お茶会の舞台裏なんだよ
皆さんお待ちかね?のカダルさん視点になります。
お茶会は、未だかつてない熱気に包まれていました。その中心にいるのは、黒髪黒眼の幼い少女。
その少女を取り巻く令嬢達は少女の一挙一動を注意深く見守っています。
少女が、ついに動きました。手を振り上げ…
「じゃーんけーん、ぐー!」
握りこぶしを突き上げた少女に合わせて手を出したご令嬢達。
「きゃあああああ!やりましたわ!」
「いやあああああ!ま、まけましたわぁぁ!」
「やったぁぁ!勝ちましたわ!」
「うわぁぁぁ…フルーツたると……」
狂喜乱舞するご令嬢、泣き崩れるご令嬢…ここまでこの通夜のような茶会が盛り上がったことがあるでしょうか。いえ、絶対にありません。じゃんけんとやらがどうこうなのではなく、少女こと我が姫様のフルーツたるととぷりんがご令嬢方の心を鷲掴みにしたからでしょう。
私にも味見させてくれましたが、あれは確かに素晴らしいです。高級な瑞々しい果物をふんだんに使用した逸品ですから。高級さ、甘味、バランス、食感、見た目…全てにおいて既存の菓子をはるかに凌駕した、奇跡の菓子です。
そして、この熱狂に加わらない一人ぼっちの年配女性は、ひたすらに爪を噛んでいました。
「姫、そのようにしては爪が…」
「やかましいわ!」
彼女が叫んでも、誰も気がつく様子はありません。私はこっそり笑っていました。我が姫様はご令嬢達の乱闘を回避するのに手一杯で、この面白い見世物に気がついていないようです。まぁ、止めなかったとしても殴りあいになるのではなく、身分の高い女性が掠奪するのでしょうがね。
後で見せてあげようと、映像記録の魔具をこっそり起動しました。
なんでそんなもの持ってるかって?役に立つ事があるからですよ。
「じゃーんけーん、ちょき!」
あちらは相変わらず盛り上がっていますねぇ。楽しそうで何よりです。
…………おや?
「あの小娘、許せないわ!異界の姫君だからと、やりたい放題じゃない!」
いやいや、そりゃ年配女性こと側妃でしょうよ。うちの姫様は基本的に謙虚過ぎるぐらいですよ。側妃が失礼だからわざとやりたい放題
してるようにふるまってるんですよ。
「そうですね。そのせいで私もいわれのない罪で降格されました」
いやいや、あんたは自業自得ですよ。めちゃくちゃ黒だったくせに何を言ってるんですか。
おや?側妃の様子が…
「…あら?貴方居たの?」
「………へ?」
「前科持ちの無能な夫なんて、わたくしの権威に傷がつくじゃない。貴方とは離婚したから」
側妃は冷たく元近衛副騎士団長に告げました。やべぇ。面白すぎます!
「…………は?」
「ああ、紹介してあげるわ。昨日新しく結婚した近衛騎士隊長の…」
しかも、次のスペアまで用意されてるとか…!笑っちゃダメ!笑っちゃダメです!ぐふふっ。
「待ってください!私は貴女の望みを叶えたせいで降格になったんですよ!?」
「わたくしには関係ないわ。なんのことかしら?」
うっわぁ、ど修羅場ですね!こりゃあ面白いです!誰かこっちに気がつかないですかね…あ、あのご令嬢は気がついてますね。他のご令嬢にも声をかけてます。こりゃ、噂になりますね。わざわざ私が手を下すまでもないようです。バレないように、にやりと笑いました。
「許さない…」
おや、これはまずいな。私はわざと大声で話しかけた。近衛騎士数人が揉め事かとこちらに注視したのを確認しました。
「おやぁ!?どうされました!?近衛騎士の方が剣に手をかけるなど…」
「……くっ、覚えていろ!」
元近衛副騎士団長は見事な負け犬の台詞を吐いて去っていきました。
「ほほほほほ!もう忘れましたわ!」
うん、よかった。まだ利用価値があるのに側妃に斬りかかって貴族身分も剥奪とか笑えないですからねぇ。走り去る元近衛副騎士団長をぼんやり見送りつつ、とぼけた様子で側妃に話しかけました。
「おや、お邪魔でしたかね」
「いいえ。それにしても、相変わらず色好い返事は貰えないのかしら?カダル」
側妃が頬に触れた。後でよ~く洗おう。
「ええ。簡単に手に入るモノに、興味なんてないでしょう?」
挑発的に、近衛騎士に微笑んでみせた。悔しそうですね。
「…そうね。簡単に手に入らないから…欲しいのよ」
側妃は多分、国王陛下を想っているのでしょうね。
残念ですが、陛下が貴女に応えることはないでしょうけど。あの人、側妃の本性知ってて嫌ってますからね。
私は側妃に礼をすると、元近衛副騎士団長に声をかけた。いや、うん。貴族のボンボンはチョロいですねぇ。
おや、我が姫様のじゃんけん大会は終わったようですね。
「そのうち我が家でも茶会を開催したいので、その際は参加してくださいね」
お嬢様達がうちの姫様の言葉に頷いていました。おや、お仕事ですね。屋敷に戻ったら早速手配しなくては。あの家、揃いの食器とか茶器とかありますかねぇ?メルとカインにも手伝わせるとしますか。
「名前とかは…」
「私が記憶してございます。本日不参加だったご令嬢も招待いたしましょう」
記憶力には自信がありますから、問題ありません。姫様は嬉しそうに笑いました。
「ありがとう、カダル」
「いえいえ、我が姫様のためでしたら」
ふふふ、本当ですよ。姫様の為なら、私は全力で働きます。
側妃が姫様に忠誠の礼をとる私に唖然として、ヒステリーを起こしていました。姫様は気がついていませんでしたが、ざまぁみろってんですよ。姫様になんかニヤニヤしてるけど、何企んでるの?と言われました。流石は我が姫様。なかなか鋭いですね。
後で教えたら、自分も見たかったと拗ねてました。流石は我が姫様です。今度はちゃんと教えてあげますからね。
なんか、カダルさん超楽しそうですねぇ。確実に側妃を落としにかかっています。