作戦を提案したんだよ
雪花視点に戻ります。
ケビンの貞操は無事だった。大人の姿でイチャイチャしまくり、夜イチャイチャの約束も取りつけたので帰りたいんだけど…そうもいかないみたいだねぇ。
現在私達はローシィアの騎士さん達に包囲されている。一触即発の雰囲気だ。幸い他の騎士さん達も短気を起こさず様子を見てくれている。
「…ええと王太子さん」
名前、忘れた。うっかり、そこのどMとか言わないようにしよう。
「はい」
「とりあえず、騎士さん達をどうにかしてください」
「はい。剣をおさめよ!」
「し、しかし…」
「私がおさめよと言っているのだ!従え!姫は私に危害を加えるつもりはない!…そうですよね?」
「はい」
凛とした声と態度に、卑猥な亀甲縛りが超違和感あるんだけど。そこはつっこんだら多分ダメだよね…サズドマ、せめて簀巻きぐらいにしてくれたらよかったのに。しかも、微妙にクネクネはぁはぁしてて…明らかに性的興奮をしている。間違いなく変態だ。
「ええと…とりあえず縄をほどきましょうか」
「いや、このままで」
いや、ほどかせてくれ!と言う勇気がありませんでした。触りたくない。
「………………」
「セツ、俺が交渉するか?」
「私でもいいですよ?交渉は得意ですし」
「ケビン、どうしても無理だったらお願いします。なんだろう…カダルさんの交渉からは裏の意味が感じられました。さらなる性癖の扉を開かれたら流石に手に負えな…今でも厳しいぐらいなのでやめてください」
「わかった」
「かしこまりました」
さて、私は変態に向き直った。
「私との結婚は、悪意ある方による質の悪い悪戯です。私は貴方と結婚するつもりはありません」
「そのようですね。しかし、悪戯では済まないのも賢い姫はご理解されているでしょう?」
「…ええ。とりあえず、立ち話でするような案件でもないでしょう。お茶しながらにしましょうか」
「ふむ、いいでしょう」
その状態じゃお茶を飲めないから、とようやく王太子の亀甲縛りを解除することに成功した。
「異世界の珍しいお菓子でもいかが?」
私はちみっこ達のおやつに用意していたジャムとパンを鞄から出した。さらに鍋と油。
パンを細く切り、油でカラリと揚げます。そう、揚げパン!
今回は砂糖をまぶさず、ジャムでいただくスタイル。揚げたてはカリサクでうまうまなのだ!
「あふ…美味しい…!」
毒味役の侍女さんがうるうるしているね。
「ジャムによって味が違いますよ」
たんとお食べ、とジャムを並べた。スタンダードな苺、オレンジマーマレードに加えて林檎、桃、謎の果物(名前を聞いたが忘れた)各種。
『おいしいぃぃ……』
皆さんが満足したところで本題だね。
「先程も申し上げましたが、私は1ミクロンも結婚に承諾しておりません」
「そうだね。だが国同士の約定だ。違えられては困る。正式に調印までしているしね」
ひらり、と出された書類。イラッとして一瞬燃やしたろかと思った。いや待て。
発想を逆転するんだ!
「それについて、提案いたします」
私は思いついたアイディアを話した。カダルさんがすごーくイイ笑顔です。サズドマもニヤニヤしています。ケビンとシャザル君は驚いている。
「…いいね、面白そうだ」
「兄様!?」
「大丈夫、考えた上で私はこの提案に乗るのだから。こちらに損はないしね」
私の提案を、王太子が快諾した。
「カダルさん!」
「はい、かしこまりました!お話を聞きながら書類をご用意させていただきました。メル、カイン、スノウへの連絡もいたしましたよ」
カダルさんがツヤッツヤだぁ…。楽しそうで何より。しかし、この人本当に超有能だよね。特に嫌がらせする時は能力が普段の2倍…いや5倍になります(当社比)
「時間との勝負ですから、行きましょう!」
「…待って」
出発しようとしたら、お姫様から待ったがかかってしまった。
「なんでしょうか?」
「…貴女は何故その醜男がいいの?貴女なら選び放題ですわ。その醜男よりお兄様の方が美しいし、身分もあります。それなのに、何故…」
そんなことか。私はお姫様に微笑んでみせた。
「…私が彼に惹かれたのは、彼があまりにも優しかったから。あの国で唯一、彼だけが私の怒りを理解して謝罪してくれたから…というのがきっかけですね」
「優しい?」
まだ大して時間が経ってないけど、すごく昔のことみたいな感じがする。
「ええ、眠れない私のために、蜂の魔物に刺されまくってまで蜂蜜ミルクを作ってくれたり、ね」
「…そう」
納得はしてないみたいだね。なんと説明したものか。
「ええと『嫌い』って理由がわりとハッキリしてますよね?」
「…そうね」
「逆に『好き』って理由がなくても成立しちゃうんですよ。好きだから、好きなんです。もちろん、ケビンに良いところは山ほどあります。でもあくまで私基準ですから、貴女が共感できるかはわかりませんし、ケビンの良いところは私だけが知っていればよいのです。あと、ついでに言っておきますが、異世界基準でケビンはかなり美形です。醜男は撤回を要求します。彼は私の唯一ですから、彼の悪口を言う奴は滅しますよ」
「え」
ケビンが嬉しそうだわ。後でもふろう。
「貴女、面白いわ。そうね、貴女の唯一に失礼だったわ。謝罪します」
ふんわりと笑ったお姫様は、超絶美少女だった。ケビンよ、ぐらついたりしてないよね?
「ふふ、貴女の唯一はこのわたくしに『心から異界の姫を愛しております。貴女が世界一の美姫であろうと、我が心は変わりません』とまで言ったわよ。貴女の見る目は確かだわ」
「え?」
マジで!?ケビンを見たら、超赤くなってた。マジか!!
「うああ…それ私も言われたい!」
「あははは!本当に面白いわ、貴女達!」
頭を抱える私にお姫様が堪えきれず笑いだした。
「なら、お友達になりましょうよ。現在お友達を募集中なんです。私はセツと申します」
「わたくしはシフォン=ローシィアですわ。お友達なんて初めてだわ」
私とシフォン姫は握手した。美少女の友人、ゲットだぜ!
「さて、話がまとまったところで行こうか。私とは友人になっていただけないのかな?」
「王太子殿下は今後次第ですかねぇ…底意地悪いから、考えさせてください」
王太子殿下は苦笑した。シフォン姫は爆笑している。よく見たら、カダルさんとサズドマも痙攣している。
「では、友人にしていただけるよう頑張るとしようか」
こうして、私達は出発したのでした。
そして、この日。カルディア城を茶色い鳥が包囲し、城の周囲のみに雷雲がかかっていた。さらに、雷が数回落ちて城が焦げた。
人々は、この騒動を『異界の姫様のご乱心』と呼んだらしい。
微妙に合ってる。
この微妙に的確な情報はカダルさんかマーロさんの仕業ではないかと私は疑っていた。正解は両方だった。やっぱりな!彼らは私をどうしたいのだろうか。けっこう不安である。