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買い物は楽しいんだよ

 おっさんからの超ぎこちないキスをいただいてから、しばらく私達はくっついていた。おっさん、手汗がすごい。動悸もすごい。とてもドキドキしてくれているのが嬉しくて、甘えて体をスリスリした。


「あ、あまり可愛いことしないでくれ…」


 残念なことに、目をウルウルさせながら顔を真っ赤にするおっさんの方が私の何倍も可愛いと思った。






 ようやく多少おっさんが落ち着いたらしく、森から移動することになった。


「あー、こっからなら…あの店が近いか」


「あの店?」


「そのペンダントを買った店だ。あまり女性が好むような店ではないが…行くか?」


「うん!」


 道が悪いからとおっさんにお姫様抱っこされている。縦抱っこだと木の枝に頭をぶつけるかもとおっさんは譲らなかった。

 よく考えたら今は人目もないし、ちっちゃくなればとも思って言ったのだが、おっさんから『できるなら、本来の姿の姫様とでぇとがしたい…駄目だろうか』と言われてNOとは言えなかった。無意識爆弾だよ!萌え死ぬよ!キュンキュンしちゃったよ!




「ここだ」


 おっさんが連れてきたお店は…装身具の店というより武器屋だと言われた方がしっくりきそうな武骨なお店だった。


「わあ……」


 正確には装身具と武器防具の店なのだろう。メインは装身具のようだが、武器防具も置いてある。

 しかし武骨な店のイメージとは裏腹に、装身具はどれも繊細で可愛らしい。おっさんがくれたペンダントと揃いの意匠で同じ石のブレスレットがあった。ほ、欲しいけど我慢!


「あ……」


 店内を見ていて『これだ』と思う物があった。盾モチーフのペンダント。石は黒いが光できらめく。そっと石に触れると、仄かに温かい気がした。武骨な男性向けのペンダントだ。


「これ、ください」


 これがいい。これじゃなきゃダメだ。そんな気がした。副団長様に無理を言って前借りした給料を全額出す。


「足りなかったら労働でも…」

「いや、俺が払う」


 おっさんが支払いをしようとする。いやいや、払ったらダメだから!私が買わなきゃ意味がない!


「馬鹿か、お前。坊主、俺はこの嬢ちゃんと話がある。ちっと店出てろ」


「なっ!?」


「悪いようにはしねぇ。嬢ちゃんと話すだけだ」


「…おっさん」


 私はどうしてもこのペンダントが欲しい。おっさんは結局折れてくれた。あれ?店主さんはよく見たら、ゲームによくいるドワーフさんではないだろうか。もじゃもじゃ髭に、小柄で筋肉質だ。


「嬢ちゃん、石を持ってみろ」


「はい」


 ペンダントを渡されて、石に触れた。やはりこのペンダントが…この石がいい。きっとおっさんを護ってくれる…そんな気がする。


「それは、あの坊主にか」


「え!?えと……はい」


 バレバレだったかと、ちょっと慌てた。恥ずかしい。


「…それは坊主から貰ったのか」


 胸元を指さされる。そこにはおっさんからもらったペンダントがある。私は素直に頷いた。


「その石は嬢ちゃんを気に入ったらしい。あんたの大切な相手なら、護ってやると言ってる。坊主が大事か」


「…はい」


「よし、ならその金で売ってやる。坊主が待ってるだろ、行け」


「あの、代金…足りないのでは?」


「石細工に関しちゃ趣味だ。本業は武器防具の方でな。心配せんでもいけ好かない貴族からはガッポリせしめてるから問題ねぇ。俺にしたってせっかく精魂込めて作ってんだ。大事にしてくれそうな人間に売りてぇだろ」


「…ありがとうございます」


 私はペンダントを受け取ろうとしたが、店主さんは思いついたとばかりにペンダントをいじりだした。


「坊主にだったらチェーンをもっと頑丈なやつにしてやるよ。長さももちっとある方がいいだろう。それから…折角だ。あんたと揃いにしてやるよ」


 店主さんはペンダントをいじると、あっという間に私のペンダントとお揃いのデザインにしてくれた。武骨な盾に繊細な蔦模様が入り、とても素敵だ。


「うわあ!ありがとうございます!すごく素敵!」


 子供っぽく跳び跳ねてしまった。いかんいかん。今は大人だ。


「すごいです!綺麗です!魔法みたい!」


 あや?店主さんが無言だ。いかん、テンション上げすぎたか?ドン引きか??

 チラリと確認した店主さんは顔隠していた。耳が真っ赤なので、もしや照れてらっしゃる?


「す、すいません。出来ばえがあまりにも素晴らしくてはしゃぎました…」


「もういい…気に入ったならいい。坊主を喜ばせてやれや」


「はい!」


 しかし、素敵だ。しかもお揃いのペンダント。並べて見るとよくわかる。


「ん?んん??嬢ちゃん、そっち…あんたの石を貸してくれ」


「はい」


 何やら店主さんが驚いている。ペンダントを調べているようだ。


「嬢ちゃん、あんた人間だよな?」


「はい」


「エルフ…いや、ハーフエルフとかでは…」


「ありません。人間です」


「これに魔力を注いだのは…」


「私です」


 店主さんが机に伏した。


「あ、ありえねぇぇぇ!??」


「きゃあ!?」


「何をどうやったらここまでこの石に魔力が貯まる!?あんたは化けもんか!?」


「いや、実は異界から来まして…」



 かくかくしかじか。大まかに説明しました。


「なるほどなぁ…余剰魔力を吸わせるか…いいアイディアだな」


 ついでに石に入ってる魔法を教えたら、納得されました。あ、おっさんのにも今のうちに魔力と魔法を入れとこう。


「いや、見事なもんだ。よし。これも持ってけ…いや、ちょっと待て。これでいいな」


「いいんですか?」


 さっきいいなと思ったブレスレットだ。店主さんはそれに黒い石を嵌め込んでくれた。


「あんたのと坊主のペンダントの加工した欠片が入ってる。大事にしてくれ」


「はい!ありがとうございます!」


「…気が向いたらまぁ、また来いや」


「はい!あ、よかったらこれどうぞ」


 私は店主さんにお菓子を渡した。おっさんと食べる予定のアップルパイだったが、こんなによくしてもらったのだ。甘味が嫌いでも、甘味が貴重なこの世界なら他人にあげれば喜ばれるし、ささやかなお礼にはなるだろう。


 店主さんはアップルパイの匂いを嗅いだりしていたが、丸かじりした。ワイルドだ。


 そして、カッと目を見開いて叫んだ。


「うんめええええ!なんだこれ!うめええええ!!すげええええ!!うんめええええ!!」


 店主さんはアップルパイをあっという間に平らげた。喜んでくれたようでよかった。しかし、こんな強面で甘味好きとか可愛いな。


「また差し入れしますね」


 そう約束して、私はお店を出た。いい買い物をして大満足だ。




 しかし、私は忘れていた。




 最愛のわんこ…じゃなかったおっさんに『待て』いや『待ってて』をしていたということを。

 いや、おっさん!マジごめん!!


 たまに不憫ネタが出るおっさんなのでした。やはり上げて落とすはお約束。


 ちなみにドワーフの店主さんは石細工の天才職人です。石には相性があるので、宝飾として欲しがる貴族が嫌いでかなりふっかけます。逆に大切に使う人間が大好きで、そちらには格安で売っています。

 意外に可愛いものや甘いものが好きだったりします。今後もまた出てくるかもしれません。

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