劇作家さんも大変なんだよ
無事に劇が終わって解散という所で、私達は捕獲されました。
「じゃんじゃん食べてね!んもう、インスピレーション湧きまくりだわぁ!!」
目の前でクネクネしているおっさ…おにーさん?はカマータさん。なんでも劇団の脚本家なんだそうで、劇が終わって解散しようとした私達に話がしたいと交渉し、ちょっと良さげな個室レストランでランチなうである。
おっさんが計画が…とかしんなりしてた。なんかごめんなさい。でも、次に期待といったら復活した。そのチョロいとこも大好きです。
そしてカマータさんとご飯を食べていたのだが、彼はマンネリ化しそうな現状を打破したかったらしい。この騎士団シリーズはかなりご長寿な劇なんだそうで、最近新展開が難しいと悩んでいたそうな。
「かといって曲芸やれとか言われても困るしな」
主役のアレックスさん(本名もアレックスさん)が苦笑した。
「ですよね」
私も同意する。話の流れをぶった切るようなものは逆効果だろう。
「ね、お嬢様は異界の姫様でしょ?何かアドバイスとかないかしら??今日の展開は燃えたわぁぁ!」
「そうですね……」
客が参加するタイプ…今回のように客に呼び掛けて声を出させ、参加させるパターンはもちろん、ランダムでちみっ子数名を選び、騎士たちと一緒に戦うまたはお手伝いするパターン等を話した。
「イイ!それはいただきね!!」
カマータさんはなにやらバリバリと書き出した。
「あとは…恋愛がひどいですよね、こっちの世界って」
「どういうこと?」
「いや、今流行りのラブロマンスを観たんですが控えめにいってもヒロインがクソでした」
『……………………』
男たちは、全員が硬直した。異世界ギャップであろう。
※違います。雪花の発言に硬直しています。
「ときめきもクソもありませんでした。自分の恋人を一人にしぼらずわがまま放題とか、さいってー!あんな胸くそ悪い女になんで言い寄るんですか!?」
「…えと、ナニ観たの?」
「え?ああ『貴方を愛す』といういま流行りのラブロマンスを観たのだが……」
「あれね…イイ話だと思うけど…」
「ヒロインがダメです。アウトです。異世界的に許されません。あれはもうダメです」
私はいかにヒロインが駄目かを語った。それはもう熱心に語った。共感が得られなくともとにかく語った。
「…なるほど。なら、逆に姫様はどんなヒロインがいいのかしら」
「そうですね…」
私は理想のヒロインを語った。テンプレなヒロインだ。清楚可憐で優しく一途。聖女のようなヒロインだ。
※『悪役令嬢になんかなりません』のミルフィリア嬢をイメージしてください。宣伝です。
いやいや、強かで勝ち気な女の子も捨てがたい。ちょっぴりツンデレでギャップ萌えを狙うのだ。
※『悪役令嬢になんかなりません』のロザリンド辺りを想像してください。宣伝です。
『………………………』
男達は、静かに聞いていた。
「そんな女いたら、女神だな」
男達は頷いた。しかし、一人だけ首を振った。おっさんである。おっさんだけは首を振ったのだ。私の理想のヒロインが最高ではないとおっさんは言った。
「いや、姫様以上の女はいない」
おっさんは真顔だった。恐ろしいことに、彼は本気だった。私の世界でも最高ランクであろう2次元の美少女達に勝利してしまった。
私の説明が悪かったのだろうか…
おっさんはいかに私が可愛らしく健気で真面目で謙虚で無欲で働き者かを熱心に語った。出会いから現在にいたるまでのダイジェストをそれはもう幸せそうに語った。
可愛いかはさておき、真面目で働き者なのは日本人の気質だし、健気ではないだろう。無欲なわけではなく、一方的に贈り物をもらうのは嫌なだけだ。わりとわがままだし、好き勝手している。
しかし、私以外はなにやら悶えていた。なんでだ。
「キタキタキタキター!!アタシが求めていたトキメキがキター!!素晴らしいわ!理想的なヒロインだわ!是非是非詳しく!もっと姫様のお話が聞きたいわぁ!」
「む?ああ!姫様は料理も上手で俺にたくさん食べろと作ってくれるし、皆の質素な食事を見て、自分のを分けろ…同じものを食べると涙を流すほど慈悲深いのだ!」
「きゃあん!ステキ!」
尻尾をパタパタしてご機嫌で私の良いところを話すおっさん。恥ずかしい。
「それに…その…自信がなく手を出せない俺に積極的な所もある。俺以外の男から贈り物をすべて断ってくれたり…プレゼントをいつも身につけてくれている」
ああ、気がついてくれてたんだ。普段は服の下だから見えてないはずだけど…なんか嬉しい。
「それに…姫様は俺に笑いかけてくれる。俺は醜い。その俺を厭わず、優しく触れて笑ってくれるんだ」
おっさんが穏やかに笑っている。穏やかで優しい笑顔だった。おっさん、その笑顔は私に見せるべきだよ。
私はおっさんの膝に乗った。
「姫様!?」
「その表情は私に見せるべきです。カマータさんをかまいすぎ!本当は、今日は私とのデート…いいえ、お試しなんだから、私をかまってください!」
膝に乗ったままぐりぐりと体を擦り付ける。おっさんはワタワタしていたが、私をそっと抱くと立ち上がった。
「その……可愛い婚約者が拗ねてしまったので失礼する」
おっさんは頭を下げると私を抱いたままお店を出た。
「その…姫様、すまない。どうすれば許してくれる?姫様の話をするのは楽しくて…すまない」
ほんの少し怯えながらおっさんが聞いてきた。
「…おっさんからキスしてくれたら許します」
「きす?」
「ちゅーです。口ね」
「きす、ちゅー、くち…」
「そう。おっさんから」
「きす、ちゅー、くち、おれからする」
「そうそう」
「き………キスゥゥゥ!?なんっ!?そっ!?アオオオーン!!」
「ね、お願い」
真っ赤なおっさんの唇を指でなぞり、耳に触れた。
「ね?」
ちゅ、と瞼にキスする。すると狼フェイスになってしまった。もふサービスですか?よーしたまには私が耳をカジカジしてやる!
「キャイン!?」
耳を甘噛みしてフッと息を吹きかけた。おっさんの手は私をだっこしているのでガードできない。しかも毛がサラサラ…デートだから櫛ですいてきたんだろうなあ。スリスリしてモフモフを堪能する。
部位によって毛の柔らかさが違う。ちなみに私のお気に入りは首。柔らかくてふかふかなのだ。
「…あ、あんまり悪戯すると食べちゃいますよ」
「……あんまり痛くしないでね?」
いや、食べられるのは(性的なら)やぶさかではない。首をかしげて上目遣いで見た。ちょっぴりあざといかな?
「うおおおお!!消えろ煩悩ぉぉぉ!!無心だ!悟れ!色欲退散!!」
「あ、あわわわわ!?」
おっさんはものすごい勢いで走り続けた。そして、人気のない森に来たらそっとキスしてくれた。
狼フェイスでキスされると、毛がくすぐったいことがわかりました。えへへ。
ちなみにその後新作劇を見に行ったおっさんの感想。
「姫様、尊い………」
おっさんは泣いていました。いい出来だったようです。ちなみにオレンジ頭にバレてからかわれてました。
からかわれるおっさんは可愛いです。