倒してみたよ
そろそろ体調が戻り、出発となった。最初こそツンケンしていたお嬢様は、泣きながら見送ってくれた。
「必ず会いに行きますから!」
「うん。楽しみにしてるよ」
すっかり仲良くなれて嬉しいな。ここには是非、また来たい。今度は家族みんなでがいいな。家族旅行してみたい
ドラゴンに馬車を持ち上げてもらう。馬は……そういえばこっちの馬は普通に飛ぶんだったね。流石に馬車を引くときは地面を走るけど。
「うわあ……」
馬車からの景色は最高だった。
「雪花、またいつか……ふふふふふ二人で馬に乗るか?」
「うん!」
うちの子供達も楽しそうだが……ヘルマータがヤバいことになっていた。
真っ青になって痙攣……いや、コレ震えてるの?
「気にしないでください」
「昔ヤンチャして、馬から落ちたから高いとこが……だいぶ駄目なだけです」
「大丈夫じゃないわよね、それ」
「ヒャハッ、へー……高いトコ駄目なんだァ」
サズドマがニヤニヤしている。これは放置すると馬車を揺らしたりとかろくでもない事をするパターンだ。ちらり、とシャザル君を見た。シャザル君がイイ笑顔で頷いた。
シャザル君は基本的に近距離ならばサズドマより強い。シャザル君はサズドマに足払いをして無理矢理座らせ、末娘を抱かせた。本当に一瞬の出来事だった。娘を抱っこしていた私もいつの間にシャザル君が抱いたのかわからない。
「だーう?」
「フシャアッ!??」
腕の中の赤子に気がついたサズドマは硬直している。末娘はごきげんである。よかったよかった。
「シャシャシャシャザルぅぅ……」
サズドマが涙目だ。なんでそんなに赤子が駄目なんだろう。
「サズドマ、姫様に、何か、あったら、どう、するのかな?」
シャザル君の目がマジだ。サズドマもそれを悟ったらしく、赤ちゃんがいるので座ったまま頭を下げた。
「マジで悪かった!」
「よし。罰として、空の旅をしている間は交代なし」
「はぁ!?」
「何か問題でも?」
シャザル君はやはり、カダルさんの弟だった。追い詰めかたがとても似ているよ。あと、黒い笑顔がよく似ている。言うとへこむから言わないけど。
こうして、サズドマ以外は平穏に過ごせるかと思ったのだが………。
何やら、うちのドラゴン君が別ドラゴンに絡まれている。人語ではなくギャオギャオ言ってるからドラゴン語だろうか。通訳のオウムさんを出して確認した所、なんで人間を運んでいるのか。下手に殺すと面倒だぞ。どっかに置いてこいとかなんとか。
うちのドラゴン君は雪斗達にボコられて忠誠を誓ったとは言いたくないようで、上手く返事ができないのだろう。
「行って」
「こけこっこい!」
通訳のオウムさんに、状況を説明してもらった。うちのドラゴンさんは、人間の金銭を得るためにアルバイトを始めたこと。これはそのテスト飛行であること。また、人とドラゴンの新しい在り方を模索していること。
『そうだったのか……』
『我らも参加することはできるか?』
「もちろんです!交代要員も欲しかったのでありがたいです!」
ドラゴンさん達は、他にも声をかけてくると飛び去っていった。ラッキーだね。
「流石はママね……」
愛娘である雪那さんがあきれたご様子である。私、なんかやった??
「え?」
「普通にドラゴンを勧誘するとか、意味わからないわ」
愛娘である雪那さんが頭を抱えてしまった。え?いや、交代要員欲しかったし……。
「主の母君は肝がすわっているな。普通のヒトはドラゴンを見たら泣きながら命乞いをするぞ。空中で複数のドラゴンを相手に……我が裏切るとは思わなかったのか?」
「いや、裏切ったら倒すし。出産終わったから魔法使い放題だもん。負けないよ」
空にペンギンとダチョウが出現し、こちらを狙っていたプテラノドン的な奴らを迎撃した。
「…………ぬあああ!?ちょ!?マジで!?」
「うあ………」
「「ないわー…」」
「ママ………」
それどころではないサズドマとヘルマータは微動だにしていないが、ドラゴン君とシャザル君と双子騎士と雪那がドン引きしていた。
「流石は雪花だな」
「ママ、つよい!」
「わー、あれおいしいのかなぁ?」
ケビンと雪斗と深雪は通常運転だ。
プテラノドンがたくさん来たので、私のペンギンとダチョウを増やして対応した。鞄にプテラノドンの死体をダチョウが運んでくれるので、私はしまうだけ。
「し、信じられぬ……主の母君は……何者なのだ!?」
「普通の人間ですが」
「いやいやいや!あれはドラゴンすらも獲物にする、トッテモツヨインダドンだぞ!?」
「…………はあ」
名前が斬新すぎて情報が脳内に浸透してこない。よくわからないが、強い魔物なんだね。ふーん。ケビンも口を開けていたので、なんかやばい生き物だったというのはなんとなく伝わった。倒したものは仕方ない。とってもお肉がおいしいそうなので、夕飯に期待しよう。現実逃避をする私であった。