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与えられたらお返ししたいんだよ

 お騒がせしちゃったし、お店を出ようかなと思ったら店長さんにひきとめられてしまった。


「ありがとうございました!」


 お店のお兄さんはやはり店長さんだったそうで、助けてもらったお礼にと焼き菓子をしこたまサービスされちゃった私達。しかも食べきれないだろうからとテイクアウト分まで渡そうとする店長さん。


「いや、そういうつもりじゃなく、成りゆきで…」


 流石に申し訳なくて、せめてテイクアウト分は断ろうとした。


「店が潰されたら困ると間に入ってくださいましたよね?僕はたくさんお客様を見ていますから、人を見る目に自信があります。空気を読むのにも長けています。間違っては、いませんよね?」


 店長さん、手強いな!しかも、間違ってはない。


「このお店が気に入ったからですよ。また来ますから、次ちょこっとサービスしてくれるぐらいでいいのですが…」


「姫様、店主は善意なんだ。気になるなら店の宣伝をするとか…ま、まままままた俺とで、でぇとする時にでも立ち寄ればいい」


 おっさんたら、どもるとこがまた可愛い。もう何してても可愛い。私にウットリと見つめられて口元を隠しながらチラチラ私をうかがうのがもう…どうしてくれようか!


「しかし、本当に仲睦まじいですね。この店はよくお試しのお客様がいらっしゃいますが、こんなに仲睦まじいお二人は初めて見ましたよ。しかも初々しくてなんと言いますか…癒されます」


「だなぁ」


「羨ましいけど、なんか邪魔はしたくねーなぁ」


「なんつーか、幸せそうだよなぁ。俺、こんなに幸せそうな女、初めて見たわ。女っていつもキーキーしてる感じだし」


 お客さんも口々に話しかけてきた。


「実際、私は自分の婚約者が大好きだから幸せですよ。満たされてます」


「姫様…!いや、セツ!俺もだ!貴女がいるだけで本当に幸せなんだ!」


 モフモフに強制ダイブしちゃいました。なんというご褒美か!いつの間に狼フェイスになったのかな?素敵なモフ心地にウットリする。


 結局おっさんとまったりお茶をすることに。おっさんがお茶を淹れ直してくれた。ミルクたっぷりお砂糖なし…こっちでは代わりに蜂蜜を入れることが多い。蜂蜜も入れないのが私は好き。おっさんはスプーン2杯入れてた。甘党なおっさん、かわゆす。


「セツ、これはセツの好みなんじゃないか?」


「セツ、うまいか?」


「セツ、もう少し食べやすく切ろうか」


 おっさんは尽くすタイプらしく、尻尾をパタパタしながらせっせと私のお世話をしています。

 私もたまにあーんをしてあげるけど、私に食べさせるのが楽しいみたいだからおっさんの好きにさせた。


「そういえば、逆パターンは無いんですか?」


「逆ですか?」


 店長さんが首をかしげる。


「そうそう、逆。女側が給仕するんです」


「え?」


 明らかに、その発想はなかったという反応をされた。そもそも女が希少なこの世界では、メイドさんも存在しない。男が女に尽くすのが当然の世界なのだ。


「服、借りれます?おっさん、役割交代ね」


「…え?」





 髪をスッキリとまとめ、執事のような服に袖を通す。うむ、完璧。


「お待たせいたしました…旦那様とご主人様なら、どっちがいい?」


「え?だ…だだだだだんなさま…が、いい」


「かしこまりました、旦那様」



 そして、私のターンだ。





「旦那様、紅茶はいかがですか?」


 おっさんが好きな紅茶の銘柄、蜂蜜の量、淹れ方もバッチリ把握している。


「…うまい」


 おっさんは驚いたようだ。


「愛しの旦那様にそのように言っていただけて光栄です。実は私も侍従さん達に頼んで旦那様の好みをリサーチし、おいしい紅茶を楽しんでいただけるように練習したのです」


「……セツ、頼むからそんなに可愛いことを言わないでくれ…せっかくの紅茶なのに味がわからなくなる」


 おっさんがまた真っ赤になっていた。いやいや、おっさんも同じことをしてなかったかな?


「ふふ…では紅茶は後にして…私に酔わせて差し上げましょうか?」


 椅子ドンに顎クイのコンボである。


「あ、アオオオオン!!いろ、色気が凄まじ過ぎる!!アオオオオン!!ててて店主!すまないが走ってくるので姫様をたの「駄目ですよ、旦那様」


 顎クイしたまま目線を合わせれば、おっさんは動けなくなったらしい。そもそも彼は私を振り払うなどできない。


「せ、セツは俺をどうしたいんだ…ぐぬおおお…セツが可愛いし色気が…色気がぁぁ…!」


 おっさんが椅子から倒れた。どうしたいかって?そりゃ…


「デロッデロのメロメロに甘やかして幸せにしたい」


「は?」


「幸せ過ぎて怖いとか忘れちゃうぐらい、毎日幸せでいさせたい」


「あ…」


「私に愛されてるのが当たり前になるぐらい、側にいたい」


「……………………うん」


 真っ赤な丸まじろが出来上がりました。


「旦那様、お慕いしております」


 丸まじろの手を取って、騎士みたいに口づけた。


「ふぬああああああ…おれ、おれも……セツがす…す…す…しゅきだ!」





 噛んだ。肝心なとこ噛んだ。でも、そこが可愛い。






「えへ」


 思わずへらっと笑ってしまった。


「やべえ、あれは天使だ」

「奇跡だな」

「すげえわ…幸せにしたいとか、言われてみてぇわ…」


 んん?いや、種族は人間だよ??


「普通じゃないです?私的には好きならお互い幸せになりたいですし、常に対等でありたい。尽くされた分、尽くしたい。与えられたら返したい。そうやってお互いずっと幸せでいたいんです」


「セツ…その、俺は少しでも君に与えられているのか?」


「たくさん貰ってるよ。出会ってから、今もね」


 私はおっさんに笑いかけた。それは嘘偽りない本心だった。彼は本当に献身的だから、むしろ私が彼に報えているのか不安になるぐらい。我慢も侮蔑も当たり前な彼を幸せにしたい。



「…そうか」


「そうですよ、旦那様。というわけで、今日は私にご奉仕されてくださいね」


「え」


 そして、私はおっさんにご奉仕しつつかまい倒すのでした。

 男装女子ってエロい気がします。何故私の書く主人公は皆男前になるのか…不思議です。

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