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そもそも無理だったんだよ

 ケビンには隠し通すと決めた私。護衛の騎士さん達に私特製魔石ペンダント(材料費はヘルマータもち)を渡しながら口止めした。


「本当にいいんですか?」


 きっと団長はそれはもう喜びますよ、とシャザル君に言われた。正直、自分でも迷ってる。


「でも、知られれば私が標的になる可能性が高い。ケビンは腹芸に不向きだし…足手纏いになりたくない」


 そこは否定できなかったらしく、皆黙っていた。









 そして職場に戻ったら、最愛のわん…ではなくマイダーリンに突撃された。


「セツ!無事か!?大丈夫なのか!?痛くないか!?苦しくないか!?気分は悪くないか!?結局なんだったんだ!?」


「えっと…異界から来た人間はたまに魔力が不安定になるらしくて…」


「…何故嘘をつく?」








 速攻バレた。








「え?」


 何故バレた!?ビックリして固まってしまった。


「ま、まさか…不治の病なのか!?余命は!?」


「いや、だからなんで皆して…違うから」


 勝手に不治の病にしないでいただきたい。


「…では………まさか…他に結婚したい相手ができた…とか!?」


「なんでそうなる」


「だ、だってセツは俺なんかには勿体無いぐらいだと常々思っていて…」


 可哀想なぐらいションボリしたわん…マイダーリン。でもそれ、私に失礼だよ。


「…つまり、ケビンは私の不貞を疑って「疑ってはいない!」


「でもそういう事でしょ?悲しいなぁ…私が好きなのはケビンだけなのに疑われるなんて。というか、それこそ匂いでわからないの?」


「だって匂いが混ざっているんだ。今朝から、セツの匂いが違う…それに、魔力が…今まで俺を労るように寄り添っていたのに隠れてしまっている…!」


 とりあえず、ツッコミをさせていただきたい。


「朝、行動不能だった私に浮気は不可能です。昨晩、一晩中抱き潰したのは誰ですか?」


「…………………あ」


 匂いが違うのと魔力って、やっぱり原因は……お腹にちらりと視線をやる。

 そしてケビンはその境遇から、愛される事に未だに慣れていない。不安がるのも仕方ないよね。私の変化に戸惑い、怯えていたんだ。

 ケビンをこれ以上不安にさせるわけにはいかないし、明後日の方向に暴走しかねないし…





 本当は、私も一番に伝えてあげたかったし、いいよね。





「しっかりしてください。パパになるんだから」


 そう言って、お腹を撫でた。


「…………………ぱぱ?」


「えっ!?」

「まさか!?」

「は!?」


 ケビンは呆けている。ガウディさんはウルウルしている。副団長様はびっくりしている。オレンジ頭はポカンとしている。


「だから、お腹にケビンの子がいるんです。3人らしいですよ」


『えええええ!?』


 ちなみに、これは初めて言いました。皆さんびっくりしてます。


「こども…さんにん…」


 ケビンはまだ呆然としてブツブツと言われたことを反芻している。


「野郎共、酒を持て!!仕事なんてしている場合ではありません!!宴会だああああああ!!」


『うおおおお!!』


 大変だ。副団長様、ご乱心。

 あの、真面目な副団長様が…

 仕事一筋の副団長様が……



 仕事はいいから酒盛りだなんて、どうしちゃったの!??



「姫様、でかしました!いや、団長夫人ですね!何をぼさっとしているんですか!?教会です!式をしますよ!神父を捕まえてきなさい!子供に父親がいないなどあってはならない!今すぐ、今日!結婚式をしますよ!当然騎士は全員強制参加です!休みの奴は叩き起してこい!!」


『了解です!』


 騎士さん達が慌ただしく走り出した。


「姫様、なんの心配もいりませんよ。団長に妊娠休暇を取らせますから、この間みたいに引き離されることもありません!」


「あ、ありがとうございます?」


 副団長様が壊れた。もう一人のオカン副団長、ガウディさんは泣きじゃくっていた。


「良かった…団長、お幸せに…」


「ガウディ、何をしているのです!事務手続きと仕事を一気に片付けて、宴の手配です!!」


「ああ!!」



 そして、まだ呆然としてブツブツと言われたことを反芻しているケビン。


「え?俺とセツの…こども…あかちゃん…?」


「そうだよ、ここにいるの。パパの魔力を分けてあげて」


『ぱ~?』

『ぱーぱぁ』


「んん?」


 ケビンの魔力が私の腹部に注がれる。今、何か…聞こえたような……


『ぱ~?』


「ま、ママとパパだよ~」


 試しに私も魔力を腹部に集めてみた。


『ま~?ぱ~?』


「…………………」


 やはり、なんかこう、頭に響いてくる。幼い子供の可愛らしい声が聞こえる。言葉というよりは感覚が伝わる。楽しそうにキャッキャしているようだ。


「本当に、我が子が…セツと俺の子が…」


 おお、ケビンがようやく正気に戻ったかな?


「あ………アオオオオオオ!!!」


「!??」


 ケビンの服が弾けた。後に、たまにあるんですよね~。服は伸縮的には魔法で問題ないのですが、耐久的な意味で耐えられず破けることがと副団長様が言ってた。つまり、興奮しきったケビンの筋肉により服はぼろ切れと化してしまった。

 しかも、音でガラスが割れた。獣化しながら号泣するケビン。大丈夫か!?


「アオオオオオオ!!」


 あまり大丈夫じゃない気がする。


『ぱ~?』


 子供達が心配している。産まれてもいない我が子達はケビンが大丈夫かと思っているようだ。


「…パパは大丈夫。皆がいるってわかって、喜んでる」


 お腹を撫でると、子供達が落ち着いたのがわかった。


「アオオオオオオ「やかましい」


 冷静な副団長様の踵落としが決まった。とても痛そうだ。ケビンがうずくまっている。


「はっ!イシュト、これは夢か!?」


「現実です。さっさと正気に戻って幸せな現実を噛みしめつつ、姫様のドレスを用意してください」


「…………現実?つまり、俺のセツの腹に俺の子がいる??」


「はい」


 同意する私。


「そして、今から結婚式ですよ。ああ、カダル達に連絡しておかねばなりませんね」


 テキパキと仕事する副団長様。いや、めっちゃ楽しそうだね。


「夢か!?イシュト、一発なぐっ…ぐっ、痛くない!?」


『ぱ~』

『ぱ、ぱ』

『ぱ~ぱ』


 どうやらお腹の子供達がケビンを守ったらしい。一瞬障壁が見えた。異世界って不思議!


「…すごいですね」


 副団長様が驚愕している。どうやら異世界基準でも、うちの子達はおかしいらしい。


「ケビン、これは現実です。私、貴方に家族をあげられるのが嬉しい。貴方は喜んでくれないの?」


「現、実…」


 お腹の子供達がキャッキャしているのがわかる。伝わるようにケビンを抱きしめた。


「俺の、俺たちの、子供!」


「きゃあ!?」


 視線が一気に高くなる。高い高いをされている!そして、目の前のケビンは泣きながら笑っていた。


「アオオオオオオ!!アオオオオオオ!!アオオオオオオ!!」


 私に高い高いをしては抱きしめる。くるくる回る。


「アオオオオオオ!!アオオオオオオ!!アオオオオオオン!!」


 もはやお腹の子供達も慣れてしまったらしく、キャッキャしている。そうか、楽しいか。よかったね。ママンは目が回ってきたよ。


「ありがとう、セツ。ありがとう!幸せだ、嬉しい!信じられない!!嬉しい、嬉しい!!アオオオオオオ!!」


 そうかそうか、よかったねぇ。ケビンをよしよししてやると、甘えるように私のお腹にすり寄るのだった。

 そもそも隠し通すのが無理だったというお話です。


 副団長は普段クールですが、彼も団長(ケビン)信者です。貴族の人間でありながら、騎士団を選び団長を尊敬する変り者です。

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