隙あらばバナナなんだよ
ケビンによる私への美化されまくった賛辞を聞くというある意味羞恥プレイを受けていたら、ひよこの元魔王……略してピヨ魔王が騒ぎだした。
「あそこだ!あそこに魔王がいる!」
ピヨ魔王が刺す方向には、池があり、ワニがいた。今度の魔王はワニらしい。トゲトゲしいワニ。池の中に入られちゃうと厄介……いや、バナナは雷を発するから……イケるかもしれない。
「我コソハ魔王、ガチデツヨインダドン!!」
魔王はツヨインダドン必須なのだろうか。発声器官の問題なのか、なにか言っているが聞き取りにくい。そして、大口を開けて喋っているので、ダメ元で試してみたくなった。
「てや」
大口を開けたワニ魔王のお口に、バナナがホールインワン。
「アギャキャーワン!??」
ワニ魔王が泡を吹いて倒れた。このバナナ、絶対に劇物だと思う。ちなみにピエトロ君と私は触れるだけでなく食べられるらしい。好奇心で少しだけかじったが、バナナ味の弾けるキャンディーみたいだった。炭酸もあまり得意ではないので、ちょっと苦手。
そんな感じで現実逃避していたら、ワニ魔王が襲いかかってきた。
「遅い!!」
しかし頼りになる旦那様が一刀両断したため、ワニ魔王は私達にかすり傷一つ負わすことなく敗北した。
「きゃー!ケビンカッコいい!!守ってくれてありがとう!!」
ワニ魔王はバナナに耐えきったが流石に一刀両断されてはどうにもならないらしく、黒くなって崩れている。それより何より一瞬で私の前に現れてワニ魔王を一刀両断したケビンが素敵すぎる!抱きついてモフモフしながらたくさんキスをすると、途端に真っ赤になって慌てだした。カッコ可愛いあんちくしょうである。
「ちょっ!雪花!?アフゥン!そこはダメだ!」
耳を甘噛みしたら叱られた。性感帯の一種らしい。そういえば、やると気持ち良さそうだったね。
「そうだね!ケビンのエロチックな声は閨限定!私だけが聞くべきだものね!」
「アフゥン!?なななななな!?」
そんな感じでケビンを堪能していたら、サズドマとシャザル君が視界に入った。二人は控えめに言ってもドン引きしていた。
「「うわぁ……」」
しばらく二人は茫然としていたが、サズドマが油切れをおこしたゼンマイ仕掛けのオモチャみたいにぎこちなく動いてこちらを見た。
「ヒメサマさぁ、あれはナイわ」
「はい?」
何についてだろうか。心当たりがない。
「一応さぁ、相手が話してたら最後まで聞いてやれよ」
「サズドマに指摘されるなんて……!サズドマ、成長したわね!」
「フシュッ!?ババババカにすんなよ!」
なんだかサズドマをからかうのが楽しい今日この頃。バカにはしてないけれど、非常識の塊みたいただったサズドマが丸くなったなぁと実感………ん?
「サズドマ、太った?」
「シャア!!」
「太りましたよ」
威嚇するサズドマと、あっさり教えてくれるシャザル君。正確には元々ガリガリだったのがややふっくらして筋肉がついたような感じなのだが……サズドマをからかいたくてあえて嫌な言い回しにしてみた。
「太ってねぇし!筋肉が!ついたんだよォ!キンニク!!」
「本当に?姫様のスイーツ、食べ過ぎたからじゃない?」
「…………ち、ちげぇし!太ってねぇ!!」
それはあるかもしれない。たまにサズドマはおやつを着服していたらしいので、筋肉もついたが太ったのかも。
「てや」
「フシャ!?」
脇腹を揉んでみたら、わずかにむにっとした。
「……サズドマ、太ったね」
「フシャアアアアアアアアアアあ!!」
サズドマは走り去った。どこ行くのよ。
「まあ、冗談はさておき相手が話しているときは一応最後まで聞いてあげましょうよ」
「いや、私は全員の安全が最優先だからそれは聞けないかな。相手が油断しているうちに倒せるなら、それが一番だし」
「流石は雪花だな。戦場においては、一瞬の気の緩みが生死を左右する。シャザル、これは試合ではなく戦争だ。魔王と人類の存亡をかけた戦いなのだ」
そんな壮大な話だっただろうか。魔王がこちらを下に見ていたのは間違いない。そのために勝てたのだ。
「流石は姫様……!すいません、僕の考えが足りませんでした!」
「え?いや、まあ、うん」
シャザル君から土下座されたが、正直そんなに深く考えていなかったので気にしないでいただきたいと思った。
追伸・サズドマは暫くしたら脱皮して帰ってきた。私が揉んだのは贅肉ではなく皮だったと必死に主張していた。脱皮したての肌はモチモチで、私も脱皮したいと思った。
ちなみに、サズドマは筋肉もつきましたが贅肉もつきました。原因は気に食わない騎士団員やシャザルくんのおやつ横取り事件、ちょいちょい雪花におやつをもらっているからです。
また、騎士団へまともに予算が回るようになり食生活も改善したこともあるでしょう。
摘んだのはお腹の肉です(笑)