消えた騎士団の話を聞いたよ
本日も騎士団でお仕事をしています。サズドマが持ってきた荷台は便利だから、産後も使おうかな。運搬がめちゃくちゃ楽だよ!
そしてたまたま資料整理していたら、少し古い資料が出てきた。
「…銀翼騎士団?」
見たことも聞いたこともない名前に首をかしげた。近衛と騎士団以外にまだ騎士団があったの?書類は収支報告書らしいし、実在していたのは確かなようだ。
とりあえず、副団長様に聞いてみた。
「ああ、懐かしいですね」
副団長様はうっとりしている。心なしか書類に触れる手も優しげだ。
「我らが騎士団の先駆者にして、我らの憧れだったのですよ。身分を問わずに結成された精鋭部隊です。今でも演劇になったり、人気が高いのですよ」
「へー、今はないんですか?」
「…ええ。彼らは王ではなく…彼らの主に仕えていまして…その主が消えたのを追うようにいなくなったそうです。彼らがいれば、近衛もここまで腐敗しなかったし、我らもあそこまで苦境に立たされたりしなかったでしょうね」
「…そう、だな」
ケビンがしんなりしている!これはもしや…
「不甲斐無い団長ですまない…俺がもっとしっかりしていれば、お前達にもあんなに苦労は…「ケビンはケビンなりに皆を守ってたんでしょ!」
「そうですよ!皆団長を慕っていたからこそ、キツかろうが腹が減ろうがついてきたんですよ!」
ガウディさんもオレンジ頭も副団長様も頷く。あ、私の護衛騎士達もめっちゃ頷いてるよ!
「お前達…ありがとう。俺は生まれも育ちも幸せとは言いがたいが…部下と妻には恵まれた。今…とても幸せだ」
穏やかな笑顔に、私も皆も表情が緩んだ。嬉しくてついケビンに抱きついてしまう。その時、ケビンの心に翳りがある気がした。
「雪花!?い、今は仕事中ん!?」
ケビンにキスしてやれば、翳りは消えて愛しさ・嬉しさ・焦りに変わる。
「ちゅーが欲しいだなんて、可愛いんだからぁ!」
「ち、ちが…」
ふふん、ちゅーをねだってないのはわかってるよ。でも拒否してないのもわかるんだからねー。翳りなんか忘れさせちゃうんだから!
「ケビン、だぁいすき!んもう、今夜は寝かせませんからね!」
抱きついたまま頭をスリスリした。喜んでるのは尻尾でもバレバレなのだよ!
「今夜は……あ、アオオオーン!アオオオーン!!」
「あ」
恥ずかしがりやのマイダーリンが窓を突き破って逃亡した。
「本当に、的確に突いてきますね…」
「何を!?」
「あれは団長でなくとも鳴くわ…」
「すさまじい破壊力ですね…姫様…いえ、団長夫人。あの人は女性に嫌われることにしか慣れてないんですから、もう少し加減してあげてください」
「やだ。むしろイチャイチャに慣らす!」
ガウディさんが戸惑い、副団長様が前に出た。
「独り身なので、羨ましくて辛いです。私を含め、他の騎士達も」
「…自重します!」
副団長様、真顔でした。
ちょっと気になったので、銀翼騎士団について調べてみた。
わかったのは、銀翼騎士団が解体されたのは20年ぐらい前。
身分を問わず、実力のみを見て銀翼騎士団長が選定をした。
羽族…つまり鳥獣人が隊員に多かったので『翼』の騎士団とも呼ばれていた。
団長は女性だった。そして、彼らの主だった。団長は死去し、その後銀翼騎士団は消えた。
消えた銀翼騎士団。素晴らしい人材を集め、人望もあったに違いない女の騎士団長…あの女が、そんな存在を放置するだろうか。消されたのだろうか…。その想像にゾクリとした。多分、外れていないだろう。そして今のターゲットは自分なのだ。
「…負けないし、護ってみせる」
お腹をひと撫でして、決意を口にした。言葉には力がある。言霊ってやつだね。お腹のベイビーズが、自分達もママを護ると言っている気がする。頼もしいと言うべきか、立場が逆じゃね?と言うべきか…ママンの心は複雑なのだった。