なせなかった。彼を引き上げた手が落ちていく。ケイ様は笑顔だった。笑顔で落ちていく優しい人を魔法で引き上げようとしたが、何かに邪魔されてできなかった。多分、何かを叫んだ。父の笑い声が腹立たしかった。
それからスノウは父を完全に拒絶した。魔力を貸すことを拒否した。水も食事もいらない。魔法を使えることも隠さない。
スノウが魔法を使えることを知った父は…いや、スノウの家族だった人間達はスノウの報復を恐れた。彼を侮蔑するものはいなくなり、関わろうとする者はいなかった。
彼はそれから1年後に今の師匠に引き取られた。
今思えば、多分師匠は全てを知った上でスノウを引き取ったのだろう。
だって彼は初めて会った時、スノウに『正しい魔法の使い方を教えてやる』と言ったのだから……
当時スノウは5歳そこらだったはずだが、その記憶力は相当なものだった。
地図を指し示し、父がいつどこの誰を何人殺したか、誰に何を指示し、誰に依頼されて結果はどうなったか。実に、百件近い暗殺計画すべてを完璧に記憶していた。実際の事件記録と照らし合わせ、それは完全に一致した。
さらに呼びつけられた賢者が情報を補足し…今の魔法師団は半分が暗殺者であることがわかった。
「ようやく、終わるのだな…」
疲れたような賢者。力量不足で止めたくても止められなかった。スノウのような前途ある若者を庇護するだけで手一杯だったらしい。
「後は我々に任せていただこう。時間との勝負だ!今夜、決行する!」
『はっ!!』
私の護衛に双子騎士を残し、ケビン達は夜の町へ走り去った。スノウ、賢者は担がれていた。転移では察知される危険があるから、迅速に移動するために仕方ないらしい。人さらいみたいと思ったが、空気を読んで黙っておいた。
無事を祈ると、お腹がじんわり光った。大丈夫、お父さんはちゃんとお仕事をこなして帰ってくるからね。優しくお腹をなでた。
無事を祈るしかないのは悔しいが、仕方ない。私は彼の弱点になるから。
お腹のベイビーズが笑った。
『ぱー、だいじょー』
「ん?」
どうやらリアルタイムでケビンの状態を見せてくれているらしい。
すげーわ。
うちの可愛いマイダーリン、すげーわ。一撃で倒れていく魔法使い達。魔法を放っても片手で振り払う。 あんなゲーム、あったな。
ケビン無双だわ。
あら?あの光は…放たれた魔法を無効にした魔力に覚えがあった。
「…ふっ…我が子らか。ありがたい」
ケビンは笑い、姿を消した。そしてバタバタと倒れる魔法使い。なんかの特撮みたいだわ…現実味がないわ。魔法使いは、魔法を使わせずに倒すべし。基本だね!
あ、結界がバキバキ壊された。結界って、バキバキ壊せるんだっけ?割れ物だったっけ?
「あ、あり得ない!素手で結界を…破壊するなど…!」
ですよねー。
違うヨネー。
ケビンがおかしいんだヨネー。
「ば、化け物ぉぉ!?」
怯え逃げ惑う者、応戦する者、手当たり次第物を投げる者…等しくケビンに一撃でやられている。
「団長すごいね~」
「多分早く帰りたいんじゃね?ヒメサマが待ってるしぃ」
『なるほど』
思わず私まで納得した。すごい説得力だね!他の騎士達はケビンがぶちのめした魔法使いを次々と手際よく捕縛して……サズドマの縛りかたが相変わらずおかしい。おま、縄を無駄遣いするんじゃない!また変な性癖を開花させる人間がいたらどーすんだ!!
「サズドマ、真面目にやらないと姫様にチクっておやつを削減「次からちゃんとやる!」
「よし」
シャザル君がすっかりサズドマ使いに……とりあえず、明日のおやつはサービスするからね!
「流石はサズドマ係だな」
「変な係作らないでください!!」
真顔でボケるヘルマータに、涙目でつっこむシャザル君。この二人は案外仲が悪くない。
ツッコミにキョトンとするヘルマータ。
「?違うのか??」
「違いますから!」
「…何人かから聞いたから、本当にあるのかと…」
「信じないで!!そんな係は無いですから!!」
公式には無いけど、その係は絶対シャザル君に押しつけられてるとお姉さんは思うよ。ヘルマータはそうなのか?と首をかしげていた。
そんな微妙に愉快な会話をしつつ、彼らはあり得ないほどに素早く魔法使いを縛りあげていく。ここは問題ないね。
「そちらに隠し通路!」
「あっちに転移陣がある!」
勝手知ったる二人は案内しながら走っている。
「裏切ったか!?」
「へへーん、そもそもワシはお前らの味方なんかじゃないもんねー!だから裏切ってないもんねー!」
あっかんべーをする賢者。ファンキーなじじいである。しかし、嫌いではない。
「ぐっ、裏切り者を殺せ!」
「だれを、ころすって?」
馬鹿がスノウのバーサークモードのスイッチを押しちゃいました。
「お師匠様を害するやつ…ゆるさない…」
「スノウ、やるのはかまわんが加減はせいよ!」
「はい!」
加減した結果、彼らは雷撃で行動不能にされていた。やるね、スノウ!
「腕を上げたのう…ワシも負けられんわ!」
賢者は幻惑系が得手なのか、次々と魔法使いを眠らせていく。
「お恥ずかしながら…奉仕労働で体力がすぐ尽きておりまして…姫様から筋肉を動かすのは電気刺激と教わり、雷魔法で無理矢理動かしておりました。失敗して失神したおかげで、他にも使えることに気がつきました。さらにはコントロールも格段に上がりましたよ!」
「危ないことするでないわ、馬鹿たれが!」
もっと叱っといて!心臓麻痺したら死ぬから!超絶デンジャーだからね!!
最後に、ラスボス的なスノウの父親が捕縛された。うちのマイダーリンに一撃でやられていた。
「…ありがと、ベイビーズ」
とりあえずケビンは大丈夫だなとお腹をなでた。
「姫様?」
見送ってからずっと固まっていた私を心配したらしい双子騎士達に微笑んだ。
「大丈夫。ケビン達を見ていただけよ」
私は家で彼の帰りを待とう。どれほど遅くなろうと、おかえりなさいを言うために。
私はゆっくりと私達の家に戻るのだった。
早く帰りたい…(U´・ェ・)
さっさと事後処理の書類を片付けたら返してあげますよ
by副団長様




