劇って楽しいんだよ
劇は、要するに現代で言うところのヒーローショーだった。悪い魔獣を正義の騎士が倒すというものだ。魔法を特殊効果がわりに使っていて、なかなか見ごたえがあった。
普通に楽しんでいたのだが、私は今非常に緊張している。
「ガハハハハ!人質がいてはお前らも手を出せまい!」
「くっ!卑怯な!」
そう、私は現在囚われの姫君(笑)である。最前列にいた上に、女性だったのが仇になったようだ。
そして……
「グルルル……」
激おこなおっさん。狼フェイスバージョン。
魔獣役の人もおっさんの殺気にビビっていて、ガクブルなのだがどうにか耐えている。素晴らしきプロ根性である。手汗がハンパないのは仕方ない。
しかし、問題はいかにおっさんを刺激せず劇をやりきるかということだ。おっさんが暴れたらアウトだろう。
私はこっそり魔獣役のお兄さんに話しかけた。
「…この後の展開は?」
「…人質を取られて手出しできない騎士達を僕が倒して、主役が颯爽と貴女を助ける予定です」
「…その前におっさんが暴れだす危険があります」
「…はい」
「…なので、私は魔獣さんの僕になって、騎士役を倒します。おっさんは私には手を出せませんから、大丈夫」
言うが早いか、私は魔法で顔に刺青のような模様をつけた。
「魔獣様に逆らうやつは容赦しない!くらえ!騎士ども!!」
見た目派手な魔法を放つ。ちなみに直前で消しているので当たってません。しかしやられ役の騎士様役達はアイコンタクトを理解したらしく、次々やられる演技をしてくれる。
ご協力ありがとうございます。
「姫様…!?」
いきなり攻撃しだした私に焦るおっさん。氷魔法で剣を作っておっさんに斬りかかる。
「姫様!?」
剣道を習ってたから、まあまあ動けます。おっさんにしてみれば私は弱っちいから心配だったけど、おっさんは私に攻撃できないのでなんとかつばぜり合いに持っていけた。そして近距離でおっさんにこっそり話しかける。
「おっさん、これお芝居だからね?とりあえず、私を斬るふりしてね。そしたら、元の流れに戻すから」
「す、すいません。貴女がさらわれたと…思ったら…」
「気持ちは、嬉しい。じゃあよろしく」
「はっ」
「きゃああ!」
おっさんが私を斬るふりをして私はよろめき、顔の刺青もどきを消しつつ正気に戻ったふりをする。
「私は何を…?」
「ガハハハハ!!もはや騎士どもは虫の息!人質も用無しだな!」
そして魔獣役のお兄さんが騎士役にとどめを刺そうとしたら、颯爽とイケメンが私を抱き上げた。
「きゃあ!?」
「人質は返してもらった!さあ、お嬢さん。もう大丈夫だよ」
イケメンに解放されて、おっさんの元に帰還した。台無しにしたお詫びに、サービスしちゃおっかな。
「さあ皆!騎士団のお兄さんを応援しよう!がんばれー、アレックスー!!」
ヒーロー役の名前を手拍子とともに叫ぶ。
『がんばれ、がんばれ、アレックス!』
『がんばれ、がんばれ、アレックス!!』
「まだ声が小さぁい!お兄さんやお父さん達も!!」
『がんばれ、がんばれ、アレックス!!』
そして会場が1つになったところで、私は魔法を使った。その名も『結晶魔法』である。魔力を結晶化させ、ある程度ならば考えた通りのモノを作り出せる。
ヒーロー役の鎧を近衛騎士が着てた儀式用鎧を参考にしたカッコいい鎧に変え、武器も実用度外視なカッコいい大剣にした。
『アレックス!!アレックス!!アレックス!!』
もはや会場は謎の熱気に包まれた。テンションがえらいこっちゃである。私は確実にやり過ぎた。
困り果てておっさんを見ると、おっさんも観客と同じでテンションMAXになっていた。どうしよう。
ま、いいか。
私はもう、いいかと思うことにした。深く考えない。あれだ。考えるな、感じろ的な奴だ。別に害はないし、おっさんが嬉しそうだからいいか。ちょっと盛り上げすぎただけだから、問題なし!
そこからは私が開き直ってそれはもうワルノリした。仲間の騎士達を回復し、魔法で鎧をグレードアップさせ、戦隊モノあるあるな意味不明バズーカ(それぞれの武器をブッ刺してパワーをチャージ的なやつ)で魔獣役さんをブッ飛ばした。ブッ飛ばしたとこはもちろん幻覚です。
おっさんが少年のように頬を染めてキラキラしていたので、とても可愛らしかった。
「今日の劇は今までで最高でした!」
おっさんは尻尾をパタパタさせてご機嫌だ。おっさん、ヒーローとか好きなんだなぁ。そういう少年のようなとこ、キュンキュンしちゃう。
「良かったね」
しかし、本来の劇を台無しにしてしまったがそれでいいのかと思わないでもない。
まあとりあえず、おっさんがご機嫌で可愛いからいいことにする。可愛いおっさんこそが正義です!
ちなみにこの舞台、めちゃくちゃ盛り上がり…伝説の舞台と言われたとか言われなかったとか……雪花さんはやり過ぎたようです。