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異世界も世知辛いんだよ

 皆でテントをはり、私だけお一人様でした。護衛が外で不寝番するから正確には独りじゃないけど……




 寝れない。





 騎士服からワイシャツに着替えて横になったはいいが、なんか不安になってきた。起きたらまたあの洞窟に独りなんじゃとか、もう日本に帰れないんじゃないかとか、これからどうなっちゃうのかなとか………

 そして、1日で2回も死にかけた恐怖が今ごろ襲ってきた。歯がガチガチと鳴る。寒くはないのに身体が勝手に震えている。


「団長!?その顔は…!?」


「…気にするな。姫は?」


「まだ起きてらっしゃるようですが…」


「そうか。姫様、入ってもよろしいですか?」


「は、はい…」


 おっさん、私を避けてたんじゃなかったの?そして、おっさんがテントに入ってきたのだが…


「えええええ!?なんでそんなに顔が腫れてるの!?怪我!?いや、これは蜂!?」


 おっさんの顔は腫れあがっていた。よく見ると刺し傷というか、針が刺さったままの傷もある。しかし普通の蜂より針が太いし、腫れも酷い。


「よくわかったな。キラーホーネットと戦って蜂の巣から蜂蜜を採ってきた。それで蜂蜜ミルクを作ったんだ。甘くてうまいし温まる。飲めばよく眠れるはずだ」


 身体中刺されて痛いはずなのに、おっさんは優しく笑う。やばいなぁ、惚れちゃうよ。なんでこんなに優しいんだよ…


「ありがとう…でも、おっさんが痛いのはやだよ…」


「姫様…」


 蜂蜜ミルクは温かくてとてもおいしい。でも、これをくれるより、私は多分おっさんに居てほしかった。


「…私にも、傷を治す魔法が使えたらよかったのに…」


 そっと触れた私の指先から、淡い光が溢れる。


「……傷が……」


「おお、姫様は治癒に適性があるんだな。まさか毒まで消すとは…」


 おいこら。毒??私はジトーッとおっさんを睨んだ。


「あ……いや、その…毒と言っても刺されたら腫れあがって痛みを伴うだけで……」


 私は無言でおっさんの手を引き、寝床に座らせ押し倒した。


「ぬあっ!?」


「しー」


 おっさんが慌てて口を塞ぐ。私は逃がさないようおっさんの上に寝転がって毛布にくるまった。


「私を心配させた罰です。このまま今日は寝ます」


「いや、それはまずいだろう!姫様が幼いとはいえ…」


「このままじゃおっさんが心配で眠れない。今日だけ、だから…お願い」


 やはりおっさんは私に甘かった。だから私のお願いを断れず、結局折れて一緒に寝てくれた。おっさんはあったかくて…私は安心しきって熟睡した。




「ん……ん?」


 朝起きたら、おっぱいがあった。まさか、身体が元に戻った!?すぐに鏡で確認しようとしたのだが、腹に太いベルト…ではなくおっさんの腕が私を捕らえた。

 というか、おっさんは私の背後にぴったりくっついて、私を抱きしめた状態で寝ていた。


「ん…もう少し寝ていろ…柔らかくて気持ちいいな……」


 おっさああああん!?そこは私の胸…!つうか、ノーブラですよ!ふぬおおお!?乳を揉まれ、慌てて身体を反転させた。寝てるおっさんはあどけなくて可愛い……ではなく!


「ん…!」


 なんとか脱出を試みた。おっさんの腕をずらして少し身体を上に抜くことができたのだが…ここでおっさんが予想外の行動をとった。


「こら…大人しくしろ…んん…ふかふか…」


 状況が悪化した。私の胸に顔を埋めてスリスリするおっさんに、ついに私は叫んでしまった。


「ふかふかじゃなぁぁい!!おっさんのえっちぃぃ!!私の胸はクッションじゃなぁぁぁい!!」


 もはやパニックを起こして叫ぶ私。ノーブラで…いや、ブラは関係ない!いくら寝ぼけていても、人の胸を好き勝手したらいけません!!


「は!?りぃぃ!?ぽったぁぁぁ!??」


 おっさんはかの有名なファンタジー小説の主人公名的な叫びをかまし、飛び起きてテントの端まで後ずさった。


「きゃあっ!?」


 私はおっさんの絶叫にびっくりしたせいか、また身体が縮んでしまったらしい。おっぱいがぺたんこになってしまった。


「………ひめ、さま?」


 おっさんは固まっていた。


「結果的に騙したことになる…よね。ごめんなさい」


「あれ?なんかシリアスムード?」


 私達の叫びを聞きつけたはいいが、うふんあはんな場面だったらと皆さん入れなかったらしい。ためらいなく入ったオレンジ頭は勇者である。


「ライティス、人払いをしろ。お前も話を聞け。話していただけますね?姫様」


「うん」






 人払いをしたらしいオレンジ頭が戻ってきてから、私は身体が小さくなった話をした。


「つまり、本来の姫様は成人女性ってこと?まずいな…」


「うむ…」


「ちなみにいくつ?」


「成人女性に年齢を聞く男は滅んだらいいと思います。25才です」


「にじゅうご!?」


 おっさんが驚愕した。失礼な。しかし、私はそこをさらにつっこむべきだったと後に後悔した。この時の自分を叱りたいほどに。


「す、すまない。成人女性姿の姫様はもっと若く見えたから…そうだったのか…そういえばあの姿の姫様は女神のように美しく、扇情的だった……」


 おっさんがうっとりしている。いや、脳内で美化しすぎじゃね?私の容姿は普通です。可もなく不可もなくです。


「え?そんなに美人なの?大人の姫様」


「正直平凡ですよ。おっさんが美化しすぎてるだけです」


「いや!姫様は今も可愛らしいが、大人の姫様は美しかった!!」


 この件において、私はおっさんとわかりあえない気がする。


「ともかく、姫様は当面子供のままがいいと思いますよ。成人だとバレたら、結婚しろと言われます。最悪手ごめにされ「ライティス!!」


 おっさんがオレンジ頭を睨みつけるが、オレンジ頭も負けてない。


「俺は間違ったことを言ってますか?オブラートに包んでちゃんと伝わらなかったら、困るのは姫様だ。この人はお人好しだがバカじゃない。自分の立場をきっちり理解してもらうべきだ!!」


 オレンジ頭は、意外と真面目な男だったらしい。おっさんも納得したらしく、オレンジ頭の説明に口を挟むことはなかった。


 そして、オレンジ頭から聞かされたのは…とんでもない常識だった。

・この世界で女性は稀少である。

・一妻多夫が普通。夫は少なくても5人。

・子供は夫が育てる。

・女性は働かずに夫の家を転々としてしいていうなら出産するのが仕事。


「あ、頭痛い…」


「おまけに異界の姫様は女性を産む可能性が高い。誰もがあんたを欲しがるだろうな。だから、信頼できてあらゆる意味であんたを護れる夫を得るまでは、今の姿で出産できない年齢のふりをすべきだ」


「…わかりました」


 とりあえずお城に行きたくないんですが、どうしたらいいかなぁ…

 私は死んだ魚みたいな瞳をしていたに違いない。

 わりとどうでもいい異世界常識。

 この世界で甘味は超希少。蜂蜜採りは命がけです。

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