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女の戦いなんだよ

 きつめの美少女か放った一言により、おっさんが無表情になった。お店にいた他の獣人達も出ていこうとする。


「あら、このお店にけだものなんていませんわ。おっさん、はいあーん」


「むぐ…セツ…」


「なぁに?おっさんは素敵な狼の獣人さんだわ。けだものではなく紳士だし…優しいわ」


 優しく顎を撫でる。あや?おっさんがウルウルしている。


「この瞳も素敵よ。私の大好きな婚約者さん」


 おっさんは私をそっと抱きしめた。


「…誰に何を言われようと…………に罵られようと、俺は貴女さえいてくれれば幸せだ…!」


 穏やかな気持ちで身を寄せる。おっさん、あたたかい。そして、おっさんが私を見る瞳は優しい。

 私達を見て、なんか感動してる獣人達がいた。なんで??


「ちょっと!聞いてますの!?」


「お客様、こちらへどうぞ。お気に召さないのでしたら個室にご案内いたしますが、いかがですか?」


「何故わたくし達が個室に行くんですの!?けだもの達が出ていけばよいのですわ!!」


 私はチラッと美少女を見たがシカトした。だって、この素敵なおっさんを愛でるので忙しいんだもーん。






「では、お客様。お引き取りくださいませ」





「は?」







「え?」


 お、おにいさぁぁん!?まさかの美少女入店拒否!


「申し訳ありません。当店ではお茶とお菓子と可愛いものを楽しむ場所でございます。他のお客様を不快にさせる方はご入店をお断りいたします」


「わたくしを誰だと思っていますの!?わたくしはラトビア=ルマン!ルマン公爵家の娘ですのよ!こんな店、簡単に潰せますのよ!」


「そうだ!平民の分際で無礼だろう!!」


 美少女の隣にいた影が薄い美形達もわめきだした。お兄さんは一瞬迷ったようだが、キッパリと言った。


「…それでも、僕のお茶とお菓子を楽しんでくださるお客様を追い出そうとする人間はお客様ではありません!」


 お兄さん、カッコいいな!自分の仕事に誇りを持っているんだね。でもこの店は気に入ったから、潰されたら困るなぁ。私はおっさんの膝から下りると美少女に話しかけた。きちんと礼をとる。


「ごきげんよう、お嬢様」


「…なんですの、無礼な!平民風情がこのわたくしに話しかけないでくださいまし!あんな中年の醜いけだもの程度しか侍らせられないだなんて、無様な女だわ!!」


「姫様…すまない…」


 いやいや、おっさんが謝る必要はないでしょう。おっさんは素敵なんですから。


「大丈夫です。頭がおかしい女に何を言われたって、馬鹿だから仕方ないよねって言える程度に心が広いですから」


 私は満面の笑みで返事をした。しん、と場がしずまりかえった。





「…え?」







 流石のおっさんもひきつっている。私の内なる殺気に気がついたようで、耳がピンとしている。流石だね!


「な、なんですって!?頭がおかしい女!?ぶ、無礼な!」


「平民の分際でラトビア様に頭がおかしい女だと!?」


「あら?私はこちらのご令嬢が頭がおかしいとは申しておりませんわよ?心当たりがおありなのかしら。貴方達も大変ね」


 私はクスクスと笑ってやる。私は『誰』とは言ってないもんねー。つうかこんな簡単な引っかけにかかるとか、馬鹿じゃない?


「そ、そんなみすぼらしい身なりでよく外を歩けたものですわね!その程度の服しか用意できないなんて、貧乏な女には貧乏人がお似合いですわ!」


「今回はお忍びですからね。華美な服は邪魔になります。そんなジャラジャラ悪趣味に着飾りたくありませんわ」


 これは私の本心だが、店のお兄さんが首をかしげて発言した。


「あの…その服はレインボーフェザーのオーダーメイドでは?しかも、よく見たらプラチナシルク素材!??」


「…そうだ」


 おっさんが頷く。


「は?」

「え?」


 美少女ととりまきの美形達が呆然としている。


「いやあ、本物を見たのは初めてです」


「そうか。事情があって術式付与ができる裁縫師に依頼する必要があってな。我が姫に着せるから最高級品でと依頼した。彼女は宝石で飾るのを好まないから素材とデザインにこだわったのだ。この美しい漆黒の髪と瞳、真珠の肌に合う服を裁縫師と何日も何日も語り合って完成した逸品だ」


 え!?つまりこの服、とてもお高いの?そして手間暇がとんでもなくかかっている??うわあああ、怖い!値段はいくらなの!?いやいい!聞きたくない!


「い、いや!金持ちだからってそんな醜い男を側に置くなんて、女としての格を下げましてよ!」


「顔なんて皮膚1枚じゃない。皮を剥げば大体みんな同じですよ」


「かかか皮を剥ぐ!?」


「まさかの発想ですねぇ」


 お貴族様達はドン引きしているが、店のお兄さんは苦笑している。おっさんはなんかオロオロしている。かわゆす。


「おっさんは強くて優しくて仲間思いなんです。自分がお腹ペコペコでも、私や仲間に自分のご飯を分けてしまうぐらいなのですよ!しかも頭もいいし…何より素敵なモフモフ!そう、モフモフなのです!!」


「は?」


「おっさんの毛皮はそれはもうフカフカぬくぬくなんですよ!そして最大の魅力は可愛らしさです!!」


「………は?」


「まあ、可愛らしさについては私だけが知ってればよいのですが、特別にちょっとだけ教えてさしあげましょう。屈強な強面系の男性がこんな小娘にちょっと迫られただけで初な少年のように恥じらうそのギャップが素晴らしいのです!ときめくのです!!むしろもうどうしてくれようか、めちゃくちゃに「セツ!頼むから勘弁してくれ!!」


「むが!?」


 おっさんに口を塞がれて強制終了させられました。手をてしてしして解放してもらう。


「つまり、この状態です」


 おっさんはゆでダコに勝てるかもしれないぐらい真っ赤でした。色素が薄いから、ケモミミまで真っ赤になっています。うむ、かわゆす。


「あ、貴女はおかしいですわ!こんな醜いけだものが可愛らしいなどと!」


「頭スッカスカのくせに人の男を貶めてんじゃねーよ!」


 あらいやん、本音がポロリしちゃいました。


「な!?」


「醜い醜いって、逆に見た目だけしか見てないじゃないですか!私はおっさんの外見も内面も愛しています!よろしいですか!私のおっさんは命がけで人を守る人間です!外見だけで人を判断するような頭スッカスカの小娘ごときに貶められていい人ではありません!!」


「だ、誰が頭スッカスカですの!!」


「貴女ですよ、貴女!!よく知りもしないで見た目だけで他人を貶めるなんて、最低です!!」


「な、な…」


 美少女は涙目です。勝ったな!


「ついでにあんたらも最低です!!」


「ぼ、僕らは何も……」


 いきなり矛先を向けられて驚くとりまき達。


「彼女の暴挙を止めもしない!貴方達はなんですか!金魚の糞か!!」


「ぶひゅっ…」


 お兄さん、笑わない。私も笑いたくなるからやめれ。


「彼女の立場が悪くなるとは思わなかったのですか!?家名まで出して、悪評がたちますよ!誰もいさめないなんて、貴方達も完全に同罪です!!貴方達のしたことは、私の国なら犯罪ですよ!!訴えて勝つぞ!!むしろ、この国でも訴えて勝てますからね!」


「へ、平民風情が!」


「そもそも、そこが間違いなんですわ。ヒントはあげましたのに、本当に救いようがない馬鹿ですのね」


「は!?な、なんですって!?」


「私は数少ない貴女の権力が通用しない相手だ、と申し上げておりますのよ」


「ま、まさか……」


「申し遅れましたわ、私は異界から参りましたの。この国では『異界の姫君』と呼ばれておりますわ」


 私は満面の笑み(ただし目は笑ってない)を見せた。さらに魔法で物理的に気温を下げる。


「も、申し訳ありません!」

「わ、私達も彼女のワガママにはうんざりしているんです!」

「そうそう!いくら顔がよくたって、性格が悪いですからね!」


「え!?あ、貴方達…わ、わたくしのことを好きだって…」


「我々が好きなのは貴女の身分ですよ!貴女の巻き添えになるのはごめんです!」


 とりまき達は頷いた。いや、本気で見る目が無かったんだなぁ、彼女。


「う、うわああああああん!!」


 彼女は泣きながら走り去った。しかし、遅いな。


「サズドマー」


「はいよ!いつ気がついたのぉ?」


「いや、さっき金魚の排泄物発言で笑ってたでしょ」


「バレてたぁ☆」


「拐われでもしたら可哀想だからコッソリ送ってあげて」


「お人好しだなぁ…任されたぁ☆」


 サズドマはすぐに走り出した。


「シャザル君、捕縛して」


「は、はいぃ!」


シャザル君により、とりまき達はあっさり捕縛された。


「マーロさーん」


「おや、バレてましたか」


「笑い声でね。この方々をお願いします」


「任されました。ふふふ、異界の姫様のお試しを邪魔するなんて…『異界の姫様と騎士団長の恋を見守る会』会長の私直々にお仕置…調教してさしあげますよ!」


「言い直したらもっと酷い!!」


「姫様…どこまで出来るかわかりませんが、マーロ様を頑張って止めてみせます!」


「シャザル君、お願いね!!」


「さあ部下達!我が家にこのお馬鹿さん達を運んでおくれ!!」


 あっという間に黒い服のマッチョが現れ、とりまき達は運搬された。


「待ってください!僕も行きます!!」


 シャザル君、君だけが頼りです!明日おやつ食べ放題にするからね!!








 さて、静かになったので私はおっさんに駆け寄る。


「勝ったよ、おっさん!」


 ちょっと後味が悪かったが、おっさんの名誉は(多分)守られた!


「その………待ってくれ」


 問い:この可愛いあんちくしょうは、いつから真っ赤な丸まじろとなっていたのでしょうか。


 答え:『人の男』がツボだったらしく、そこからずっとこの状態でした。



 おっさんが通常運転になるまで、かなりの時間を要したのは言うまでもない。


 うーん、すっきりざまぁにはなりませんでしたが、書きたい話だったので満足です。


 蛇足ですが、ラトビアさんは普通の令嬢よりちょっとワガママなお嬢様です。わりとこの世界では一般的な部類の女の子だったりします。

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