冷静になって考えたんだよ
目が覚めたら、銀色だった。そしてふかふかだった。
「ん~」
「起きたのか?雪花」
ぺろりと頬を舐める感覚に、一気に覚醒した。
「!?」
「大丈夫か?まだ寝ていてもいいぞ」
優しい瞳のもふもふ…じゃなかった、狼さん姿のケビンだ。うわぁ、ふかふかだぁ。お腹に顔を埋めると、ケビンの匂いがする。
……………ケビン?
いや待て、私は昨日自室で寝て…急速に意識が覚醒した。
そして、即座に気になったのは…
「今何時!?仕事、遅刻!!」
「……今日は休みだ。雪花、あんなことがあったのだから今日は休みなさい。俺も今日は休むと言ってある」
「……うう…はい…昨日結界を張り忘れなきゃこんなことには…」
頭を抱える私。まさか急遽休むはめになるとは…副団長様、キレてないといいなぁ…
そういや服…新しくなってる。ケビンが着せてくれたのかな?
「…雪花、寝るときは常に結界を張っていたのか?何のために?」
「あ」
私はケビンを心配させないために黙っていたことを洗いざらい話すはめになりました。
あの変態は以前からちょっかいを出してきていて、毎晩結界で侵入を阻止していたこと。
近衛騎士にも内通者がいて、たまに夜這いの手引きをされていたこと。
多分暗殺者かなーって人もチラホラいたこと。
後者の夜這いと暗殺者は無駄だとわかったのか、最近は滅多に来なくなった。
「何故俺に言わなかった!」
すごい剣幕でケビンに怒鳴られ、体を竦めた。
「!?」
「…いや、すまない。雪花、貴女に何かあったらどうする。自分の身を大事にしてくれ」
「…うん。ごめんなさい」
ケビンの瞳が泣きそうだったから、素直に謝罪した。今回の件はひたすら放置していた私にも非がある。いつか飽きるんじゃないかなと気楽に考えていた。
「予定を前倒しして、貴女はこのまま我が家に住んでもらう。警備がザルな城より、俺の側に居る方がよほど安全だ」
確かに、もはや地上最強ではないかというケビンの側に居れば安全だね。私は納得して、挙手した。
「…はい。ケビンさん、ひとつお願いがあります」
「?なんだ?」
「服を着て。早急に」
怒鳴った時点でケビンさんは全裸でした。見えてはいけない部分も丸見えです。ごちそうさまでした。
「!??」
純情な狼さんは慌てて服を着てくれた。和むわ~。カッコいいケビンも大好物だけど、可愛いケビンに癒される。
「今日は城に行って貴女をか、かかか囲うための手続きをしよう」
「うん?私、囲われちゃうの?」
首をかしげたら、ケビンは急にオドオドしだした。
「そ…そうだ。雪花は俺だけの花嫁だから、だれにも触れさせず屋敷に囲うんだ。俺だけの花嫁になって、くれるんだろう?俺は雪花が許してくれるなら、他の男を追い払い、守る」
「うん、お願いします」
うーん、この世界では囲われちゃうことになるわけね。ケビンは私がちゃんと理解してないと感じたらしく、ちゃんと説明してくれた。
囲うことはあまりいいこととされてなくて、男が狭量だと言われちゃうらしい。ケビンは実際私を独り占めしたいから、それは構わないとのこと。
さらに、身分が高い女性ほどたくさん優れた夫を持つのがステータスだから、囲われちゃうのは身分が低い女性だけなんだって。
それを踏まえて、彼は私に問いかけた。
「雪花、俺に囲われてくれるか?」
「はい、喜んで」
身分なんて日本じゃ一般ピーポーだったから気にしないし、最初からケビンだけと決めていたから当然だ。
「そうか」
ケビンもホッとした様子で微笑んでくれた。
「そういや、変態は?」
「地下の牢にぶちこんだが…泣いているらしい」
「魔法を封じたからねぇ」
「…罪を悔いているとかではないのか」
「あれは図体がでかいだけで中身は子供なんですよ。ある意味あれもこの国の犠牲者なのかもしれませんね」
「…そうなのか」
「そもそも、何が悪いかを多分解ってませんよ。あれにしてみれば、遊んでただけです。多分、ですけど」
「…そうなのか?」
冷静になってみると、多分そうだろうなぁ。あいつは私のことを可愛いとか言うけど、本当に『可愛い』と感じているかは限りなく微妙だ。
「…では、服を切り刻んだのは?」
「服を切り刻んだのも、足を掴んだのも、危機感を煽って結界を出させるためだと思われます。今のあれの目標は、私の結界を破ることですから」
実際の私は危機感を煽られすぎてパニックだったから、結界どころじゃなくなってたけどね。
「魔封じの魔具は」
「ついでに実験したかったんでしょうねぇ。私、魔力高いし。まだ試作段階だから解除されると予測していたようです」
「……頭が痛い…」
「同感です」
とりあえず遅い朝食を食べてから、城に苦情を言いに行くことになった。
ちなみに、どうでもいい追記。
高い魔力持ちの魔封じはまだ作られておらず、高い魔力保持者の魔封じをする場合、複数を使うのが常識。雪花が使われた魔封じ魔具はかなり画期的な発明品です。