水を得た魚なんだよ
ケビンに抱っこされたまま自室に到着。扉を開けると、カダルさん、メル君、カイン君がいた。
「お帰りなさいませ、姫様。調査結果をどうぞ」
「え?はやっ!」
ケビンと書類を確認した。きっちりと裏付けまでされている、が……
「これだと罰されるのはあの残メンだけだねぇ…」
カダルさん達の調査結果は先程の残メンが近衛騎士の配置をいじった、というもの。だが私と残メンは面識がなく、恨まれるような関わりもない。
考えられるとすれば、あのオバサンだ。
「ねえ、他に私みたいな被害者はいないの?」
「私みたいな、とは?」
「オバ…王妃の怒りをかって、殺されたか大ケガしたって人」
「…おりますよ、かなり」
カダルさんは頷いた。あれ?カイン君の顔色が悪い。体調不良なのかな?声をかけようとしたら、カイン君が勢いよくケビンに頭を下げた。
「…すいません、兄上!」
「え?」
「あ、兄上の大事な婚約者を危険にさらして…は、母上が…母上の、せいで…」
真っ青で泣きそうになりながらケビンに話しかけるカイン君。
「カイン…お前は悪くない」
ケビンが優しくカイン君の頭を撫でた。うちのダーリンは優しくて素敵…ではなく!
「きょー、だい?」
「………言ってなかったか?」
首をかしげるケビン。聞いとらんわ!!首をかしげるとか、可愛いな!
「聞いてませんよ!もおぉ、ケビンは自分のことを語らなすぎです!」
「す、すまない…」
ケビンの胸を軽くポカポカ叩く。こら、怒っているのに尻尾を振るでない!可愛くて抱きつきたくなるじゃないか!抱きついちゃうけど!
「…姫様、俺を…私を雇ってもらえないでしょうか。私がいるから、母は正妃になろうとするのでしょう。母とは縁を切ります。私はただのカインとして、貴女にお仕えしたいのです」
「え?」
「お願い、します」
カイン君が頭を下げた。正直、常識人である彼も来てくれるのは私としても心強い。
「…ケビンの意見は?弟を侍従として雇うのはアリなの?」
「俺はかまわん…が、正直カインが義母と縁を切るとなると心配だ。できれば…」
ふむ、屋敷で庇護したいんだね?なら、私の答えは決まった。
「これからもよろしくね、カイン君」
私はカイン君に手をのばし、笑顔で握手した。
「…はい!」
ケビンは話したがらないから、カイン君からもケビンの幼少期を聞きたいな。
「あ、あの…今さらなのですが…お、私が母の手先だとは疑わないのですか?」
カイン君がおずおずと聞いてきた。
「疑わないねぇ」
カイン君には最初から危機を教えるアラームが鳴らなかったし。でも、それだけじゃない。
「カイン君、真面目で誠実だもん。言葉遣いもいつも通りでいいよ。ちゃんとカイン君を見た上で信用してるから、大丈夫だよ」
「姫様…!」
何故カイン君は泣きそうなの?いや、泣いてるわ!私、いじめた??悪いこと言ってないよね??
「姫様ったら、人たらしぃー」
「姫様ですからねぇ。さて、犯人はわかりましたが、黒幕にまでは繋がらないでしょうね」
「そうだねぇ」
素人目から見ても、近衛副騎士団長が切られて終了だろうなぁ。
「なら、近衛副騎士団長に牙をむかせるかな?それから、王妃の力を削いで怒らせよう。ねぇ、カイン君。オバ…王妃が正妃になりたいのはなんでかな?」
「振り向かない父を愛しているからも、あるが…自分が女性の頂点に君臨したいという欲からだろうな。あの人にとって、俺も駒の一つでしかない」
「カイン君、私はあの人を王妃から引きずり下ろすかもしれないよ?」
「…もはや、それがこの国の為でもあると思っている。王はよほどの事がないと、あの人を断罪できない」
王妃の実家は公爵家で、ぞんざいに扱えば反乱を起こし、国が二分する危険もあるんだそうだ。厄介だね!
「しかし、姫様にしては珍しいですね。放置するかと思ってました」
「ああ、あのオバサンは最初から泣かすつもりでしたから。私のケビンをいじめるやつは、許さん!」
「俺!?」
そうです。ケビンをいじめるやつは私がいじめてやる!
「あと、マイペースな人間は、基本的に自分のペースを崩されるのが嫌いなんですよ。嫌がらせされるのが目に見えてるのに我慢してやるつもりもありませんし、目には目を!歯には歯を!やられたら、10倍返しが基本です!!」
「流石は我が姫様!では私は姫様が有利に動けるように情報を集めてまいります!」
カダルさんが、水を得たお魚のようにイキイキとしています。ヤル気ですね。頼もしいです。
「僕も行く!姫様をいじめるやつは許さないんだから!…地獄を見せてやる」
「メル君!?」
最後!最後の台詞が聞いたことない低音ボイスだったよ!?普段のボーイソプラノボイスはどこいった!?
「大丈夫だよぉ~、姫様!メルにおまかせだよ!メル、情報収集得意だしぃ、お兄様におねだりしてババアのとりまきに大打撃を与えてあげるからね!」
「…メル君のお兄様?」
「メルのおうちは公爵家だよぉ、すっごくえらいんだよぉ。メル、頑張るからね!」
「………うん?」
何故だ。大惨事の予感しかしない。メル君、激おこの気配がするよ??
「話は聞かせていただきました!『異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会』会長の私が!全力でサポートしてあげます!!」
「うわあ、マーロ様がいれば百人力だね!」
何故か、鬼が金棒ではなくバズーカを持ってヒャッハーしている様が脳内に浮かんだ。というか、マーロさんは何故ソファの下から出てきたんだ?
「私がお招きしました。そして、隠れていただいておりました」
「カダルさん、人の心を読まないで。何故隠れる必要が?」
「手伝っていただこうと思いました。隠れていただいたのは、その方が楽しそうだからです」
すっかりいつものカダルさんだな、ちくしょうめ!!ホッとしたけど腹立つわ!
「もちろん、私は喜んでお手伝いするよ!」
ああ…大変だ…三大どSが手を組んでしまったよ……
「あ、それから『異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会』近衛騎士部門の隊長であるヘルマータ君と『異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会』女性部門の隊長であるルマン公爵令嬢も協力するからね!」
「は?」
「うわぁ、5公爵家のうち4つが協力するなんて、ババア終わったね!」
メル君も輝いてるね。イキイキとしているよ。
この国の公爵家は5つ。
オバサンの家と、メル君ち、マーロさんち、ヘルマータんち、ラトビアちゃんちである。というか、いつの間にか各公爵家の血族に会ってたんだね。
「あ、あはははは…」
頼もしすぎる友人&侍従達に、乾いた笑いしか出ない私がいた。オバサンの破滅はもはや決定した気がするなぁ。成仏しろよ。
書いてて、このメンツは強そうだな!王妃終了乙!と思いました。まだ試合終了ではありませんが(笑)
珍しくシリアス先輩に出番かと思いきや、公爵プラスカダルさんにより即退場でした。すまぬ、シリアス先輩。