カチコミなんだよ!
私はペンダントに貯めていた魔力を使い、一気にカルディア城に転移した。見張りの騎士達が仰天している。さっき出ていったダチョウが、さらに増えて城の空を覆ってたら…そりゃビビるよね。
ペンダントの魔力を半分使っちゃったけど、城の庭・テラスは着陸したダチョウで埋め尽くされた。城内をダチョウで駆け回り、私は叫んだ。
「ゴルアアアア!!国王、出てこぉぉい!!!」
「あははははははは!」
「わははははははは!」
「イヒヒヒヒヒヒヒ!」
王太子、カダルさん、サズドマがテンションおかしい。王太子よ、頼むからこれ以上新たな扉を開かないでね。
「な、なんだ!?」
「何があったんだ!?」
近衛騎士も私達を止められない。
「ふははは!牽かれたくなきゃ避けなさぁぁい!!」
私もテンションMAXじゃああああい!!
そこのけそこのけ、私が通る!!
そして、謁見の間にたどり着いた。丁度誰かと謁見してたらし…マーロさんだった。あ、すげぇ楽しそうな表情。マーロさんが親指立ててる。ということは、ここに国王陛下がいたのは…連絡を受けて連れてきてくれたってことか!グッジョブ、マーロさん!
「…ずいぶんと騒々しい面会申し込みだな」
もはや私の奇行に慣れたのか、あまり驚かない国王陛下。逆に側妃はけっこうビックリしている。
「ぶ、無礼でしょう!」
「部外者は口出ししないでください!!」
「!?」
「私は国王陛下に苦情を申し立てに来たのです!部外者は黙っていてください!貴女に用事はありません!!」
「なっ!?」
オバハンが黒幕だってことぐらい理解してる。でもどうせ今回は届かないから、無視無視。狙いはオバハンじゃないんだよね。でも、嫌がらせは忘れないよ!
「…そうだな、そなたが喋ると余計話が進まぬ。黙っておれ」
「!??」
やーい、国王陛下にまで言われてやんの。ニヤニヤしたらわかったらしく、ハンカチ噛んでキーってなってた。ざまぁぁぁ!!
「して、何用か?」
「そうですね、簡潔明瞭でいきましょう。王太子殿下!」
「はい。お久しぶりです、国王陛下」
そして、ローシィアの王太子は淡々と事のあらましを語った。
ローシィアにカルディアから使者が来て、王の調印した正式な書類を持ってきた。ローシィア一の美女と名高い末の王女と異界の姫の交換条件での縁談。
当然ローシィアは受けた。ローシィアは女神の慈悲たる聖女召喚が無い国。異界の姫が欲しかったからだ。さらに鉱山なんかもカルディアに権利を渡した。
そして、本日顔合わせをしたら、異界の姫と婚約者たる騎士団長はどちらも話を知らないと言う。そして、嘘をついている様子はない。
「ローシィアは正式にカルディアに抗議いたします!」
「私もカルディアに抗議します!私はカルディア国民でもないのに、政治の道具になるつもりはありません!こうなったら、愛しのケビンとローシィアに亡命します!」
『ちょっと待ったぁぁ!!』
あれ?野暮用で抜けてた騎士さん達が戻ってきた…けど、多くね?
「俺、騎士団長が辞めるなら俺も辞めます!」
「俺も!」
「俺も!」
「俺も!」
おお、流石ケビン。慕われてる!騎士団総員来ちゃったらしい。
「お前達…」
「団長がお辞めになるならば、騎士団総員、どこへなりとお供します!!」
『おう!!』
副団長様が超楽しそう。そっかぁ、皆来てくれるのか。
「ならいっそ、未開の地に行って国作っちゃいたいですね」
「いいですねぇ…嫌な上司がいないとか、惹かれます」
副団長様、かなり本気ですな。嫌な上司ってケビンじゃなくてオバハン?誰??ケビンは皆の決断に感動してます。よかったね。
「ま、待て!何の話だ?すまぬが書類を確認させてくれ!」
「こちらになります。燃やされたりしては困りますから、こちらは写しです。精巧な写しを異界の姫様に作っていただきました。しかし、本物と寸分違わぬものですよ」
やはり国王陛下は知らなかったみたいね。オバハンの隣のお兄さんかな?犯人。真っ青だよ。国王陛下は書類を確認する。
「…宰相よ」
「…は、はい」
「これはどういうことだ。余はこの書類を知らぬ。しかも、余は愛しき妻の忘れ形見である息子の幸せを願っておる。ケビンは姫と居るときにようやっと幸せそうな表情を見せるようになったのだ。その最愛の姫と引き離すようなことは絶対にせぬ!余がこのような条約を結ぶことは、絶対に無い!!」
国王陛下、言い切った!ケビンがウルウルしている。良かったね。家族仲が悪いと聞いてたけど、国王陛下はケビンを大事に想ってくれてるみたい。
オバハンがついにハンカチを破りました。ざっまぁぁぁ!!
「つまり、この書類は何者かによる捏造の可能性があるということですか?」
「うむ。捏造である可能性が高い。さらに、この書類に使われた印を扱える者は限られておる。誓約してもよい。書類を燃やしたりせぬゆえ書類の原本を貸してくれ。この印には仕掛けがあるのだ」
「…わかりました」
チラッと王太子殿下が私を見たので頷いた。国王陛下が渡された書類に魔力を通すと、淡い燐光が印から溢れた。これは…花?
不思議な紋様は、赤い花に見えた。
「こここここれは何かの間違いです!わ、私は何も知りません!」
いや、嘘下手だね。明らかに動揺してるじゃん。側妃の隣にいたお兄さんが必死で自分じゃない、嵌められたんだとわめいている。
えっと、どういうこと?
いまいち状況を把握できてない私に、そっとマーロさんが情報を補足してくれた。
国王陛下が普段使っている公印は魔具で、使用した人間が貴族である場合、どこの血族かがわかるのだそうだ。ご落胤なんかの判別にも使うが、本来の用途は『誰が』印を使ったかの判定。
書類に浮き上がった赤い花はカラート。側妃の夫である宰相の家紋なんだそうだ。つまり、あの嵌められたと騒いでるお兄さんの家ね。
「しかし、余はそなたからローシィアの鉱山について報告を受けているが?」
「ぐっ!」
無関係ではあるまい、と国王陛下は冷たく告げた。
「この者を連れて行け!」
「誤解なんです!私は頼まれただけなんです!」
「罪人の戯言など聞く価値もありませんわ」
言われたら困るからだね。側妃が元宰相の言葉を遮った。
「…そんな!」
「よろしいの?誰のおかげでここまでの身分になったか忘れたのかしら?…家族、貴方の妹は愛らしかったわよね」
「…!!」
元宰相はうなだれた。そっか、人質かぁ。最後のは声を潜めていたけど、聞こえた。脅しではないと言われればそれまでだ。
「あ、国王陛下」
私は挙手した。
「なんだ」
「連続で側妃様の夫に迷惑かけられたから、側妃様にも罰を与えてください。私に対する今回の不備は、それで帳消しにします」
国王陛下はにまりと笑った。以前からそんな気はしていたけど、やっぱり国王陛下は側妃が嫌いなんじゃないだろうか。
「そうだな。1ヶ月の謹慎処分でどうだろうか。離宮に最低限の世話係のみ、粗食で夫の面会も禁止。警備は騎士団とすれば不正も起きまい」
「陛下!?」
オバハンがショック受けてるぅ。ざっっまぁぁぁ!!
「確かにそなたが直接関わってはおらぬようだが、そなたの夫が連続で不祥事を起こしておるのだ。姫への度重なる無礼な態度の罰でもある。連れていけ!!」
「い、嫌あああ!!」
オバハンは連行された。ざまぁみろ!さて、私はこれから忙しくなるなぁ。
「では、私達からはもうお話はありません」
「さて、では私とお話ししていただきましょう」
ローシィアの王太子殿下は超笑顔です。むしりとるぜ!と表情が語っています。頑張ってね!
「…うむ」
国王陛下のひきつった顔を眺めつつ、退出したのでした。
ちなみに発想の逆転とは…当初私達は結婚の話を承諾していないと主張し、ローシィアは対価まで支払ったのだから私をよこせと主張した。
だが、そもそもローシィアと約束したのは私達ではなくカルディアであり、ケビンはともかく私はカルディアの国民ですらないから命令を聞く必要がない。このままではお互い譲らず平行線だ。
だから、私はローシィアの王太子を唆した。訴えるべきは私達ではなくカルディアである、と言ったのだ。
『今なら違約金が取れますよね』
私をよこせと言うより、確実に最小限の労力でお金なり領地とか資源なり、むしりとれるよね?私はケビンとの結婚を絶対譲らないから何を言っても無駄だ。
今回の件はどう考えてもカルディアに落ち度があるのだから、そちらに対価を貰うべきだと話し、彼は頷いた。
こうして、私とローシィアの王太子は手を組み、事件は終わったのでした。
ちなみにローシィアの王太子は慰謝料として鉱山をもらったらしいです。良かったね。
【今回の情報補足】
元宰相は雪花をきちんと理解しておらず、ケビンとの婚約は彼が王子だからだと考えました。
もっと条件のいい相手をあてがえば、そちらに靡くだろうと考え、最高に条件がいいローシィアの王太子と縁談を組ませました。
元宰相は側妃のために雪花を隣国に嫁がせて遠ざけるつもりだったようです。
結果は、まぁ、見ての通り『こけこっこぉぉい!』ですね(笑)