妬んでるんだよ
ここは、後宮の外れにある監禁用の離宮。厳重な警備と監視がある部屋だ。
今日は騎士達が浮き足立っていた。他の騎士達は団長の結婚式に行ったから、最低限の監視のみとなっていた。
最低限の世話係のみ、粗食で夫の面会も禁止された側妃は当然苛立ち、さんざん暴れた後なので疲れきって休んでいた。もちろん、監視が減っていたことなど気がつきもしない。
しかし暴れ疲れて休んでいたため、話し声は聞こえていた。
「折角の結婚式だ。俺の代わりにお前達も行ってきてくれ」
「しかし…」
近衛騎士団長と騎士達がなにやら会話しているらしい。
「団長の晴れ姿だ。みんなで祝ってやれ」
「「…はい!」」
騎士達が走り去る音が聞こえた。
「さて…と」
近衛騎士団長は側妃の部屋に入ると姿を変えた。側妃はその姿を見て驚いた。
「スティーブ!?」
彼は側妃の新たな夫である近衛騎士だった。彼の得手は幻覚。かなり高レベルの幻覚が扱えるため、匂いすらも誤魔化せる。
「しー。あまり長くはいられません。食が細くなっていると伺いましたので、菓子と他の夫達から手紙を預かって参りました」
「まあ……」
しかし、喜んだのもつかの間だ。
「今日は騎士団長の結婚式だそうです。それで警備が薄くなっていたので来られたのですが…」
「なんですって!?あの生意気な小娘が結婚した!?」
「はい。子ができたとかで…それも三つ子だそうです」
「!!?」
側妃は爪を噛んだ。今、自分は間違いなく女性達の頂点に君臨している。
しかし、それを脅かすのが異界の小娘だ。許せない。さらに、子を三人も産めばあの小娘の価値が上がってしまう。それは許せない。
そもそもあの小娘は最初から気にくわなかった。生意気で、無礼で、野蛮な小娘だ。しかも、子を孕んだということは年齢を偽り子供のふりをしていたのだろう。あんな詐欺師のような小娘を好きにさせる王にも、側妃は苛立っていた。
かつての正妃は侯爵の娘だった。体が弱く、王太子の出産と引きかえに死んだ。
次の側妃は平民で獣人だった。なのに陛下の子を身籠り、産んだ。しかも、あの女は………
「姫、爪が割れてしまいますよ」
過去に思いを馳せる暇などない。現実をどうにかしなければならない。側妃はずっとそうやって生きてきたのだから。
「これを他の夫に届けて」
「かしこまりました。必ずや届けます」
そうして、スティーブが去った後に本物の近衛騎士団長と本来護衛兼監視だった騎士達が戻ってきた。
「ご無事ですか!?」
「なんだと言うの!私は気分が悪いの!許可なく部屋に入らないで!」
側妃は手当たり次第物を投げる。菓子も手紙も隠したが、探されては面倒だ。菓子はともかく手紙はまだ内容確認していないのでまずいものがあるかもしれない。全力で暴れて、騎士を追い払った。
「何も起きなければよいが…」
近衛騎士団長は城門付近で、たまたま護衛兼監視だった騎士達に遭遇した。近衛騎士団長が彼らに護衛をかわると言ったのに何故ここにいるんだと騎士達に言われた。彼らもすぐに騙されたことに気がつき離宮に戻ったが、離宮にいるはずの近衛騎士団長の偽者はいなかった。
恐らくは、側妃の新たな夫になった騎士の仕業だろうが証拠がない。それにあの側妃が素直に探させてくれるわけがない。
近衛騎士団長はため息をつくと報告書を作ることにした。今幸せな結婚式をしているであろう同僚に伝えるのは、明日以降で問題ないだろう。
「大人しくしてくれるはずもない、か」
近衛騎士団長は、今日もお疲れのようだ。