お墓参り…のはずが…びっくりしたよ!
騎士団過保護すぎて私がプッツン事件から2週間が過ぎた。相変わらずチラホラ暗殺者が捕まり、あの側妃懲りてないなと思いつつ、それなりに平和に過ごしていた、ある休日。
「あれ?ケビン達どっか行くの?」
ケビンとじい達が籠を持ってお出かけするようです。
「ああ、ちょっとな」
「私も行ったらダメ?」
ケビンがじいやマサムネさん達に視線で問いかけた。
「じいはぜひ来ていただきたいです。楽しくはないでしょうが…若奥様を紹介したいです」
「…そうだな」
マサムネさん、マイケルさん、トールさんも頷いた。紹介ってことは誰かに会いに行くのかな?
お馬さんに乗ろうとしたら、ピエトロ君が乗っけてくれた。お馬さん達は私を乗せる気マンマンだったがピエトロ君から妊婦により負担をかけないのは自分だと言ったためピエトロ君に乗ることに。
馬より風による抵抗もなく、揺れもない。超快適だ。さらに後ろにはシートベルト…というかケビンが支えてくれて抜群の安定感。ケビンはピエトロ君に土下座してまで私の後ろをゲットした。
目的地は外壁の外、森の中だった。崖というか『裂け目』だと直感的に感じた。森の魔物もここは危険な場所だと理解していて寄ってこないらしい。
「…今日も参りましたよ。今日は、なんとケビン様のお嫁様までいらしたのです。お腹にはケビン様のお子もいらっしゃるのですよ。早く戻ってきてください……」
じいの目から涙がこぼれ、ここがケビンのお母さんが落ちた崖なのだと理解した。
「母上…俺は今、幸せだ。貴女に恥じぬ息子となれるように…妻と生きていくと決めた。貴女に孫もできたのだ。どうか…見守っていてくれ」
「…どうにかやっている。心配はいらない。だが早く戻らねぇと、孫が産まれちまうぞ」
「若奥様はお優しい方…きっとお頭は気に入るでしょうね。早く戻ってきてください」
「違いないな。孫はあっという間に成長しちまいますよ。早く戻ってきてください」
じい、ケビン、マサムネさん、トールさん、マイケルさんが崖に話しかける。護衛のシャザル君と双子の片割れは邪魔にならないよう下がっていた。
皆からバスケットを渡される。ずっしり重たいね。
「それを崖へ。諦めが悪い、とは思っておりますが…あの方がそう簡単に死ぬ気がしなくて、つい週1回はこうして食料を崖にやっておるのです」
「……そう」
もう20年も経つのだ。生存は絶望的だろう。だが、じい達はまだ諦めていない。僅かだけど…生存に賭けている。ケビンは諦めているみたいだけど…
せめて…亡骸だけでも見つけてあげたい…
そう思って崖に座りこみ、覗きこんだ。んん?ナニかが邪魔している?底は靄がかかっているが…それ以外に何か認識を邪魔する…いや…遮ってる?なんだろう…近くて遠くて…懐かしい?え?あれは…自動車?
「雪花、危ないぞ!?」
慌ててケビンが私を支えた。おお、危ない。落ちかけたよ。
「ありがとう、助かったよ。いや実は崖に見覚えのあるものが見えて……え?なにか…いるって?」
お腹のベイビーズが必死で何かを教えようとしている。え?何?下?邪魔してたナニかがどいてくれたからか、視界がクリアになった感覚になる。
『した、ぱー、おなじ、いる』
下に、パパと同じがいる?
ケビンに抱えられたままで崖下を見ると、靄はなくなり銀色がチラッと見えた気がした。髪の毛に見えた。
「……!!やっぱり誰かいるよ!無事ですか!?」
「無!事!だァァァァ!!!」
ものすごい大声だ。鼓膜が痛いぐらい響いた。
「この声…」
「まさか頭!?」
「間違いねぇ、お頭だ!」
「今助けますぞ!ロープはないですか!?」
「あ、捕縛用なら…」
護衛で同行していたシャザル君がロープを出してくれた。
「掴まってくだされ!引き上げます!」
そして、引き上げられたマッスル美女…多分美女…鎧着てるからわかりにくいけど、声は女性。汗とか血とか色んなもので臭いし汚いので魔法できれいにしてあげた。うちのベイビーズがね。
最近、うちのベイビーズ、私より魔法が上手い気がするの。気のせいかな?気のせいだよね?きれいになったけど服がボロボロだと思ったら、服を再生させたよ。ママン、そんな難しい魔法知らないんだけど?壊れてすぐ直すならともかく、こんなぼろ切れと化した服は直せませんよ?
「おお、さっぱりしたわー。ありがとね、お嬢さん。服まで直してもらって申し訳ない」
「いえ(正確には私がやった訳じゃないから)お気になさらず」
カラカラと笑うマッスル美女は、とても誰かに似ているような、どっかで見たような…そして、再生された鎧、つい最近見たおぼえがあるんだけど!
「はは、うえ?」
「へ?」
「え?」
ケビンの言葉に、私も美女もキョトンとした。
ははうえ…母上…ママン…
「えええええええ!?」
「へええええええ!?」
いや、なんで貴女も驚くんだ!
「いや、私には確かにアンタそっくりの息子がいるが、こんなに小さいぞ!」
「お頭、あれから20年も経っております。そちらは間違いなく、お頭のご子息、ケビン様ですよ」
「ぬあ!?よく見たら、ミストルが無茶苦茶老けてる!あ、お前らマサムネとマイケルとトールか!皆じじいになってる!」
確かにケビンのお母様…つまりお義母様は若い。時間の流れが違うとか?
「その、母上。彼女は俺の妻で…腹に子供がいる」
「は、はじめまして…」
「マジか!」
キラキラした目にシタパタと振られる尻尾が可愛い。ムキムキだけど可愛い。
「…ああ」
「すげーな!私もばーさんか!息子の嫁ちゃん、名前は?」
「セツ…いえ、雪花です」
「セッカな!よろしくな、セッカ!」
「ぎゃああああ!?」
「母上、雪花を投げないでください!腹に子供が3人もいるのですよ!」
「あっはっは。大丈夫、大丈夫ー!」
「お頭、おやめください!」
「なんかあったらどーすんだ!」
「くっそ、迷惑なババアだな!」
「若奥様ぁぁ!?」
「姫様ぁぁぁ!?」
「ちょっ!?やめてくださぁぁい!!」
大騒ぎでした。
でも悪態つきながらも皆笑顔だった。
お腹のベイビーズもキャッキャして楽しんでいたから、私も笑ってしまった。
詳しい説明は次回になります。ケビンママはたっっくましい女性であります。