色々語ってみたよ
「さて、では今後も我々が訓練所を使わせていただきます。貴殿方は近衛専用の訓練所を使用してください」
副団長様が大変上機嫌で言いました。ノロノロと撤収していく近衛騎士達。そんな中、変態は動こうとしなかった。
「…だ」
何か呟いたようだが、聞こえなかった。
「ヘルマータ様、行きましょう」
「ヘルマータ様、大丈夫ですか?」
双子騎士は変態を気遣って声をかける。
「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、私はヒーローなんだ!あんな蛇男に負けるはずがない。筋肉団長にだっていつか勝つはずなんだ、諦めなければ、正義は必ず勝つんだ!」
カチンときた。だから、私は変態に話しかけた。
「正義ってなに?」
「え?」
「貴方の信じる正義ってなに?敗北を認めず駄々をこねること?」
私はただまっすぐに変態を見つめて問いかける。
「私の友人を…サズドマを貶めることが貴方の正義なの?」
「……あ、違う!違うんだ!そう、こいつらが無能だから私は負けたんだ!!」
双子騎士達は悲しげに目をそらした。しかし、否定せず項垂れるだけ。
「そっちの近衛騎士達は貴方をフォローしようとしていました。助けようとした仲間まで貶めるなんて、最低です!ヒーローどころか、三下悪役中間管理職以下ですよ!」
「さんしたあくやくちゅーかんかんりしょく……」
変態は呆然としていた。そんなにショックか?
「そうです!それ以下!ですよ!!よろしいですか!?ヒーローというのは……」
私はビシッと指さした。
「うちのおっさんみたいな人を言います!」
「え?」
「フヒッ」
「ああ…」
「確かに」
「そうかも…」
「なるほど」
他の騎士達もわりと肯定的だ。おっさんだけがオロオロしている。
「強く、優しく、仲間を大切にする!それこそが英雄です!!貴方はただの妄想暴走迷惑坊っちゃんです!!」
サズドマよ、痙攣すんな。副団長様、奴が吹き出さないよう見はってくださ…副団長様のほうが声こそ出てないけど爆笑してた!
「………………………」
変態は真面目に話を聞いている。くっ…年末の笑ったらいけない番組並みに辛い!
「自分の行動を省みてごらんなさい!貴方を思って諌め、叱った人にきちんと向き合って来ましたか?ちゃんと話を聞きましたか?」
「………………………」
「妬んでいるんだとか思いこんで、きちんと聞かなかったのではないですか?」
「……………………」
「もう一度、きちんと考えてから聞かせてください。貴方の正義と、ヒーローについて」
「……わかり、ました。申し訳ありませんでした。敗北は敗北…潔く去ります」
変態ことヘルマータは素直に頭を下げて去っていこうとした。もう笑ってもいいだろうか。
「なんの騒ぎだ!?」
近衛騎士団長さんがやってきた。ナイスミドルなおじ様である。まだ笑ったらダメらしい。
「団長…すいませんでした。今回の騒動は私の責任です」
「え?」
「ヘルマータ様!?」
変態が率先して頭を下げた。予想外の行動に、全員が固まる。
「近衛騎士団長…いや、叔父上!今まですいませんでした!叔父上は私を思いやって話をしてくださったのに、私は話を聞かず…!」
「イシュト君、何があったの?うちの甥っ子が超気持ち悪い!!」
ちょっと!近衛騎士団長様、本音がポロリしてますよ!
「ぶひゅ!?ぐふ………はあ、実は……」
かくかくしかじか。副団長様が吹き出すのを堪えつつ近衛騎士団長さんに説明しました。
「なるほど…というか、お前ら!何故近衛専用の訓練所じゃなくこっちを使うんだ!迷惑だろうが!」
近衛騎士達に拳骨が飛んだ。あれは痛そうだ…
「すいません!」
「実は……」
近衛騎士団長は近衛騎士の一部が騎士団の訓練所を使っていることを知らなかった。サボっていると思っていたそうだ。
そして騎士団の訓練所を使うと言い出したのはやはり変態だった。なんでも始まりは秘密特訓をして先輩達を驚かせようと思ったらしい。心がけはいいが、それで騎士団の訓練所を横取りするなど大変迷惑な話である。
「誠に申し訳ありません。私の管理不行き届きが原因です」
近衛騎士団長さんは至極まともであるらしく、頭を下げた。
「叔父上!?」
「近衛騎士団長と呼びなさい。騎士団に迷惑をかけた罰については後で伝える。お前もきちんと謝罪しなさい!」
「…申し訳、ありませんでした」
「わ、我々もヘルマータ様を諌めることをしなかった!同罪です!」
『申し訳ありませんでした!』
近衛騎士達は素直に頭を下げた。変態は迷惑だが、それなりに人望があったようだ。
綺麗にまとまりそうだが、私には納得いかない事がある。
「双子の騎士さん達、是非貴方達に修正してほしいことがあるの」
「「はい」」
「獣臭い、庶民臭い連中が使った所など本来なら使いたくないのですが、仕方なく使って差し上げますよ…でしたかしら?」
私は副団長様に負けず劣らずなイイ笑顔をしているに違いない。
「他の方々もですわ。否定もなさらずにいましたわよね」
近衛騎士達は黙って下を向いた。
「この、バカタレどもがぁぁ!!」
またしても近衛騎士団長さんの鉄拳制裁が炸裂したのでした。
「皆様、へんた…ヘルマータ様には英雄の在り方について問いましたが、皆様には騎士としての在り方を問います。他者を見下し、貶める事は少なからず己も貶める事です。貴方達の心は、本当に騎士なのでしょうか。ただ暴力を振るうなら、酔っぱらいと変わりません。何を信じ、何のために戦い、何を護るのか…是非次に会うときに教えてくださいませ」
「姫様の御言葉、胸にしみました。我らの今の状態では、言い訳にしかなりますまい。鍛え直してから、またその御言葉に答えさせたいと思います」
近衛の騎士団長さんは本当に非常~にまともであるらしい。騒動を起こした私を責めず、静かに謝罪して去っていきました。いや、本当にいい人でした。
でもさ?
「姫様!仕事はありませんか!?」
「姫様!荷運び手伝ってきました!」
「姫様!我々が持ちますよ!」
「う、うるさぁぁぁい!!」
だからって、私の仕事手伝いとかいらないから!
「仕方ないでしょう、姫様以外と組ますとトラブルになるんですから。しっかりせんの……調教してください」
「副団長様、言い直した意味がないですよ!?」
「とにかく、仕方ないでしょう!」
1ヶ月、罰として騎士団へ奉仕労働に出された近衛騎士達。どうなることやら…頭が痛いなぁ…
笑っちゃいけない年末の番組、大好きです。ちなみに笑いすぎて翌日腹が筋肉痛になり、自分の腹筋のなさに絶望しました。