旅立ちしたら帰りたくなったよ
城から一時帰宅し、家族に事情を説明してまた外出することになった。
「次から次へと……今度何かあったら、お祖母様にお願いして女神を丸刈りにしてやるわ」
「丸刈りー?」
「雪那ちゃん、なまぬるいわー。全身永久脱毛にしよう」
うちの可愛い娘達がお怒りです。雪斗は多分天然。いや、別に今回はウッカリ女神のせいじゃないのでは?タイミングが悪すぎたのは私としても申し訳ない。私だって本当は家で家族とゆっくりしたい。家族だんらんしたい。めっちゃしたい。
でも、早めに魔王全部ボコっておけば後が絶対に楽だと思うし。早期の迅速な対応って大事だし。我が家の平和のためにも必要な措置ではないかと思う。
「どぉぉせ、あのウッカリ女神が封印をウッカリ壊したのよ」
「………そういえばぁ……魔王が復活した日にミスティア様が何かをこわしていたようなぁ………」
プクプク君の一言で、場が一気に静かになった。
え?それって……?まさか………??
「プクプク」
誰よりも早く硬直から解けたピエトロ君がプクプク君に話しかけた。プクプク君は首をかしげる。
「なぁにぃ?」
「姫様に頼んでスイーツを食べ放題にしてやるから、全力で!詳細に!思い出せ!!」
プクプク君の瞳が光った。なんか怖い。私を睨んでるのかってぐらいに見つめてきた。
「いやまあ、うん。バナナの件もあるし、今すぐは無理だけど……魔王の件が片付いたらごちそうするよ」
そして、全力で詳細を思い出したプクプク君によれば、ウッカリ女神がコケて魔王の力を封印する神器を落としてしまった結果……魔王が復活したらしい。本来なら、復活はあと五百年は先だったのにとアワアワしているところまでプクプク君は目撃していた。
「有罪だね」
あの、ピエトロ君?怖いんだけど?なんだかパリパリ鳴ってるんだけど??離れていても痺れるんだけど???
「ピエトロ、やったれやったれ」
「私達のぶんまでぇ、お願いねぇ」
そしてそれを煽る娘達。娘達の目も怖い!ケビンはどうかな?……ケビンの尻尾がぶわってなってる!ケビンも娘にビビってる!!
「殺ってきます!」
「殺ったらダメ!!軽いお仕置き程度でいいから!そもそもここの女神なんだし、死んだらもっと大変なことになるかもしれないし!」
「チッ」
ピエトロ君が舌打ちした。なんか、どんどんがらが悪くなっている気がするよ?
「えっと、いつもありがとう。ちゃんとお願い聞いてくれたら、ピエトロ君も日頃の感謝を込めてスイーツ食べ放題に「ちゃんと手加減してくる!」
ピエトロ君は爽やかな笑顔を見せてから空へ飛んでいった。
「ママ、当然ワタシ達にもご褒美くれるわよね?」
「もちろんよ!可愛くてお利口さんなんだもん!いくらでも!!」
雪那からおねだりなんて、初めてじゃないかな!?なんでも買ってあげるし、やる!!
「……皆で、お菓子を作りたい。それで、皆で食べたい」
「すごくいいね!」
うわ、それ絶対に楽しいやつ!クレープ焼いて、皆で好きな具材を巻く?それより、ケーキを焼いてデコレーション?プリンにして、混ぜたりする??
「ゆきもやるー!」
「みゆもー!!」
「ああ、皆でやろう」
雪斗も深雪もケビンも賛成みたい。約束をして、私達は旅に出た。
「こけこっこーい!!」
あてもなく世界を飛び回るわけにはいかない。そんなわけで、元魔王なひよこを連れていくことになった。ケビンと私と、死んだ瞳をしたサズドマとシャザル君がダチョウに乗って飛んでいる。
「屈辱だ……」
正直、魔王を倒したのはバナナなのだが投げた私が倒したことになったらしく、元魔王なひよこは私の守護獣になったそうだ。育てば強くなるらしいが、今はただのひよこにしか見えない。そして、バナナでやられたせいか納得がいかないらしい。
そもそも、私の身体能力はこの中でダントツに低いしねー。そりゃあ納得がいかないね!
「仕方ないじゃない。それとも、うちの部下をいたぶった仕返しで焼き鳥としてディナーになる?」
「ぴいいいい!?ナマ言ってサーセンっした!!」
守護獣というか、守護鳥になったせいか、魔王だった時より言葉がハッキリと聞き取れる。
「で、魔王はどこ?」
「もう少し先です!サーセンっした!!」
ふと気がついたのだが、乗っているダチョウも震えている。
「………ダチョウさん達は何があっても食べないからね?」
「こけこっこぉぉい!!」
「こけえええ!!」
何故だろう。明らかにダチョウ達がホッとしたっぽい。
「ご主人様!二度と生意気言わないので焼き鳥だけは何卒……何卒ご勘弁を……!!」
あまりにもひよこが必死なので、完全に冗談だと言うタイミングを逃してしまった。
「雪花……」
「いやその……ちゃんと役に立てば、焼き鳥にはしない」
ケビンは基本、弱いものを守ろうとする。純粋な瞳ビームが来たので頷いた。そもそも、私だって弱いものをいたぶる趣味はない。
「誠心誠意働きますぅ!!ご主人様の旦那様、慈悲をありがとうございます!!」
「……アレ、ホントに魔王だったんか……?」
完全に低姿勢なひよこに、サズドマが呟いた。
「やかましい!我は泥水をすすろうと、生き延びるんだ!たとえご主人様が鬼畜であろうとも!!」
弱者をいたぶるつもりはないが、叩き落としたろかと思った……のだが、そうはならなかった。
真顔のケビンさんによる、私素敵談義が開始されたからだ。
ケビン以外のメンタルがゴリゴリ削れたのは言うまでもない。
「ご主人様の悪口は、二度と言いません」
「そうして」
まだ戦ってないのに、とてつもなく疲れた。旅立ってすぐ、帰りたくなったのだった。