びっくりしたんだよ
どうやら二度寝してしまったらしい。隣にもふもふしたものがいる。多分ケビンだね。
「ふかふか……」
「…くーん、きゅうん」
甘えた声を出して、ぬくいもふもふが私にスリスリしてきた。くすぐったい。はぁぁ、幸せ~。
まどろみながらも温もりに幸せを感じていたら、ノックが聞こえてきた。
「ぼっちゃま…大変申し訳ありません。若奥様にぜひお会いしたいとルマン公爵家のご令嬢がいらしているのですが…」
ルマン…?ああ、昨日のお嬢さんか。まあろくでもない用件だろうなぁ…起きたくはないが起き上がった。子供達に危害を加えられたら困る。
「大丈夫、会うよ。ケビン、服はどうしたらいい?」
「…いいのか?」
「居座られたら迷惑でしょ」
ケビンは頷くと手際よく私にワンピースを着せた。ケビンに全身コーディネートしてもらい、化粧を施され、髪をセットされる。すげぇな。今日の私もいまだかつてないぐらいに可愛いわ。ケビンの技術力がいつ見てもはんぱない。さて、武装は完璧!いざ、出陣!!
「だから、早く異界の姫様に会わせなさいと言っていますのよ!」
お嬢さん、すでにキレとるわ。面倒だなぁ。しかし、大人としてきちんと対応しないとね!
「お待たせいたしました」
私が礼をとると、昨日のお嬢さんが私に駆け寄ってきた。あれ?サズドマも居るの?
「お姉様!お会いしたかったですわぁぁぁ!!」
はい???
ごめんね、お姉様はまだ寝起きだから頭がまだ働いてないんだよ。
え??どゆこと??
固まる私にソラ君が寄ってきた。
「せちゅねぇね、おちょいにょ~」
「…ソラ君は何故すっぽんぽんなのかな?」
いや、うん。可愛いからいい……わけないわ。ぱんつは大事!せめてぱんつは履いてくれ!
「大概獣人は裸で寝ます。完全に獣化すると、服が脱げてしまいますし、脱げなかったとしても毛がはみ出て見苦しいですからな」
じいが説明してくれた。理由は理解したが、ぱんつは履いてくれ。全裸の方が問題だ。価値観の相違というやつ?異世界ギャップ??
「……………ちなみに、この屋敷の獣人は?」
「私以外の全員ですよ。私に感謝してくださいね。幼子以外は起床時に服の着用を義務づけましたから。ちなみに、私が指導するまでこの時間帯は裸族の巣窟でした」
カダルさんがげんなりしていた。私はカダルさんを拝んだ。本気で感謝した。ケビン以外の裸はノーサンキューだよ!
「マジでありがとうございます!カダルさんを雇ってよかった!」
「でしょう?ええと、ソラ?姫様に抱っこされるなら服を着ないと嫌がられますよ」
「そうにゃの?じゃあおよふく、きりゅ~」
カダルさんはソラ君を連れて部屋を出ていきました。カダルさんを見送る私に、お嬢さんが恐る恐る話しかけてきた。
「お姉様…お怒りですわよね?ですから無視されても仕方ないとわたくしも思います!でも、昨日は本当に申し訳ございませんでした!!お姉様の伴侶様も、不快な思いをさせて、申し訳ありませんでした!!そして、ありがとうございました!!これだけ、どうしてもお伝えしたかったのです」
お姉様、まだ頭が起動してないの。どゆこと??昨日と態度が違いすぎないかい??困惑する私に、サズドマが情報を補足してくれた。
「いや、あの後このオジョーサマが大変でさぁ」
「うん」
「絡まれる、拐われかける、殺されかけるでさぁ。オレ、頑張ったぁ☆」
「サズドマ偉い!お菓子をあげよう!しかし、なんで?お嬢さんの護衛は??」
「ん~?それはぁ…」
「…サズドマ様、わたくしが申しますわ。居ませんでしたの。婚約者達の護衛がいるから不要だと、醜いから嫌だと…わたくしの家の護衛は連れていませんでしたの。お姉様がわたくしに情けをかけてくださらなかったら……わたくしは殺されていたかもしれませんわ」
お嬢さんが泣いた。うあああ、サズドマつけといて良かったぁぁ!ナイス自分!ナイスサズドマ!!
「そうなの!?無事で良かったね!サズドマ、マジででかした!!」
頭をわしわし撫でてやった。
「フシュー!?や、やめてよぉ!とにかく、オジョーサマが騎士団に押しかけてヒメサマにお礼言うって聞かねーから連れてきたわけぇ☆」
「キレた副団長様が目に浮かぶ…」
「あっは、正解ぃ☆」
そうか、キレた副団長様に言われて連れてきたわけね。明日お菓子を持っていこう。少しでもお怒りを緩和しておかねば。あ、シャザル君…お菓子食べ放題は明日でいいかなぁ?
とりあえず私はお嬢さんに向き直った。
「謝罪もお礼も受け入れます。貴女は勇気がある人ね。自分の非を認めて謝罪することは、簡単なようで難しいのですよ」
彼女は私に無視されるかもと思っても、きちんと謝罪とお礼をしに来た。それってなかなかできないと思うんだよね。この世界の女性は、特に。私の世界だって難しいわ。しかも自分に非があればなおさらね。
「ああ…本当に天使様みたいですわ!ありがとうございます!」
「いや、人間だから」
そこは訂正させてほしい。そんなに清らかでもないんで感激しなくてよろしい。こら、拝まないでくれ。
「うむ、セツは天使なのだ」
ケビン、肯定しない!サズドマも頷くな!まぁ、神様に連れてこられたから間違ってもない?いやいや、違うし。私はふつーの人間だよ。ただ、この世界の常識と私の常識…価値観が違うだけだ。
「違うから!そもそも私と貴女じゃ価値観も違うし…貴女達はそうなるよう教育されたんでしょ?」
「………………え?」
「不愉快だったらごめんね。
『家のために家柄のいい男を捕まえろ』
『家に従順であれ』
『美しさを磨け』
『美しい子を産め』
……それがこの国の女への教育でしょ?
『美しく、家柄がいい男を侍らせて、子供をたくさん産む』のが素晴らしい女性なんでしょ?」
「………………」
彼女はしばらく考えて、肯定した。
「そう、ですね………異界の姫様、貴女は正しい、と思います」
「私も貴女に謝罪しなきゃね。貴女は頭スカスカなんかじゃないわ」
むしろ、能力が高いし、頭の回転も速い。彼女は多分ある意味被害者だろう。この国の女が高飛車なのは、環境要因が大きいと考えていた。
「ごめんなさい。私と友人になってくれないかしら?」
「!??」
え?何故泣くの!??嫌なの!?ま、まぁがっつり暴言吐いたしなぁ…
「わ……わたくしで、よければ……喜んで………」
彼女は泣き、震えながらも私の手を握ってくれた。とびきりの美少女の笑顔は泣いて化粧が溶けてても綺麗だった。やはり元がいいからだね!私だったらホラーだよ。
異世界で、女の子の友人を初ゲットしたよ!
まさかのお嬢様、改心。ちょっとわかりにくいかな?彼女視点もそのうち書きます。