ご飯は大事なんだよ
「さあ、姫様!たくさん食べてくださいね!」
無茶言うなよ。
お腹はすいているが、騎士さん達との格差が酷すぎて、マイペースだねとよく言われる私でも食べられないよ。
私のは厚切りステーキ。
騎士さん達はジャーキーみたいな干し肉。
私のはふかふかパン。
騎士さん達は超固いパン。
私のは具だくさんスープ
騎士さん達はほぼ具なしスープ。
これは新手の嫌がらせ?
「嫌いなものでもありましたか?」
おっさんが心配そうに寄ってきた。私はおっさんにしがみついて助けを求めた。
「皆さんに私のご飯を分けて!私だけ豪華なご飯は嫌です!!」
「…あ、アオーーン!!」
『アオーーン!!』
は!?おっさん以外も鳴いた…だと!?そして何故泣くんですか!?意味がわからん!
「姫様はツボを連打するよなぁ…ほんとにいいの?」
オレンジ頭が苦笑している。
「うん!平等にお願いします!」
笑顔で皿を出した。量は減ったが、気が楽だ。
「姫様は食べ盛りでしょう?もう少しお食べください」
「これは?」
おっさんが水筒に入っていた具だくさんのスープをくれた。
「昨日夕飯に持っていけと執事に持たされたものです。食べ忘れてまして…ああ、状態保存容器に入ってますからあたたかいですよ」
「なら、はんぶんこしよう」
「ハンブンコ??」
キョトンとするおっさん。半分にスープをわけた。
「はんぶんこ」
「…は…はい…」
いや泣くなよ、おっさん。分けてもらったのは私だからな?あ、このスープおいしい。野菜もよく煮こまれてる。
「団長…」
「よかったですね」
「うう…ええ話や」
皆さんおおげさです。優しいのは自分のスープを分けてくれたおっさんですからね?
「団長、すーぐ他のやつにメシ分けちゃうから、たまにはちゃんと食ってくださいよ。肝心な時に動けないとか勘弁ですからね」
オレンジ頭に注意され、おっさんは苦笑した。
「ぬ…うむ……うまいですね、セツ姫様」
「………そうだね」
不覚にも、おっさんの笑顔が可愛くてときめいた。
「でも、皆さんいつもこんな粗食なんですか?」
「いや、狩りすれば肉は食えるよ!」
元気なお兄さんが答えてくれたが、返事がおかしい気がする。肉は狩るの?買わないの?
「……他は?」
皆さん、目をそらしました。肉以外は食べられないわけ??騎士団貧乏疑惑が浮上したよ。え?何故に??
「…俺が不甲斐ないからなんだ」
おっさんがポツリとこぼした。それはないんじゃない?
『団長のせいじゃない!』
ほら皆様も息ピッタリだよ。
「あー、上が団長をよく思ってなくて、嫌がらせすんだわ。で、不器用だから矢面に立っちゃうし、騎士団予算減らされるしなわけ」
簡潔かつわかりやすい説明だね、オレンジ頭よ。
「おお…酷いね」
「だろ?」
「腹立つよな!ちょっと…だいぶ顔がいいからってよぅ!」
そこからは騎士達による愚痴大会でした。上司が嫌なやつだと大変だね。私はウンウンと頷いて聞いていた。
くう…きゅるる…
そしたら、空気を読まずに腹が鳴った。私のです。恥ずか死ぬ。
「姫様…」
そんな悲壮な顔すんな!皆の方が空腹でしょ!昨日もチョコしか食べてないから仕方ないの!
「姫様、お腹すいたぁ?」
「いやその…仕方ないんですよ、人間だからお腹が鳴る時もあるんです!お腹はすいてますけど……ん?」
「なら、食べるぅ?」
んん?今私は誰と話してた??
そして突然私の手から果物が出てきた。それもたくさん。はぁ!?なんで!?
「お、おっさん!?」
助けを求めたら、おっさんが果物を支えた。いや、そうでなくて!
結局、大量の果物はおっさんの腕からも溢れるほどだった。
「これで、足りるかなぁ?」
目の前に、むちむち丸々と太った可愛らしい男の子がいた。やはり手の平ティンカー○ルサイズである。飛ぶのがきつそうなので手を差し出したら私の手にちょこんと座り、えへっと笑った。
「か、可愛い………妖精…いや、精霊さん?お名前は?なんでたくさん果物をくれたの?」
「えっとぉ、僕はプクプクだよぉ。ピエトロにぃ、言うこと聞かなきゃタプタプの刑だって脅さ………お願いされてぇ、異界の姫様を助けに来たのぉ。お腹が空いてるなんて、大ピンチだよねぇ」
「…うん、そうだね。ありがとう」
とりあえず、ピエトロ君は腹黒らしい。そういやおっさんに全裸で土下座しろとか無茶ぶりかましてたよ!タプタプの刑って、顎とかをタプタプするのか?昔ぽっちゃりだったときにされたが、あれは屈辱だ…ピエトロ君酷い…
でもフォロー頼んでくれた気遣いには感謝するよ!
そして、プクプク君は天然らしいが、助かった。これだけあれば、皆も食べられる。
「あの、この果物を皆にも分けていいかな?」
「いいよぉ、おいしいものは皆で食べるともっとおいしいものねぇ。足りなかったら言ってねぇ」
『うおおおお!!』
男達はむさぼり食った。正直、私とプクプク君は引いた。
「皆、お腹空いてたんだねぇ…かわいそうにぃ…」
騎士達はプクプク君にガチで同情されていた。
「皆…俺が不甲斐ないばかりに…」
おっさんは泣いていた。
「いや、食い意地はってるだけじゃね?」
オレンジ頭は呆れていたが、ちゃっかり果物を確保して食べていた。
「は!姫様、皮を剥きますね」
おっさんは器用にウサギリンゴを作ってくれた。他の果物も剥いてくれる。
「なら、私は食べさせる役ですね」
果物を自分とおっさんの口に入れた。うん、リンゴおいしい。おっさんは慌てて咀嚼する。自分は大丈夫とか言うつもりだろ?そうはいかないよ。
「…ごくん!ひめ…むが!?」
今度は皮を剥かれたブドウです。私も食べたけど、大きくてみずみずしくおいしい。
「…ごくん!ひ…むぐぐ!?」
「はいはい、次ね?」
おっさんは涙目で違うと首を振るが、私は知らないふりをする。
「おっさ…団長さんは剥く係。私は自分と団長さんに食べさせる係です。いやあ、分担っていいですね。それに、団長さんもしっかり食べなきゃいざって時に私を守れませんよね?」
「……………………(こくん)」
おっさんは私に負けた。そこからひたすらにおっさんは果物を剥いて私に食べさせられた。
私はおっさんが可愛く尻尾を振りながらひたすら口を開けて果物を食べるのを見て、キュンキュンしていた。いや待て。相手は筋肉ムキムキなおっさんだ。可愛く見えるとかおかしい…
「きゅうん?」
やべえ、おっさんがマジ可愛い。くれないの?と首を傾げんなよ、可愛いな!
「…おっさん、あーん」
「…きゅう」
嬉しそうなおっさん、マジ可愛いな!!ヤバイな!私の感覚がおかしいよ!でも可愛いよ!!
「…団長…」
「羨ましいようなそうでもないような…」
私は知らなかった。
この世界で獣人が耳や尻尾を出すのは感情的になっている状態で、基本恥ずべきことだってこと。
おっさんはこのとき、私の行動により幸せ過ぎと動揺しすぎで感情が振り切れてしまい、精神的にも獣化していたこと。
そして、いつのまにか団長をうっかりおっさん呼ばわりしたあげく、犬みたく愛でていたのが他の騎士達にどう映るかということを………!おっさんの可愛さに目がくらんで、非常に残念な目を向けられていたのに気がつけなかった!!
ちなみにオレンジ頭は爆笑していた。教えてよ!バカ!
そしておっさん、マジごめん!!
なんだろう…書いてて超楽しいですが、なかなか城に着きませんね………