愛し子の意味を知ったよ
皆でほのぼのとした空気が流れたが、まだまだ疑問はある。
「なんでケイ様は異常に若いんでしょうね…」
どうもじい達よりは年下だったらしいのだが、どう見ても若すぎる。
事故当時は27歳だったそうだ。しかし、下手をすればケビンの方が老けて見える。じい達やケビンから見たら、事故当時とほぼ変わらない外見年齢らしい。
ピエトロ君が私の肩にとまった。
「そろそろその件について説明していい?この崖は『裂け目』なんだ」
「裂け目?」
「次元の裂け目。異界との境目。だから他のものが混ざらないように、ここには特殊な精霊がいる」
「私の世界とも繋がってるから自動車が見えたんだね」
ピエトロ君が頷いた。
「そのヒトが助かったのは、女神に愛された愛し子だから。時空の精霊も困ったみたいだよ。裂け目から出してやる力はないし、愛し子を死なせたくないしで」
「…つまり?」
「頑張って、食事を落とすときだけ彼女が落ちた時空と繋いでたみたい。彼女自身少しずつ這い上がったからやっと出れたみたいだね。姫様の赤ちゃん達が気がついて、時空の精霊に呼びかけてかなりショートカットさせたみたいだけど。本来ならあと10年はかかったらしいよ」
「でかした、ベイビーズ!!」
ベイビーズは誉められたと思ったらしく、ご機嫌です。
「そっかぁ。あんがとなぁ」
お腹を撫でるケイ様に腹がチカチカ光った。ご機嫌です。
「お腹が空いたら可哀相だから、お腹が空かないように体の時間をゆっくりにしてたみたい」
「…そういや、毎日食事が落ちてきてたな」
「…週1程度の頻度で落としておりましたが」
じいが頭をかかえました。
「つまり、20年の7分の1…2年ちょいしか年を取らなかった………?」
「というわけ。他に質問は?」
私は挙手して質問した。
「裂け目はなんでできたの?」
「女神様のヒス…怒りによりできたらしいよ?」
今、ヒステリーって言いかけたな。
「何に怒ったの?」
「確か、女性の扱いが昔はもんのすご~く酷くて、子を産む家畜…いや、それ以下の扱いだったんだって。力で劣るからと屈服させ、一方的に男は女から色々なものを搾取した。だからミスティア様が怒り狂って裂け目ができたり、女の子が産まれなくなる呪いをかけた。女性が稀少になれば大事にせざるをえない。もはや滅亡の危機だ」
「……おおぅ」
女児出生率低下の最大の原因は女神か。そりゃ異界召喚するとか、対策するわな…いや待て。
「女神がやらかした呪いなのに、女神が解除できないの?」
「………ちょい待ってね。怒り狂ってやらかしたせいか、解除しようとしたけどできなかったらしいよ」
「…怒りすぎて、火事場の馬鹿力が出た的な?」
「……そんな感じだって」
「うっかり迷惑女神め」
「……やめてあげて!本人自覚しててさめざめ泣いてる!」
ピエトロ君が言うなら仕方ないが、今度どっかで説教したいね。
「甘やかしたら駄目だよ。既に私の召喚ミスとか色々やらかしてるからね!」
「…………」
流石にそこはフォローできないらしく、ピエトロ君が黙った。
「女神への折檻は保留にするとして「折檻する気なの!?」
できたらするかもしんないが、そこはどうでもいい。
「…保留にするとして、愛し子って何?愛し子だとなんか精霊さんから優遇されるの?」
「ああ、愛し子は女神に愛された魂だよ。男女関係ないけど、特に女性の愛し子は、女児を産めない呪いを受けないんだ」
「はい?」
「前に進む力をもつ、綺麗な魂。自由な心の持主だよ。それは精霊からも愛される。この場だと…姫様と赤ちゃん達は当然として、団長と、団長ママと……いや、この場の全員が該当者だな」
「つまり異界の姫君でなくとも、女児を産める…というか、ケイ様は女児を産める?」
「そう」
「…ラトビアちゃんは?」
「今の彼女なら…いや、まだ完全に『自由』ではないかな」
この件に関しては王様とよく話す必要があるかなぁ。とてつもなく面倒な気配がする。側妃の件に決着がついてからじゃないと、多分あのババアなら女性の虐殺とかもやりかねない。
「…女神はこのことを伝えなかったの?」
「伝えたから今の状態なんだよ。女神は女性を自由にすれば呪いは解けると告げた。女性はそのため、ある意味自由になれた。でも今の状態が歪だと、本当に自由な魂を持つ姫様なら解るでしょ?女神が望んだ『自由』を、女性達は得ていない」
「…そうね」
ラトビアちゃんとの話を思い出す。そもそも、教育改革からしないとこれは多分どーにもならない。
「よし!ちっと仕込んでくるわ!」
「え?」
「頭!?あんたまさか…」
「ものには順序が!」
「あの、バ頭ぁぁぁ!!」
ものすごい速さで、ケイ様は走り去った。誰も止められなかった。後日、ケイ様が化けて出たと大騒ぎになっていた。すいません、本物なんだよ…
夕方、ツヤツヤしながらケイ様が帰ってきた。いい笑顔だった。
「仕込んできた!」
元銀翼騎士達から超叱られました。
「あんたバカですか!バカでした!殺されかけてなんの対策もなしに行くとか、大馬鹿たれですね!!」
「きゅーん……」
「バカだバカだとは思ってましたが、命懸けでヤリに行くとかバカすぎるわ!」
「きゅ、きゅーん…」
「…えっと…大好きな人に会いたくて諦めずにずっと何年も崖を上ってたんでしょうし…そのぐらいで…」
「セッカ…」
「おねちゃ、はんちぇいしたにょ~?」
「ん?うむ!反省した!」
「にゃら、おにゃにょこにいじわる、めっ!」
「めっ!」
「ぴっ!」
「………(じとー)」
ちみっこ軍団がケイ様を守ろうと立ち上がった!えらい!可愛い!もふもふ!!
「せちゅねーね、じゃましちゃめーにゃにょ!」
「ごめんなさい」
可愛いから撫でちゃったら叱られた。ちみっこ達はしっかりしてるね!
じい達もかわゆいちみっこ達には敵わないらしく、お説教は終わった。
「で、この人、誰??」
『あ』
大人達が固まった。シロウ君達に説明してなかった。
「…俺の母だ」
『え』
今度は子供達が固まった。そして、何やらヒソヒソ話している。
「……若すぎねぇ?」
「アイジンとかメカケってやつか?」
「いや、セツ姉がそれは絶対に許さないだろ。流血沙汰だろ」
『確かに』
うん、確かに許さんわ。愛人と妾はアウトだよ。
「…団長…隠し子か?」
わりと真剣に聞いたトラ君に、容赦ないマサムネさんの拳骨が落ちた。
「いってえぇ!?」
ケビンが本気で泣いた。隠し子はないわ!いくつの時の子だよ!?とりあえずよしよししたら尻尾がパタパタした。そのチョロさも愛しい。
「精霊の力で時間が経たなかったが、正真正銘ケビン団長の母上だ!」
「うむ!ケイティちゃんと呼べ!!」
「けーちちゃ?」
「けーちゃ」
「けいちゃ」
「………(こくり)」
ちみっこ達は素直だね。
「セツ姉はなんて呼んでるんだ?」
シロウ君に聞かれたので、素直に答えた。
「ケイ様」
『ケイ様で』
ちみっこはもちろん、我が家の少年達はきちんと自分の主張ができる子達なんだよ。結局呼び名はケイ様になったのだった。
※その頃の国王
「いい夢であった…」
「いや、夢じゃないですよ!あんな…近衛を瞬く間にぶちのめして陛下をかっさらうとか、あの筋肉女以外ないですよ!」
「…夢だ。ケイティが帰ってきたのに、俺を置いていくはずがない!ケイティ…」
「正気に戻れよ、馬鹿親父!この部屋の惨状からも明らかに夢じゃないだろうがぁぁ!ああもう、メソメソすんな!めんどくせぇぇ!!」
・王太子がキレた。
・王様は混乱している。