おっさんが鳴いたよ
全裸で土下座したおっさんは服を着てくれたが、私は穴から出たくない。ぱんつはずり落ちそうだし、ワイシャツ1枚で靴もない姿で成人男性の前に出たくないのだ。
それにしてもさっき走ったから、地味に足裏も痛い。
今はとりあえず、チラチラと穴から様子を窺っている状況だ。
「姫様~、アメあげるからでておいで~」
「それはもういいです」
見た目は子供でも中身は立派な大人ですから、飴で釣られたりはしません。
「団長がゴツくて怖いから、姫様はでたくないんだよ!」
いや、今は別に怖くないよ?可愛い声はどこから………!!?
妖精さん!?妖精さんですか??かわいい!!
「え?えへへ…僕かわいい?」
「うん!超可愛い!」
可愛い声の正体は、手のひらサイズのティンカーベルみたいな男の子の妖精さん。ぽっちゃりしていて非常に愛嬌がある。
「えへへ、嬉しいなぁ。僕はピエトロ。姫様の精霊だよ」
「へー」
精霊なんだー、へー。私のってどういう意味なんだろ…
「神様がね、異界の姫様が困らないように精霊に護らせるんだよ。だから僕は姫様の精霊なの。姫様はちょっと…だいぶ着地点がずれたから僕とはぐれちゃったんだよ」
「へー、つまり私が死にかけたのは神様のせい?でっかい猿の化け物に追っかけられてなんとか逃げ切ったんだよね」
「姫様、お怪我は大丈夫なのですか!?」
「ヒッ!?」
いきなりおっさんが近づいたらしく、至近距離で聞こえるでかい声にビビってしまった。
「もー!団長のせいで姫様が怖がってるよ!」
「……………すまん」
あ、耳と尻尾がしんなりした。謝んなくていいから触らせてくんないかな…
「ん?団長、姫様はあんたの耳と尻尾を触りたいみたいだよ」
「「は?」」
「え!?」
さっきから気になってたけど、ピエトロ君は私の思考にも返事してないか!?
「うん。今は同調してるからね。嫌なら心の声を聞かないこともできるよ」
「そう…できたらやめて」
「わかった~」
「ひ、姫様…ど、どどどどうぞ」
おっさんは私が触りやすいようによつん這いになってくれた。身長差もすごいからなぁ…おっさん、2メートルぐらいあるんじゃないか?羞恥心よりも触ってみたいという欲望が勝ってしまい、ゆっくり近づいておっさんを観察する。
おっさん筋肉ムキムキのゴリマッチョだけど美人だなぁ。彫りが深いし…あれ?オッドアイなのか。綺麗な銀髪に青と赤の瞳。赤い瞳は紅玉みたいに綺麗だが、髪で隠れている。鎧も騎士みたいでカッコいい。
そっと耳に触れて、尻尾も触ってみた。
耳も尻尾もふさふさ…だが、ちょっとパサついていていまいち。ブラシをかけたいなぁ…
「団長、姫様は不満みたいだよ!もっとフサフサになりなよ!サービスしなよ!」
「む!?うむ………」
おっさんはさらにフッサフサになった。顔は狼に。手足は人間だが………肉球があった。
「手も触っていい?」
「はい?どどどどうぞ!」
「ふにふに~」
ヤバい。癒される!超気持ちいい。このまま肉球ふにふにし続けたい!
「ひ、姫様…怖くないですか?」
「何が?」
肉球に夢中になりながらも、とりあえず返事をした。肉球~、ふにふに~。
「その…醜い、ですし…でかくて…怖いでしょう……俺が」
「はい?」
おっさんが怖かったら、こんな呑気に肉球フニらないでしょうよ。むしろ、怖がっているのは……
「怖くないよ」
怖がっているのはおっさんだ。耳もしょんぼり。尻尾は股に挟まってプルプルしてる。
「大きな声にびっくりしたけど…まあ、最初は怖い人かなと思ったけど…今は平気。あと、醜いとは思わない。美人な狼さんだと……「アオーーン!!」
「へ?」
おっさんが鳴いた。いや、泣いた?おっさんは泣きながら森の奥に消えていった。
「おっさぁぁぁん!?」
「「団長が鳴いた」」
いや、見たらわかるがな!何!?何なの!?何がお気にめさなかったの!?私、泣かしたの!?
カムバック!おっさぁぁん!!追いかけようとしたが、そのうち戻るからと止められた。
おっさんはしばらくしたら戻ってきた。
「すいません、姫様。いかなる罰でも受けます!」
謝罪しながらもめっちゃ尻尾がパタパタしてたので、私がおっさんを傷つけたわけではないようだ。
「別に、怒ってません。貴方を傷つけたわけではないようでホッとしました「アオーーン!!」
「えええ!?」
「「団長が鳴いた」」
それはもういいわ!おっさんは情緒不安定なんだろうか…また森の奥に消えていった。
カムバック!おっさぁぁん!!
「あの…おっさ…団長さん?はなんであんなに過剰反応するんですか?」
オレンジ頭に聞いてみた。
「ああ、団長は不憫団長とかアダ名がついちゃうぐらいに毛虫並み…いや、女性からある意味毛虫以下の扱いされてまして…姫様が優しすぎるから嬉しすぎて泣いちゃうんですよ、多分」
「…………………」
あくまでも、私は優しくなんてしていない。普通にしていただけだ。なんかおっさんが可哀相になってきたので、せめて私だけでもおっさんに優しくしてあげよう、と思いました。