祝福されたんだよ
ケビンがようやく現実を受け入れたところで、副団長様がケビンを急かした。
「いつまでも姫様にひっついてないで、姫様のドレスを持ってきてください」
「アオン!?ま、まさか…お前…知っているのか!?」
「いや、姫様以外全員知ってますよ。姫様の婚姻衣装をせっせと手づくりしてたことぐらい」
「アオオオオン!!」
オレンジ頭の冷静なツッコミを受け、なんか真っ赤になって雄叫びをあげつつローリングするケビン。
え?なに?うちのケビン、ドレスが縫えるの?やべぇ、乙女力で負けているじゃないか。
「さっさと持ってきなさい。この間完成したのでしょう?その格好で式には出られませんし、着替えないと」
「そうですぞ!この晴れの日に何をボヤボヤしておるのですか、ぼっちゃま」
「じい?」
何故かじいが乱入してきた。よく見たらカダルさんもいた。何やら大荷物だね。
「おおお、若奥様!このたびはご懐妊おめでとうございます!じいは、じいは生きているうちにぼっぢゃまのお子をだげるど思うど…オロロ~ン!うあああああん!!」
じいが号泣した。なんか、じいから羽が出てる…鷹…なのかな?カダルさんはその間てきぱきと荷ほどきしてケビンに礼服を渡していた。
カダルさんに何か囁かれると、ケビンは慌てて執務室にの隣にある団長専用仮眠室から素敵なドレスを持ってきた。
、ドレスは光沢のある白い布がベースで、裾に青いグラデーションカラーの刺繍が施されている。青い薔薇の刺繍だった。とても緻密で糸を何種類使っているのか、手間がかかりまくっているのが一見してわかる品である。
さらに胸元に白バラのコサージュが飾られ、赤い宝石が縫い付けられていた。
さらにマリアベールもあり、こちらも裾にグラデーションカラーの薔薇の刺繍が施されている。
「その…セツに着てほしくて縫った!こ、これを着て俺と…俺と結婚してください!!」
「…はい、喜んで。素敵なドレスをありがとう。私はケビンと結婚します。ケビンは私が一生かけて幸せにします。もう不憫団長なんて言われないぐらいにしてやりますから、覚悟してくださいね」
ケビンは天井を…いや、天を仰いだ。
「わが人生に一片の悔い無し!!」
ケビンが何やら燃え尽きた…いや、萌え尽きたらしいのでさっさとドレスに着替えた。
「セツ…綺麗だ…」
復活したケビンも着替えている。初めて礼服を見たけど…王子様がいる!あ、本物の王子様だった。すげぇ、私の旦那様超カッコいい。その超カッコいい旦那様は私の小物を選んでいたらしい。ケビンは私を手際よく飾り立てていく。
「ケビンもとても素敵です。惚れ直しました」
「アオン!?そそそそんにゃ事を言うのはセツぐりゃいだ」
二回も噛みました。動揺し過ぎて手がガクガク震えています。
「ええ、私はこちら基準で美意識がおかしいですし…惚れた欲目ですかね。まぁ、ケビンは一生私が独り占めするのでその方が都合がいいです」
まだ口紅は塗ってないので、軽くケビンの手の甲にキスをした。
「末永く可愛がってくださいね?旦那様」
「我が人生に、一片の悔い無し!!」
ケビンは大袈裟だなぁ。ぼんやりと見つめる私。
「姫様、的確に団長へ致命傷を与えてはいけません。ただでさえ幸せ慣れしてない男に最愛の女性と結婚&最愛の女性が懐妊したという、至上の幸せが一気に押し寄せたんですよ?また現実を認識できなくなると面倒です。最低でも結婚式まではもたせないといけません。花婿不在の結婚式をしたいなら話は別ですが」
「気をつけます」
副団長様に注意されてしまった。仕方ない、式が終わるまでは大人しくしておこう。私も花婿不在の結婚式はしたくない。
「旦那様、早く正気に戻らないと私が姫様のメイクしちゃいますよ~」
「!??だ、ダメだ!俺がやるんだ!」
「では、どうぞ」
多分さっきもカダルさんは同じ囁きをしたな。正気に戻るとケビンはいつも通りテキパキと私にメイク・ヘアメイクを施した。
庭師のマイケルさんが庭の白薔薇で作ったブーケを持ってきてくれた。靴やアクセサリーはカダルさん達が持参したのだが…
「あの、靴やアクセサリーはどこから持ってきたんですか?」
「屋敷からですよ。旦那様が山ほど買い集めてますから。旦那様が作成した見事なドレスも山ほどクローゼットにありますし」
「………………」
私はじっとケビンを見た。
「す、すまない。あって困りはしないだろうし、セツに似合いそうだと思ったら、つい…」
まぁ、ほとんど着替えも持参しなかったし彼のマメさには助けられている。
「ありがとう、ケビン。でも買いすぎないでね」
「わ、わかった…」
自信なさそうだなぁ…意外と衝動買いしちゃうタイプなのかしら。
「一緒にお買い物デートがしたくても、いっぱいあったらもったいなくてできないでしょ?」
「……なるべく、控える」
まぁ、約束はしてくれたからいいかな?ちなみにウェディングドレスを手作りするのはこの国の男性なら当たり前らしい。裁縫も男性の仕事で、不得手な場合は既製品らしい。
「そういえば、姫様の出産予定はいつ頃なのですかな?」
「あ、3ヶ月ぐらいだって」
『3ヶ月!??』
全員が驚愕した。いや、私もびっくりしたよ。異世界スゴい。
「なんでもケビンと私の魔力相性がすごくよくて、どっちも高魔力保持者だからだって。それからケビンに獣人の血が濃いから。あくまで目安らしいけど」
異世界では胎児は両親から魔力を分け与えられて急激に成長するらしい。ちなみに魔力がない人は普通に十月十日ぐらいだそうだ。
更に、獣人は人間より出産が早いことが多い。うちは獣人ハーフ…正確にはクォーター…な我が子はいつ産まれてきてもおかしくない。
3ヶ月はあくまでもお医者様の経験から予測した目安なんだそうだ。
「若奥様、ご安心を!じい達がすぐにお子の住環境を整えますぞ!既に衣服もベッドもご用意しておりますぞ!」
「何人分?」
「はい?」
「子供、三つ子なの」
「………なんと!!じいめが今すぐ手配を「それは明日にしましょうよ。旦那様と姫様の門出を祝ってからでも遅くないでしょう?」
カダルさんが今にも走り出しそうなじいを止めてくれた。
「うん、じいは私にとってケビンのお義父様みたいな人だから、今はお祝いしてほしいな」
「そうだな…じいは俺の父のような存在だ。結婚式に参加してくれないか?むろん、マイケル、マサムネ…屋敷の皆、騎士団の皆が俺の家族だと思っている」
「う、うおおおん!老いぼれをあまり泣かさないでくださいませ!!今日はじいの人生最良の日です!!」
『団長…』
「ぼっちゃん…」
ケビンも相当な人たらしだよね(ただし男性限定)
「旦那様、姫様、おめでとうございます。私の主なんですから、世界一幸福になってくださいね」
「ありがとう」
カダルさんからもお祝いの言葉をいただきました。それから副団長様をはじめ、騎士達からもお祝いの言葉をもらって…なんだかくすぐったかったです。
穏やかに微笑むケビンは、とても幸せそうだった。