大変なことになっていたよ
ようやく帰宅した我が家。しかし、何やら様子がおかしい。
「ママ!待ってた!おかえりなさい助けて!!ワタシの、ワタシのシロウが取られちゃう!!」
帰宅するなり私に抱きついてわんわん泣きわめく雪那。何事!?シロウ君に何が!?
「何の話だ!?」
「え?」
玄関に来たものの困惑するシロウ君、私に抱きついたまま困惑する雪那、やっぱり困惑する私。
「……何か、甘い匂いがするな。この匂いは……」
「……フシュッ」
「いい匂いだね」
ケビンは眉を寄せながら匂いを嗅いでいる。サズドマは顔面が鱗まみれになり、シャザル君はうっとりしている。
「なんで平気なの!?」
「だから何が??」
半ばキレたような雪那と、首を傾げるシロウ君。
「鼻が詰まってるの!?」
「いや??」
どうにも噛み合わない二人。とりあえず大変珍しい事にパニックを起こしている雪那をよしよしした。
「雪那はママに何をしてほしいのかな?」
「深雪を止めて!!大変なの!フェロモンがダダ漏れで、普通獣人はともかく人間はメロメロにできないはずなのにいっぱいメロメロなの!深雪が女王様になっちゃううううう!!」
「え」
なんじゃそら!!?
「わんわん!おかえりー!」
そして、このタイミングでまったく空気を読まずに雪斗が駆け寄ってきた。大歓迎は嬉しいが、私の理解が追いつかないよ。とりあえず愛息子もよしよしする。
「なるほど、これは深雪の仕業か。恐らくだが、これは純粋なフェロモンではなく魔法に近い。もしや、これは深雪が女神に貰った力なのでは?」
「そうなの!流石はパパ!天才!!……あれ?でもなんでシロウやパパには効かないの!?雪斗はまだ子供だから効かないのはわかるけど……」
「ふむ……雪那は知らなかったか?獣人はつがいを定めると、フェロモンが効かなくなる。つまり、シロウは」
「ぎゃああああああああ!!!」
シロウ君が必死でケビンの口を塞いだが、察した。なるほど!!
「シロウ!よかったあ!!」
「……そうかよ」
雪那も納得したらしく、シロウくんに抱きついた。うむ、お似合いだわ。このまま和んでいたいが、そうもいかないだろう。なぜなら、サズドマとシャザル君がメロメロになりかかっているからだ。
本来なら私があげたアミュレットで防げるはずなのだが、悪意のない魔法だからか効いてしまっている。
「正気にお戻り」
「フシュッ!?」
「痛い……あれ?姫様??」
結界だけでは効果がなかったので往復ビンタをしたら正気に戻ってくれた。
「二人はヤバそうだから待機で」
「そうは〜いかないの〜。だってみゆ、サズドマもシャザルお兄ちゃんも好きだもの〜」
「みゆ………き……さん??」
そこには、変わり果てた深雪??がいた。とりあえず、胸部を確認する。やばい、娘は母を超えた。
「何にショックを受けてるのよ、ママ!今そこはどうでもいいでしょ!?」
「あはは……」
深雪さんは黒のボンテージ風ドレスに身を包んでおり、女王様っぽい。カダルさんやマーロさん、じい達まで従えており、マジで女王様っぽい。そしてボインボインである。
「あれ〜?なんでサズドマとシャザルお兄ちゃんには効かないの〜?」
口調だけは相変わらず。仕草も深雪そのままで可愛らしい。
「こら、深雪!人を勝手に操ってはいけません!!」
とりあえず説得を試みた。
「なんで?みゆ、役に立つよ??この力があれば、もっと簡単にママのやりたいことできるよ?」
「え?」
「みゆはゆきみたいに強くも、せつみたいに賢くもないけど、ママの望みを叶えてあげられるよ?」
何が悪かったのだろうか。でも、これだけは言える。私が悪い。
「……ママ?え?なんで泣くの??」
「……だって……ママは別にそんなの望んでない。子供のこと、役に立つとか思ってない。ただ……雪斗も雪那も深雪もなんにもできなくたって好きだし。幸せでいてくれたらそれでいいのに……娘にそんな事を思わせるなんて母失格よおおおおお!!!」
メンタル強めの私だが、流石に折れた。無理無理もう無理。号泣である。
「ママ!?」
「ちょ!?ママ!??」
「きゅうん!?」
「いや、私も父失格だ……」
「団長まで落ち込んだら誰が解決するんですか!?」
「これ、どぉすんだよォ!??」
ケビンも膝をついた。大混乱である!
「な、なんで!?なんでママは喜ばないの!?」
「深雪、そもそも前提が違うのよ」
「ぜんてー?」
「ママはね、私達が未来で幸せになるために働いてるの」
「……え?」
流石は雪那たん。よくおわかりである。
「それに、ママは役に立つからってワタシと雪斗を優遇してた?してないでしょうが。むしろアンタのほうが甘え上手だからベタベタしてた記憶があるわよ」
「………え……うん……そう……かも??」
「……ママはいつでもウェルカムですので、雪那も遠慮なく甘えに来たらいいと思うの」
「今はそういうのいいから!!」
「はい」
叱られてしまった。うちの雪那たんはツンデレです。
「え……みゆ……まちがえた?」
「「スキあり!!」」
ピヨ魔王とカモノ魔王が深雪から黒い塊を引っこ抜いて食べた!?
「何食った!?ウチの娘に何すんの!!」
即座にピヨ魔王達をひっ捕らえて叫んだ。慌てて弁解するピヨ魔王達。
「あ、主!見てくれ!」
「そうだぞ、我々は助けただけだ!」
「……ほえ?」
そこには、我が家の可愛い深雪がいた。ボインボインでもなく、最後に見た姿のままの可愛い娘である。
「深雪いいいいいいい!!無事なの!?痛いとこはない!?大丈夫息はしてる!よかったあああああ!!」
全身チェックしたが問題なさそうだ。深雪はボンヤリしてされるがままである。
「だから言ったじゃない。バカね」
雪那がそう言って笑った。ありがとう、雪那たん。深雪が元に戻ってよかった。後で良く話し合おう!!とりあえず我が子全員を抱きしめて泣きじゃくった。
あのね、子供は幸せに笑ってたらそれでいいんだよおおおお!!もおおおおお!!!
割とメンタル強めの雪花さんですが、ひどい誤解で心折れました。
彼女にしては珍しい反応ですね……。