お茶がおいしいんだよ
泣きじゃくるおっさんが落ち着くのを待ってから町に戻った。
おっさんは初めての贈り物が気に入ったらしく、私を見る➡ペンダントを見る➡ニコニコするを延々と繰り返している。そして尻尾がちぎれないか心配になるぐらいバタバタバフバフ振りまくっている。喜んでくれて私も嬉しい。
お互いご機嫌で散歩することしばし。
「あ、この店だ。ここでお茶にしよう」
「わぁ、可愛い」
おっさんが連れてきたのは可愛らしいお店だった。とてもメルヘン少女チックなお店で、女子力が低めの私が少し怯むぐらいに可愛らしい。
こういう店、男の人は入りにくいのでは?と思ったが、店内は男性ばかりだった。よく考えたら、この世界には女性が少ないんだった。またしても異世界ギャップである。
「か、可愛い!」
女子力が低めとはいえ、私も女子。愛らしいものは大好きだ。外見はもちろん、内装や小物にいたるまで店には可愛らしいものが溢れている。
「…その、セツが喜んでくれてよかった。この店は焼き菓子がうまいらしい」
「おっさんは来たことないの?」
「え?ああ……予想はついているだろうが、皆が考えてくれたんだ。俺も姫様を喜ばせたくて色々と調べた。この店は女性の評判がいい。その…お試しで来る人間も多いらしい」
つまり、定番のデートスポットなわけか。
「メニューをどうぞ。ちなみにオススメは『お試しセット』です」
お店のお兄さんからメニューを渡された。
「ちなみにお試しセットの内容は?」
「当店自慢の焼き菓子とフルーツ盛り合わせです。お飲み物は紅茶・フルーツジュースになります。二人分を同じ皿に盛りつけてありまして、気になるお相手と食べさせあうもよし、取り分けて気が利くアピールをするもよしです」
つまり、カップル限定メニューなわけね。私はメニューを確認する。どうせならお試しセットがいいなー。おっさんはどうなんだろ。
「………………」
チラッと見たら、おっさんが固まっていた。お店のお兄さんがおっさんに耳打ちする。
「わ、わかった!ひひひ姫様はそれでいいですか?」
「え、うん」
待つことしばし。といってもおっさんと雑談していたらあっという間だ。
「申し訳ありません。準備がございますので、お連れ様をお借りしますね」
「え?はい…」
おっさんが連れていかれた。そして戻ってきた。
おっさんは普段、前髪を下ろしている。赤い瞳が好きじゃないかららしい。しかし、今彼は前髪をあげてうちの侍従さん達みたいな執事的な衣装を着ていた。
ヤバい。これは素晴らしすぎる!!
「?姫様、どうされましたか?」
首をかしげるおっさんが可愛い!いやいや、超カッコいい!!
「おっさん、素敵!!カッコいい!!」
「あ…ありがとうございます」
その照れ顔も素敵!!私は普段と違いかっちりした服を着ているおっさんにうっとりしている。
「お嬢様、どうぞ」
おっさんが焼き菓子を綺麗に切り分け、盛り付けてくれた。紅茶も淹れてくれる。
ここのお試しセットの売りは婚約者が給仕をしてくれることらしい。し、幸せ~!お菓子は美味しいし、おっさんはカッコいいし、幸せ~!
「この紅茶、すごく美味しい…」
「姫様の好みはリサーチ済みだからな。ああ…好いた女性にお茶を淹れる夢まで叶うなんて…俺は幸せ過ぎて死ぬんじゃないだろうか…」
「いや、生きて。もっと幸せにするから生きて」
「…ありがとう、セツ」
おっさんが優しく笑った。本当の名前、そろそろ教えるべきかな…その前にいいかげんおっさんの本名が知りたい。今さら聞けないしどうしたもんかしら。
とりあえず、今は楽しむかな。悶々としててもしかたないし、私は気持ちを切りかえた。
「おっさん、座って!」
いつものように席についたおっさんの膝に乗る。今日は大人だから目線が近いね。
「はい、あーん」
フォークを差し出すと、周囲がどよめいた。あら、なんだか注目されてるらしい。
「…その、姫様……人目が……」
おっさんは周りをチラチラ見ている。騎士団と違い、周囲は赤の他人だから気になるらしい。
「あーん」
無理矢理口元まで持っていったら食べてくれた。
「むぐ…幸せ過ぎて死ぬんじゃないだろうか…どうしよう…セツが可愛すぎる……」
「うふふ、私も幸せだよ」
おっさんにスリスリする。モフモフがなくたっておっさんが大好きだ。
「うらやましい…」
「いいなぁ…」
「あの女の子可愛いなぁ…」
周囲はおっさんに羨望の眼差しを送っていた。
「不思議なものだな…むぐ…」
「何が?これも美味しいよ」
「その…いつも人を羨むばかりだったのだが、今は俺が羨まれている」
「ふふ、そうだね」
しかし、穏やかな時間は破壊されてしまう。
「いつからこの店はケダモノも入れるようになったんですの!?」
甲高いきつめの美少女。この世界で2回目の女性との出会いは、またしても最悪なものでした。
その頃の騎士さん達は、雪花とおっさんがどこ行ったか捜索しておりました。