頼もしい家族なんだよ
家族が増えた件を護衛であるサズドマ達に説明した。ちなみに護衛として残ったのは、サズドマ、シャザル君、双子騎士、ヘルマータ。ローテーションで護衛するらしい。
「話はわかったけどよォ、もうオレらいらなくねェか?」
「うふふ、活動時間に限界があるから、万能ではないの」
母いわく、睡眠なんかの休息は基本不要だが魔力を使いすぎると休眠しなければならないらしい。
「そうなんですね……わかりました!」
慣れた手つきで娘をあやしていたシャザル君。何かを察知して逃げようとしたサズドマに娘を抱かせた。一瞬の出来事だった。
「フギャアアアアアア!?」
「びやああああああ!!」
いきなり娘を抱かされて驚いたサズドマの声に娘が驚き、号泣した。こんなにアワアワするサズドマは珍しい。
「………サズドマはどうしたんだ?」
「へ、ヘルマータでもいい!助けてエエエエエ!!」
サズドマは必死である。双子騎士がアイコンタクトをして頷いた。
「サズドマさんは赤ちゃんが可愛すぎて叫んだのです」
「サズドマさんはちょっと不器用なのです」
「なるほど」
「納得すんなアアアアア!!」
「びやああああああ!びやああああああ!!」
サズドマの叫びに、落ち着きかけていた娘がまた泣いた。なんという負のスパイラル。
「ヒメサマもボーッと見てねェで助けてくれよ!マジで!!」
そろそろかわいそうだし娘も泣き疲れるだろうから、サズドマを娘から解放してあげた。サズドマは地面でぐったりしている。
「そんなに赤ちゃんが苦手なの?」
「無理。怖い。支えてないと首もげるとか意味わかんねェ」
「もげないわよ」
「折れるかもしれないの間違い」
私とシャザル君がツッコミをいれた。赤子はそんなに脆くないというか、もげたら怖すぎる。
「なんであんなフニャッとしてるわけェ!?」
「赤ちゃんだから」
「なんであんな温かいわけェ!?」
「赤ちゃんだから」
「なんであんな危なっかしいから守ってやらなきゃとか思っちゃうわけェ!?」
「可愛いから?」
「可愛いからですかね」
苦手ながらもサズドマなりに庇護欲があるらしい。いいことだと思う。
「サズドマ、赤ちゃんは可愛くないと生きられないのよ」
「へェ?」
「人間の赤ちゃんはお世話されないと死んじゃうから、その可愛さで母性本能を刺激して生き延びているのよ」
そうなのか……とサズドマが納得しかけたところで、シャザル君が爆弾を投げた。
「………つまり、サズドマは母性本能を刺激されて戸惑っているんですか?」
しん、と場が静まり返った。
「ンなわけあるかァァァァァァ!!!」
「あははははははははははははは!!」
「「ぎゃははははははははははは!!」」
キレるサズドマ、爆笑する私と双子達。シャザル君の発想が面白すぎる!!笑いすぎてお腹が痛い。
「サズドマ、いつの間に母親になったんだ?」
またしん、と場が静まり返った。ヘルマータはふざけたわけでもなく、本気でサズドマを心配しているようだ。
「なってねェわァァァァァァァ!!!」
「「「「あははははははははははははは!!!」」」」
「そうなのか?」
ヘルマータはやはり悪気があったわけではなさそうだ。穏やかにニコニコしていた母が、ヘルマータへ話しかけた。
「ヘルマータちゃん、きっとマタニティブルーよ。妊娠するとイライラしたり不安定になるの」
「そうなのですか!勉強になります!!」
「チッガァァァァァウゥ!!!!!!」
母よ、やめてくれ。脆弱な我が腹筋が崩壊する。そうだ。うちの母はこういう人だった。イタズラ大好きな人だった。
「うふふ、サズドマちゃんもヘルマータちゃんも面白いわねぇ」
「ウガーーーーー!!!」
サズドマは走り去った。うちの母に完全敗北だった。
「はっ!お褒めにあずかり光栄です!」
ヘルマータには通じていなかったが、ある意味褒めたので間違いでもない。とりあえず、サズドマが妊婦……妊夫??であるという誤解は解いてあげた。
「楽しい旅になりそうですね」
「ママ!ゆき、狩りした!!」
褒めてくれと駆け寄る我が息子。そこには、立派なドラゴンがガクブルしながら泣いていた。
「立派な獲物だろう!?」
「わん!」
父とコロは、いつの間にか異世界に適応しまくっていたらしい。
「返してらっしゃい」
「ドラゴンはうまいし、鱗も爪も牙も高額だぞ?」
何でそんなことを父が知っているのだろうか。ドラゴンは、もはや痙攣しているか心配なぐらいに震えている。
「かわいそうでしょう?」
「えー?このよはじゃくにくきょーしょくだってカダルがいってたよ。だからよわかったドラゴンはお肉になるんだよー」
「ひいいいいいい……」
ドラゴンが泣いている。間違っちゃいないのでどうしたものか。しかし、ドラゴンってもっとこう、プライドが高い生き物ではなかったのか。シャザル君とヘルマータ、双子騎士もよく見たら顔面蒼白でガクブルしている。
「あ、そうだ。ねえ、選ばせてあげる」
我ながらいい案を思いついた。ドラゴンは提案に同意した。ドラゴンは定期便……乗り物として働くことになったのだ。
「………やっぱ、オレら…いらなくねェか?」
しばらくして戻ってきたサズドマ。雪斗とじゃれるドラゴンを見て、悟りをひらいたかのような顔になっていた。
「いや、ドラゴンがいきなり城に来たらびっくりするから、必要だよ」
「ヒメサマに、護衛の意味を説明したいわ」
サズドマからかなーりガチのお叱りをいただきました。今回、私は悪くないと思うんだけど!!ちなみにケビンは普通に雪斗を褒めてました。もーやだ!この家族!!!!とサズドマがふてくされたのは言うまでもない。