本気で甘く見ていたんだよ
襲撃事件翌日、私は城に呼び出された。昨日の件の事情聴取かと騎士服のまま行ったらカダルさんがいてドレスに着替えさせられ、髪を結われて見知らぬ男性に会うことになった。
「はじめまして、異界の姫様」
「はじめまして…」
いや、本気でどこのどちら様だろうか。見覚えがないし、服もなんかこう…こっちは西洋風なんだけど、男性はアラビア風の衣装を纏っている。肌も褐色で細マッチョ。この世界基準なら美形だが、あいにく私の好みはゴリマッチョである。
「私は隣国ローシィアの王太子で、ミラン=ローシィアと申します」
「……セツです」
隣国の王太子が何の用だろうか。その意図が不明なまま、ミランは無邪気に色々と話しかけてきた。主にローシィアの自慢話。なーんかこういう話、前に延々と聞かされていたような……
「こんなに可愛らしいセツ様と結婚できるなんて夢のようです」
は?
あまりの発言に固まったが、確認しなければならない。
「どういう、意味ですか?」
「え?私はセツ様と結婚するのです。国から許しはいただいています。何も不自由はさせませんよ」
「…無理です。私はケビン以外とは結婚しません」
「え?ケビンとは、確か騎士団長殿ですよね?彼は、我が妹姫と引き換えにするという条件で身を引くとうかがっていますが…」
「あり得ない!ケビンは今、隣国との合同演習訓練に参加…それも罠か!あんのくっそババア…やってくれたわね!!」
首をかしげる王太子殿下は、恐らく騙され、巻きこまれたのだろう。いや、騙されたとしても異界の姫が手に入るならと考えたのかもしれない。私の反応も想定内の様子だ。焦る私を面白そうに見ている。
手段を選んでいる暇はない。時間との勝負になる。こいつは焦る私を楽しむような男だ。犠牲にしても問題はあるまい。
「すいません、後でお詫びに異世界スイーツを作ります…だから、人質になっていただきます!」
「………は?」
流石に人質は想定外だったみたいだね。してやったりと笑ってみせた。
「サズドマ!」
「はぁい。ごめんねぇ、王太子殿下。俺、ヒメサマの言うこと聞けばお菓子が貰えるんだぁ」
サズドマは手際よく王太子に亀甲縛りをかました。普通に捕縛しろよ。緊急事態だからつっこまないけどさ。
「野郎共!であえ、であえぇぇ!!騎士団長の貞操が危険です!!」
私は叫びながら部屋を出た。王太子はダチョウさんにくくりつけてある。
皆さん、恐怖のペンギンかき氷器と高笑いする私事件のせいか、誰も止めません。
私は現在、ダチョウさんに乗っている。その周りにも多数のダチョウさんがおり、壁となっている。よく考えたら、爆走するダチョウの群れに飛び込むバカはいないか。止める人がいないのは、高笑いする私事件だけが原因ではないね!
私が乗っているダチョウには本日のもう一人の護衛、双子近衛騎士の片割れカルーが乗っていた。彼は私にこっそり聞いてきた。
「…これからどうするおつもりで?」
「スノウのとこ行って、転移魔法でショートカットします!」
「スノウ…かしこまりました。姫様!おやめくださいぃぃ!!」
カルーは私を止める演技をした。うむ、なかなか演技派だね!ちゃんと止めたってことにしといてあげるからね!
「うわああああああ」
「あははははははは」
王太子は亀甲縛りのままダチョウにサズドマと乗っている。絶妙に落ちないようサズドマが加減しているが、あれは怖い。でかした、サズドマ。後で大好きなプリンをあげよう。でも、サズドマは止めるふりをしなくていいんだろうか…多分よくない気がする。
「姫様!止まってください!!」
城門で近衛騎士達がバリケードを作っていた。ダチョウは飛べない…どうしたら……いや、できる!彼らは私の魔法で産み出されたダチョウ!ならば、空もきっと飛べる!
「あいきゃんふらぁぁい!!」
『こけこっこぉぉい!!』
そして、ダチョウは一斉に羽ばたいた。やればできる子達でした。
ダチョウが飛んだ。異世界では、ダチョウも空を飛ぶようです。そんなのアリババ(意味不明)
ダチョウが飛んだから誰かに聞かれることもないと判断したらしいカルーが声をかけてきた。
「ところで、何故そんなに焦っておられるのですか?団長が否定すれば済むお話なのでは?」
「…ケビンの浮気は疑っていません」
「ですよね」
「ですが、相手に悪意があったら?例えば、二人きりの状況で悲鳴をあげ、服を破いたら事実はどうあれケビンが姫を襲ったことになる」
「…………そう、ですね」
カルーの表情がひきつった。
「しかも、ケビンはあまり口がうまくない。相手を怒らせてしまう可能性が高い」
「………あー、団長正直だもんなぁ…姫様以外は眼中にないとか言っちゃって、プライドたっけぇオヒメサマをキレさせそぉ」
「「………」」
カルーが青くなった。私もそれはやらかしそうだと思った。
「…ちなみに、妹姫は…」
「うん、プライドが超高いよ。多分眼中にないとか言われたらむきになって何をするかわからないね」
「ダチョウさん!急いでぇぇ!!」
ダチョウさん達にスピードアップしていただきました。
「…そういや、異世界のダチョウは飛ぶの?」
ふと気になったのでカルーに聞いてみた。
「そもそも、ダチョ?なる生き物がおりません」
「……………」
まさかの、ダチョウ不在!異世界にダチョウはいなかった!
地味にショックを受けつつダチョウ軍団は我が家に到着しました。
スノウは魔法でシロウ君達と庭掃除をしていたが、ダチョウ軍団を見てポカンとしていた。
「スノウ!ケビンの貞操が大ピンチです!緊急事態のため転移魔法を!私、国境付近まで行ったことないから多分とべない!」
「え?…はい??あ、転移?国境…ケビン…は団長殿?」
スノウがいきなりすぎたみたいで地味に使い物にならん!
「姫様!どういうことですか!?」
「説明してください!何故だちょ?の大群が…」
近衛騎士団長と副団長様から通信魔法が来た。ちなみに普通の通信魔法は鳥を飛ばし、離れた場所でも鳥を介して話せるというもの。近衛騎士団長はオウム、副団長様はツバメっぽい鳥。人によって鳥は違う。ちなみに私のは巨大なひよこ。鳴き声は鶏。飛べないんだよ。なんでだ!?
そこは今はどうでもいいので状況を説明しておいた。
「私は…私達は恐らく嵌められました。今日お会いした王太子様から、ケビンが隣国の姫との結婚することと引き換えに私と王太子様の結婚を承諾したと聞いたんです」
「「……………………」」
「だから、隣国に殴りこみに行きます!徹底抗戦です!!ケビンは私の…私だけの旦那様なんです!」
「「なんで殴りこみに行くんだ!!」」
「大丈夫!王太子を人質にして交渉します!!」
「「微塵も大丈夫な気配がしない!!」」
なんかゴチャゴチャ言ってたけど、非常事態だから強制中断しちゃった。ちょっと魔力で妨害してやれば、あっさり鳥達は消えてしまう。副団長様、後でお説教はちゃんと受けます。
「と、いうわけよ!スノウ!!」
「うえ!?わ、わかりました!でも隣国の国境までですよ!?私、国境までしか行ったことないですから!」
「うん!」
「ちょっと待ったぁぁ!!ゲホッはぁっはぁっ」
「大丈夫?姫様!僕らも行きます!!」
なんと私の護衛騎士達が全員集合です。カダルさんも居ますね。
「我らも参ります!!」
そしてこの日、隣国・ローシィアにダチョウの大群が襲来したのだった。
ちなみに今回のタイトルについて。
雪花&おっさん
➡側妃を甘くみてた
隣国の王太子
➡雪花を甘くみてた
側妃
➡雪花の行動力を甘くみてた
とりあえず、後始末しなきゃいけない人たちが頭を抱える様子が浮かんできます。