戦ってみたよ
訓練所の中央に3人ずつ並ぶ。
実はその前に『やっぱり俺が出る!』とおっさんが暴れかけた。なので『頑張ってくるから応援してね、ダーリン!』とチューしたら動かなくなった。おっさん、チョロくないか?おっさんはその隙に副団長2人から簀巻にされていた。
ルールはチーム戦のため、先に全員戦闘不能になったチームが負け。武器・魔法使用可。私たちが勝ったら訓練所は今後騎士団が使う。私たちが負けたら、私が近衛騎士団で働く。負けるつもりなんかないけど、一応ね。
さあ、目の前の敵を…倒すよ!
「試合、開始!!」
開始の合図と共に2人がシャザル君を狙ってきた。しかし、私が結界で攻撃を弾く。
「ふふん、お見通しだよ!」
ぶっちゃけ動体視力と発動タイミングには自信がある!なにせ、ネトゲRPG支援特化でしたから!アクションは苦手だけど、支援・回復・アイテムサポートでは活躍してたからね!
「おお、姫様スゲー」
サズドマは変態の攻撃をさばきつつへらっと笑った。
「衝撃波!」
「うわ!?」
「うお!?」
近衛騎士2人を吹っ飛ばした。さあ、ここからだよ!
「威力倍化!加速!防御膜!」
「「!?」」
赤、緑、青の光がサズドマとシャザル君を包んだ。
「のわぁ!?」
「…あれぇ?」
「うわああああああ!!」
サズドマの一撃が変態を吹っ飛ばした。本人はさほど力を入れてなかったし、しかも加速してるから思ったより速かったのだろう。首をかしげている。
「サズドマ、魔法で身体能力強化したから今のうちに殺ーっておしまい!」
私は首を切るジェスチャーをした。
「殺ってきまぁす!」
サズドマはニヤッと笑った。
「殺ったら駄目だから!」
シャザル君がツッコミをした。だからノリだってば。多分本当には殺らないよ。
「うわ、おもしれ~!オレちょ~速ぇ!!」
サズドマはすごいスピードで変態に迫り、ボコボコにしていく。こないだの逆だ。サズドマが速すぎて変態も対応しきれないようだ。余裕がないから魔法も使えない。
「「ヘルマータ様!」」
どうやら近衛騎士二人は双子らしく、揃って変態のカバーをしようとした。
「そうは問屋が卸さない!シャザル君!そして、カモン!力強き地の鳥よ!」
「はい!ここは通さな…うわあああ!?」
「コケコッコ~イ!!」
ノリで召喚したが、ダチョウさんである。しかし、私が喚ぶ鳥は何故みんなコケコッコ~イと言うのか…謎である。
「コケコッコ~イ!」
「「うわああああああ!?」」
ダチョウさんは近衛騎士の片割れをつつきだした。あっちはいやみを言ってた方だな!でかした、ダチョウさん!
「コケコッコ~イ!コケコッコ~イ!!」
どうやら私の思念を読み取ったらしく、ダチョウさんはテンションをあげていやみ騎士をつつきまくる。仕上げに蹴りをかました。いやみ騎士はぐったりしている。気絶したらしい。
「コケコッコ~イ!!」
勝利の雄叫びをあげて消えていくダチョウさんに、私は惜しみ無い拍手をした。よくやったよ、ダチョウさん!
「ぼ、僕も負けてられない!」
シャザル君は懸命に双子の片割れを攻撃する。身体強化こみで互角らしい。本来なら相手が上か。しかもまだ余裕があるようだ。
「氷の…「させない!魔封じ!」
「うあ!?」
相手の動きが急に悪くなった。どうやら身体強化をしていたが、そちらも使用不能になったらしい。
「しかし、そろそろ…」
私がかけた身体強化が切れるが、支援特化がそこを見逃すはずはない!
「威力倍化!加速!防御膜!」
「ぐううっ!?くそっ!」
私の方が厄介と考えて、投擲武器を使ってきた。
「させるかよ!」
サズドマが投擲武器を投げナイフで弾いてくれた。
「姫様に何するんですか!」
なんとシャザル君は剣をぶん投げて近衛騎士の腹に一撃いれた。
「ぐは!?」
さらに、踵落としをきめる。
「シャザル君…素手の方が強い?」
「いやその…………はい。お恥ずかしながら剣は苦手で……」
「なら、ナックルと脛当とかは?」
「はい?」
私が体術向けの武具について話したら、シャザル君はキラキラしてました。この世界には剣、弓、槍辺りが有名な武器らしいですが、それ以外はかなり珍しいそうな。
「ヒメサマ、魔法もういいや!コイツとはサシでやりたいからぁ!」
「了解…でも、きっちり勝ちなさいよ?」
「とぉぜぇん!」
「ぐっ!調子に乗るなよ!?」
サズドマの強化が解ければ二人は互角…いや、サズドマがダメージを与えていたから変態が不利だね。
「凍てつく冷気よ!我が手に!」
「うわ!」
結界を展開して私とシャザル君、のびてる双子騎士を保護した。
「へっ、そんなバカのひとつ覚え、効かねぇんだよぉ!」
サズドマはまったく動きを鈍らせず、変態をしとめた。
「そこまで!騎士団の勝利!!」
「やったあ!よくやった、サズドマ!!」
「ヒャハハハハ!ヒメサマのおかげぇ!」
サズドマは私の脇に手を入れて高い高いをしつつクルクル回った。
「どういうこと?」
「ヒメサマにぃ、魔法教えてもらったわけ。結界とぉ、常温な。まぁ、まだ実践投入できるレベルじゃねぇけど。アレが弱ってたから使えたよーなもんだしぃ?」
「そっか」
シャザル君とサズドマ、私でハイタッチした。
「よくやりましたね!」
「うあ、副団長サマ…イイ笑顔してんなぁ…」
「だね…」
うさんくさいぐらい爽やかな笑顔です。これは相当近衛にイラついていたに違いない。
「おっさん、勝ったよ!」
誉めて誉めてとおっさんにじゃれつく私。おっさんは私の頭を撫でながら、しゃがみこんで目を合わせた。
「…よく頑張ったな、セツ」
「ぴ、ぴゃあああああああ!?」
耳元で低音セクシーボイスいただきましたぁぁ!しかも、視線が優しくてむちゃくちゃときめくぅぅ!!
「姫様!?すいません!気持ち悪かったですか!?悪気はなくて…」
オロオロするおっさん。耳をおさえて動けない私。
「いや、その…おっさんや…あのね?私んとことこっちの美醜の感覚、ちょっと違うのよ。おっさん、美形の部類なのよ。耳元でセクシーボイスはやめて…かっこよすぎて胸が苦しくなる……しかし、ごちそうさまでした…!」
私はなんとか伝えた。嫌ではないと伝えた。そうしないとおっさんがまたネガティブモードになってしまうからだ。おっさんは固まっている。
「ちなみに、オレはぁ?」
「…見た目は美形の部類だけど、性癖はやっぱ一般的じゃないね」
「マジかぁ」
ゲラゲラ笑うサズドマを見ていたらようやく落ち着いてきた。そしたら、おっさんが叫びだした。
「あ、アオオオオン!?夢!?夢か!?姫様を俺がドキドキさせただとぉぉ!?」
「おっさぁぁん!?」
事実だが、宣伝すんなぁぁ!?おっさんはまた走り去ってしまった。
おっさんは戻ってきてもチラチラソワソワしていて、やっぱおっさん可愛いわと私がすっかり落ち着いたのは内緒にしとこうと思う。
不意討ちは卑怯だよ、うん。いきなり呼びすても卑怯だよ、うん。耳元でささやくのも、セクシーボイスも卑怯だよ…………嘘です!落ち着かないわぁぁ!!
珍しく私が悶える羽目になりました。
実はかなり戦えた雪花。ちなみに支援魔法を他人にかけるのは非常に難しいのです。自己強化は自分の魔力なので問題ないけど、他人の魔力による身体強化は拒絶反応が出る場合もあり、しないのが普通です。