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愛しくてたまらないんだよ

 騎士団の皆にお礼を言って、ダチョウさん達を消して、いつも通り仕事をしてケビンと帰宅しました。


「ぼっちゃま、若奥様、ご無事でようございました」


「おかえりなさいませ、旦那様、姫様」


「おかえり、団長、セツ姉」


 皆からおかえりと良かったねをいただきました。


「帰ってきたって本当ですか!?お、おきゃえりなさい!!良かった、無事だぁ」


 盛大にコケたのはいいのか、スノウよ。しかも噛んだし。


「ただいま」

「ただいま!」


 皆に笑顔でただいまを言った。





 ご飯を食べ終わり、カダルさん達と今後の活動について話した。

 ようやく寝る時間になったので、さっそく昼の分までイチャイチャしようとケビンの両腕を拘束したところで、ケビンが話をしたいと言い出した。


「……わかりました。ではイチャイチャしながら聞きましょう」


「だっ駄目だ!その…雪花にい、いちゃいちゃ?されると理性が吹き飛ぶ!さ、先に聞いてくれ!!」


 仕方がないのでケビンに腕枕されつつ聞くことに。ドクドクと早鐘をうつ心音にうっとりする。






 ケビンが話し出したのは、彼の生い立ちについてだった。

 彼は…幼くしてお母さんを亡くした。彼の最初の記憶は、空の棺だそうだ。お母さんは底無しの谷と呼ばれる底が見えないほど深い谷に落ちて死んだそうで、亡骸は見ていないのだという。その空の棺を使った葬儀が最初の記憶の記憶なんだと語った。


 ケビンがお母さんを亡くしたのは5歳。ケビンは広い王宮で独りぼっちだった。かろうじてじいが最低限の面倒を見ていたが、当時じいは他にも仕事があったためにケビンは一日の大半を独りで過ごしていた。


 王族だが母は平民で、獣人。しかも旅の踊り子だったんだそうな。

 後ろ楯もなく独りぼっちのケビンは、貴族の子供にいじめられていた。


 そんな中で、ケビンに優しかったのはじいとお兄さんである王太子だけだった。嫌われ、蔑まれるのが当たり前のケビン…タイムスリップして抱きしめに行きたい!




 そして、ケビンはあの側妃に出会った。



 ケビンはあのオバハンを綺麗だと思った。無意識に母を求めていたのかもしれない。他の貴族の子供達を撫でて可愛がるオバハンを見て、ケビンも撫でてくれないかと思った。

 しかし、相手はあのオバハンである。ケビンは嫌われ、罵倒された。だから、いつも遠目で眺めるしかできなかった。それでも見つかると追い払われた。



 更に命まで狙われるようになった。幸い獣人だから鼻がきく。わからない毒は無かったし、人の気配も他に集中してなきゃ察知できた。暗殺者は人が多い所には基本出てこない。人が少ない場にいる気配が薄い人間は大概暗殺者だった。


 暗殺者のあしらいに慣れた頃、じいに暗殺者に襲われていることがバレてしまった。そのせいでじいは仕事をやめてケビンをこの屋敷に連れてきた。じいに申し訳なかったとケビンは語る。この時、ケビンは10歳。


 それから、ケビンは努力した。じいの献身に恥じない人間になるため、あの義母にいつか誉めてもらうため。

 そうして騎士団長までのぼりつめたが、あのオバハンはやはりケビンを嫌った。それだけじゃなく、努力の過程でついた傷や筋肉は、女性から忌み嫌われた。努力しても望むものは手に入らなかったが、騎士団の仲間達を得た。

 彼らはケビンにとって家族だった。


 さらに、孤児を拾って育てるようになった。独りぼっちの自分みたいにならないでほしかったから。


 ケビンは独りぼっちではなくなったけど、目標を失った。自分が王になったとしても、あの綺麗な人は笑ってくれないと理解していた。


 そして、ただひたすら仕事をこなすだけの日々の中でケビンは雪花に会った。



 そして『幸せ』を知った。


 優しく撫でてくれる手。温かく抱きしめる腕、自分を厭わない穏やかで…熱のある瞳。

 そして、今まで自分は表面しか見ていなかったことを知った。確かに側妃は美しい。しかし、内面は醜い。自分の価値観は変わった。もう、彼女に誉められたいとは思わない。

 雪花は否定するだろうが、彼女の内面こそ真っ白で美しい。そんな女性が望んで自分の妻になると言う。この世にこんな奇跡が存在しようとは…




「あー、ストップ」





 厳しい。


 嬉しいが、キツい。動悸がハンパない…!無意識の破壊力がとてつもないんだよ!


「?何かおかしなことを言ったか?」


「嬉しすぎておかしくなりそう。とりあえず、あの側妃(オバハン)はシメる。止めないよね?」


「ああ、もう義母に興味はない。俺が欲しいのは雪花だけだ。雪花の側にいたい」


 ケビンの手は拘束したままなんで、頭だけでスリスリしてきた。彼はただ、羨ましくて憧れたのだろう。しかし、それが充たされることはなかった。憎しみに変わらない辺りが彼らしい。


「なかなか話せなかったが、これが俺の生い立ちだ。この…赤い瞳も嫌われる原因だったな。よく悪魔の子と…「ストップ」


 私は物理的にもケビンの口を塞いだ。


「日本には『言霊』というものがありまして。言葉には力が宿ると言われています」


「そうか」


「私も言葉には力があると思います。悪い言葉は人を傷つけ、いつか自分に跳ね返ってきます。逆にいい言葉は人を癒し、いつか自分の助けになります。情けは人のためならずってやつです」


「…ああ」


「えっと、何が言いたいかというと…悪い言葉で自分を縛らないで。ケビンに良いとこは山ほどあるんだよ。誰かが言ってた悪い言葉なんて、私が…私の言葉で跳ね返してあげるから!と、言いたくてですね…」


 ヤバい。クサイ台詞言っちゃった。あわあわしていたら、ブチブチッという音がした。



 ん?ブチブチッ??



 そして、縄だった残骸が飛び散った。ケビンに縄はあまり意味がないらしいです。


「雪花…!」


 手が自由になったケビンは私を抱きしめる。


「雪花、雪花、雪花…!」


 なんだろ。名前を呼ばれてるだけなのに…胸が熱い。熱烈な愛の告白をされているみたいな感じがする。


「…ケビン…だいすき…」


 熱に浮かされるように囁いたひとことは、確かに彼に届いたらしい。


「雪花、雪花、雪花……愛おしい。君を愛している。いや、愛している等では足りない。知れば知るほど愛おしい。ずっとずっと、側にいたい。君と添い遂げたい。共に生きて、共に死んでくれないか」


「………はい」




 その夜はもう、大変盛り上がり…翌朝まったく動けなくなってしまった。回復が使えて良かった…ケビンが今までいかに私を気遣って加減していたかがわかったよ。ケビンがもう何言ってんのか解らないぐらい早口で多分謝罪してたよ。まぁ、たまにはいいかな。


 その晩に、実はちみっこ狼3匹とケビンが夢に出てきたんだ。きっとケビンの昔の話を聞いたからかな。ケビンと私にちみっこ狼達はじゃれついて、楽しく遊んでいた。私もケビンも、穏やかに笑っていて…とても幸せな夢だった。過去は取り戻せないけど、幸せな未来ならきっとあげられる。

 あの夢は、近い未来のビジョンなのだと思う。まだ見ぬベイビーちゃん達、ママは子供達の平和な未来のためにも、頑張るからね!

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