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近衛騎士団長は大変そうなんだよ

 ややこしいことにこの国の正妃は現在空席で、側妃であるオバサンしか妃はいない。だから勝手に正妃を名乗ることもあるらしい。

 何故オバサンは正妃になれないのか。正妃は王子を生むのが仕事だけど、他に夫がいるとそっちの子かもしれないから。ちゃんとした王家の子供を産むために、正妃は王だけを夫にしなくてはならないのだ。


 ちなみにケビンの母は身分が低かったから正妃になれなかったけど、王様だけが夫だったからケビンには例外的に王位継承権があるそうな。ただし王弟より順位は低いらしい。


 なるほど、なるほど。


「ケビン、私はケビンについて知らなすぎます。今日帰宅したら、生い立ちから語らせますからね!」


「わかった。すまないな。セツが義母上を嫌っていたから、言い出せなかった」


「あくまで義理の母ですから、問題ありませんよ。戸籍だけの赤の他人じゃないですか」


 私はにっこりと笑った。


「そうか」


 ケビンはホッとしたようだ。


「それに…もしかしたら側妃でいられなくなる可能性もありますから、本当に赤の他人になるかもしれませんし?」


 クスクスと笑ってみせた。


「無礼な!」


 顔を真っ赤にしてキレるオバサンだけど、いやいや?変なことは言ってないよ。


「だって、(そっち)の不備で私が危険な目にあったのに謝罪すらないからちょっとイラッとして苦情を言った私に逆に怒っちゃうお妃様なんて、遅かれ早かれ何かやらかして幽閉とかされちゃうんじゃないかなって」


 私は笑顔だけど、怒ってますよ。うふふふふ。


「だよね~。それに、僕に黒焦げにされちゃうかもだしね~」


 ピエトロ君、あの、抑えてくれ。なんかピリピリするよ?


「「ね~」」


 それでも笑顔を作って仲良しアピールする私とピエトロ君。死なない程度なら、今日は止めないよ!


 そんなことをやっていたら、近衛騎士団長が来ました。


「……出直した方がよろしいですかな」


 空気が激悪だもんねぇ。でも、いつまでもオバサンで遊びたくないからちょうど良かったかも。


「いえ、いいタイミングでしたわ」


「そうだな。近衛は近年腐敗していると感じていたが、ついに誇りを売り渡すほどになったようだぞ」


「……は?」


 そして説明を受けて頭を抱える近衛騎士団長さん。


「しかし、おかしいな」


「何がだ」


「…私が指示した配置と違うんだ。今回の件を起こした奴らは高位貴族である実家の権力を使い問題を起こしたことがある奴ばかりだ。そんな奴を要人警護に回すと思うか?」


「…しないな」


「ああ、しかしこちらの手落ちであることは確かです。調査が終わり次第、なんなりと処分を受けます」


「無能な近衛騎士団長など、辞めさせてしまえばよいのよ。貴方こそ相応しいのではなくて?」


 オバサンは自分の側に侍るイケメンの一人に話しかけていた。


「勿体無き御言葉にございます、我が姫」


「…あの人誰?」


「近衛の副団長だ。義母の夫でもある」


「ふぅん」


 確かに顔はいいけど…さっきから近衛の話してたのに、知らん顔してたよね?


「お飾りの副騎士団長なんですか?」


 心底疑問だったから、近衛騎士団長様に聞いてみた。


「………ぶふっ!?」

「な!?」


 あ、近衛騎士団長様が吹いた。え?変なことを聞いちゃった?あ、近衛の副騎士団長…長いから残念なイケメン、略して残メンでいいや。残メンは顔を真っ赤にして怒っている。


「…何故そう思ったんだ?」


「え?だって近衛の責任問題で私が危険にさらされたって話してたのに他人事みたいな顔してるから、おば…お妃様の権力で副騎士団長になったお飾りの人なのかなって。普通すぐ騎士団長を呼ぶなり謝罪するなり調べようとするなり…するよね?」


「…わ、私の仕事は我が姫をお守りすることだ!姫のそばを離れることなどできないのだ!」


「…近衛は何のために魔法を習ってんの?しかも仮に警護中だったとして、伝令魔法使うか、私に謝罪することはできたよね?」


「…そうだな」


 ケビンが納得した。


「重ね重ね申し訳ないです…」


 近衛騎士団長は泣きそうだ。いや、貴方を責めてはいないからね?


「貴方からはきちんと謝罪をいただきました。今回の件について、黒幕までキッチリ洗い出してくださると期待しています。その働き次第で…ということにしたいのですが」


「そうだな。今貴殿に抜けられては困る。数少ないまともな人材だからな」


 ケビンからみても近衛騎士団長様はまともなんだねぇ。


「何を勝手な話をしているのです!無能な近衛騎士団長は降格!このわたくしが!我が夫を団長とするべきだと申しているでしょうが!」


「えー?ごめんなさいも言えないような残念な男性をトップにしたら近衛が崩壊しますよ。無茶すぎです」


「「言わせておけば…!」」


 ついに残メンとオバサンがキレた。いや、オバサンはしょっちゅうキレてた。私、まっとうな事しか言ってないと思うよ。歯に衣は着せなかったけどね。


「やめろ!このようなか弱い子供に何をする気だ!」


 近衛騎士団長様が私を庇おうとする。いい人だなぁ。


「ケビン、あのおじさんこわぁい」


 ここぞとばかりにちみっ子アピールした私。オバサンと残メン、近衛騎士団長様がフリーズした。顔面蒼白でガタガタ震えている。え?寒気を発生させるレベルで痛かった?知ってる。いや、目線がよく見たら私じゃないな。






「……俺の婚約者に、なにをするつもりだ?」






 その声は、地の底から響いたかのようだった。ケビンがまたモフフェイスになっている。

 後で知ったんだけど、ケビンは殺気を任意の相手にあてる事ができるらしい。ちなみに近衛騎士団長様はとばっちりだったそうな。


 つまり、彼らはガチギレケビンの殺気によりガクブル状態なわけだ。


「騎士団長殿、殺気を抑えてください。姫への無礼は間違いない。こやつは降格処分とします」


「なんですって!?わたくしは許可しませんわ!」


「……そこまでだ」


 王様がオバサンを止めた。悔しそうにオバサンは黙る。


「そなたは降格だ。良かったな。その程度で済んで。下手をしたら異界の姫を守護する精霊様に一族郎党皆殺しにされるところであったぞ」


 いや、ピエトロ君はそこまでしないよ、多分。


「そうそう」


 え?するの??


「姫様を傷つけたら一族郎党皆殺しだよ。精霊は本気でキレちゃうと基本止まらないから」


「…気をつけるね」


「姫様は優しいなぁ」


 いや、普通。平和な日和見日本人であります。ああ、大事なことを忘れてたわ。


「まだ黒幕も不明ですし、城の滞在が不安なので私はケビンと暮らします。いいですよね?婚約もしてますし」


「ああ、仕方ないだろう」


 王様はあっさりと承諾した。


「では、荷造りもあるので失礼いたします。近衛騎士団長、調査は頼んだ」


「ああ、任せておけ」


 ケビンは私を抱えるとさっさと退出した。オバサンがすごーく睨んでいたので『へっ』と鼻で笑ってやった。リアルでハンカチを噛んでキーッてする人を初めて見たよ。

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