意外な結果だったよ
問題児の近衛騎士達による奉仕労働。最初こそトラブルが多かった、のだが…
「…姫様、騎士団って…こんなに仕事が大変だったんですね」
「しかも、食事が粗末ですね…量も少ないです」
「備品も酷い…これなんか壊れてるのに無理矢理使ってる…近衛の処分品よりボロボロですよ」
彼らは、良いとこの坊っちゃん達だったためか、根っこは素直であった。騎士団の実状を見て、彼らの任務の過酷さや冷遇について同情してくれた。そんな状況でも頑張る騎士達に、近衛騎士の問題児達は心を打たれたらしい。
彼らは変わった。
懸命に働き、食料を差し入れたり壊れた備品なんかは近衛騎士のお下がりを持ってきてくれたりもした。騎士団の皆はとても喜んだ。彼らを仲間として受け入れた。単純な彼らは、仲間になった近衛騎士達にも優しかった。
騎士団の人間と違い、彼らはきちんと教育を受けた貴族である。私の手伝いだけをさせるのは勿体無い。私は彼らにそう話し、自ら仕事を探すようお願いした。
「違いますよ、この字はこう…そうです!」
「ええと…どうやったら上手く伝わるか考えましょう!」
彼らは武力こそ騎士団に劣るが教育面で非常に優れている。貴族だから社交性もある。勉強嫌いな騎士達に優しく書類の書き方を教えこむなど、書類仕事方面で積極的に働いた。庶務担当の騎士なんかは泣いて喜んだ。
「…思ったより使えますね」
それが副団長様の感想でした。
そして私も彼らが最初はウザかったのだが、算術もできるので手伝ってもらい帳簿を作成した。過去数年分を遡り、わかりやすくグラフ化したのだ。
結果………恐ろしいことが判明してしまった。
「……これは…」
「どうみても…」
「酷い…」
「誰がこんな…」
いや、私の友人達が改善してくれていたが、それでもまだまだ騎士団の予算が大幅に削減されているのがわかったのだ。10年で半額以下まで減らされている。 しかもタチが悪いことに、少しずつ少しずつ削られていたのである。これはなかなか気がつけない。
「…あの、僕近衛の経理…計算してたこと、ありますが…これ…近衛の食費の十分の一以下ですよ…」
思った以上に酷すぎる状況だった。近衛は貴族がほとんどだからいいものを食べてると考えても…ひどい数字である。
「よ、よくこの予算でこの人数を維持してましたね…」
「食費は狩りでまかなっていたからなぁ。周辺の危険な魔物が減る、肉が食える、毛皮や素材を売って野菜を買える。良いことずくめだ」
胸を張るおっさん。近衛騎士と行動を共にしていたら拗ねて、仕事を済ませてからついてくるようになった可愛い私のおっさん…テイクアウトしたい。頼みこんだら添い寝してくんないかな?
私が脳内でお花畑を展開している間に、近衛騎士達は愕然としていた。
「…さ、サバイバル…」
「すげーな、騎士団」
「魔物って食べれたんですね…」
近衛騎士達はドン引きしていた。おっさんは高級食材として扱われるものもあるぞと返事していた。そういう問題じゃないです!と近衛騎士は涙目でした。
後に私は基本魔物=超危険生物であり、食材として見るのはうちの騎士達ぐらいでしょうねと副団長様から聞きました。知らなかった。おっさんのせいで非常識になるとこでした。
「ぼ、僕実家に頼んで圧力かけます!」
「私も!」
「俺も!」
「我が公爵家も全力をもって協力しよう!」
近衛騎士達により、騎士団の予算は戻ってきた。更にその予算は不正に使われていたそうで、頼りになる友人達が不正をした貴族や官僚を暴き、処罰した。
友人代表のマーロさんはいやあ膿が出せて良かったよ、と爽やかに笑っていた。味方でよかったと思ったよ。絶対敵に回したらアカン人だよ!
近衛騎士達は、それはもう騎士達に可愛がられた。彼らもすっかり仲良くなった。しかし、彼らは何故問題児になってしまったのだろうか。
たまたま書類仕事をしながら雑談していた時に、そんな話になった。
「あー、なんかこないだ聞いた話なんで多分ですけどね?」
オレンジ頭が話しだした。
近衛騎士にも色々で、彼らは行き場がなく近衛騎士になった人間なんだそうだ。低位貴族の次男や三男で、高位貴族に虐められていた。近衛騎士は魔力重視の戦い方だから、努力しても差は埋まりにくい。魔力は生来のモノだからだ。
しかしそんな中で異分子だったのがヘルマータだ。奴は苛めを許さなかった。しかし、圧倒的に立ち回りが下手くそだったため、問題児に仕立てあげられた…らしい。なんかわかる気がする。ヘルマータが正しいことをしていても、変人だからで済まされてしまう。日頃の行いって大事だし、高位貴族ほど慎重で隠し事に長けるだろう。
「よし!ちょっと鍛えてくるよ!」
私は近衛騎士達にちょっとしたコツを授けた。魔力が少ないなら、工夫をすればいい。魔力を一点集中させ、応用方法を教えた。
その結果…
「姐さん、おはようございます!」
「姐さん、荷物お持ちします!」
「姐さん、お疲れ様です!」
なんか更になつかれた。解せぬ。
「あ、団長様!おはようございます!」
「団長様!おはようございます!何かありましたらお申し付けください!」
「団長様!おはようございます!今日は訓練に参加されるのですか!?」
おっさんの神業的身体強化を見本にしたら、おっさんは崇められた。近衛騎士から見ても神業的魔法だったらしい。キラッキラしている。
「さ、様?別に俺に畏まる必要はないぞ。普段通りでかまわん。ああ、頼りにしているぞ。お前達のおかげで、今日も訓練に参加できそうだ。ありがとうな」
おっさんは若干怯んだが、優しく近衛騎士達の頭を撫でてやった。近衛騎士達からはキラキラビームが出そうだ。上下もしがらみも関係なく優しいおっさんに、近衛騎士達はそれはもうなついてしまった。
「むー」
おっさんの評価が上がったのは嬉しいが…私も撫でてほしい!かまわれたい!むしろかまえ!私はおっさんに頬を膨らまして不満を表現した。
「姫様??」
「姐さん、撫でてほしいんですよ」
「団長様、姐さんが1番頑張ってるんだから、誉めてあげてください」
「じゃ、お邪魔な我々はこれで!」
よくできた子達である。彼らは走り去った。
「えっと…そうなんです……そうなのか?俺に誉めてほしいのか?」
「誉めてほしい!あとぎゅーしてナデナデして欲しい!」
おっさんは固まった。だめ?ダメなの?
「…それでは俺へのご褒美ではないかと…思うのだが」
「…なら、お互いのご褒美ってことで」
言うが早いか、一瞬でおっさんに抱っこされていた。
「…いつもよく頑張っているな。偉いぞ、セツ」
殺 す 気 か
耳はダメって言ったじゃないか!セクシーボイスによるお褒めの言葉をいただきました!叫ばなかった私を誰か誉めて!
「耳が赤いな…熱い…」
耳をはむはむすんなぁぁぁ!?
「んん…だめ…ひゃんっ」
「「……………………」」
おっさんのせいで変な声が出たじゃないか!私は涙目で耳をおさえている。顔は赤いだろう。
おっさんも固まっている。
「おや?姫様が赤いのは珍しいですね」
副団長様が来たが、説明する気にならない。いや、したくない。
「耳…いきなりは、だめ。苦手、だから…」
「すすすすいません!つい姫様が可愛くておいしそう…ではなく出来心で…!」
「罰として、ぎゅーしてナデナデ!10分!」
そして、睡眠不足もあって私は寝落ちした。そういえば、おっさんの腕の中は究極の癒し空間であることを忘れていた。
気がついたらおっさんの膝の上で……
なんと昼になっていた。
起こしてよ!と言ったら副団長様から『普段頑張ってましたし、疲れが出たのでしょう。今日ぐらいはと許可しました』との優しいお言葉をいただいてしまった。ちょっと泣きそうになった。
それから、おっさんがその分倍働くと言ってしまったらしく…結局普段の3倍の書類を処理していたとオレンジ頭に聞かされた。
私の涙を返せ。
ちゃっかりしている副団長様なのでした。文句を言っても『それはそれですから』とかしれっと言いそうです。